【IOF_34.log】貨幣
お金の話になったので、これはちょうどいい機会です。この国の貨幣価値を訊いておきましょう。
「ところで閣下、わたくしは、この国の貨幣価値を存じ上げません。恐れ入りますが、どなたかからご教示いただけますと幸いです」
「おお、そうか。フクハラ様の国とは貨幣が異なるのだな。承知した、のちほどセバスに謝礼を部屋まで持たせる。その折に詳しく説明させよう。ああ、鍛冶屋もそのときに伝えよう。ヘキチの紹介だと言えば悪くはされんだろう。セバス、よいな」
「は、仰せのままに」
もう一つ大事なことを確認というか許可をもらわなければならないことがありました。
「いま、わたくしたちの署は、クソウズ池近くの広場にございます。あの場所がどなたかの所有でないのであれば、わたくしどもに土地の利用をお許しいただきたく存じます。併せて、クソウズ池から原油を採取する許可と、安全のため池周辺への立ち入り禁止措置もお許しいただきたく」
「どちらも問題ない。許可しよう。あの広場はクソウズ池視察のときにしか使っていなかった領主直轄の地だ。元々使い道もない。死の池と呼ばれているくらいだから近寄る者もおらんだろう。好きに使ってよい。なんならあのあたり一帯をフクハラ様の所有地にしてやろう。開拓したところもフクハラ様のものにして構わん」
「大変ありがたいお申し出でございます。しかしながら、わたくしも任務中にこの地に参ったもの。任務の過程で所有するに至った土地や権利をわたくし個人のものにすることは財政のルールに反します。一旦は、使用のお許しをいただくことで開発に着手し、所有権の問題が本国と調整できた暁には、改めて土地をお譲りいただきます」
「フクハラ様は、欲がないというかルールに忠実というか……承知した、まずは一帯の使用と開発、合わせてクソウズ池の立入禁止措置に許可を出すこととする。所有権については、時機を見て申し出よ」
「ありがたき幸せ」
最後は土地の話になって晩餐が終わりました。思っていたより和やかに終えることができたと思います。南畝主任は、ぐったりしてますね。お疲れさまでした。
客間に戻るとマーガレットさんがお茶と焼き菓子を供してくれました。ありがとうございます。そんなに気を遣わなくていいんですよ。
あ、半目で睨まれました。「わたくしの仕事を奪わないでください」ということですね。はい、すみません。遠慮なくいただきます。
マーガレットさんが部屋を退いたあと、一人静かにお茶を楽しんでいるとドアがノックされました。
「セバスチャンにございます」
晩餐の席で約束した通りセバスチャンさんが来てくださいました。入室の許可を与えます。
「失礼いたします」
部屋に入ってきたセバスチャンは、右手で革袋の上の口を持ち、左手を底に添えています。ずっしりと重そうです。想像するに、あの中身は大金貨ですね。
「まずこちらが謝礼の大金貨100枚でございます。複数の目で確かめてございますが、お検めになりますか?」
いえいえ、みなさんのことは信用しています。そのままで結構です。
セバスチャンが革袋を丸テーブルの上に置きました。袋の中の大金貨が崩れてじゃらっと音がします。
「続きまして、この国の通貨についてご説明申し上げます」
「はい、よろしくお願いします」
セバスチャンさんの通貨講座が始まりました。
セバスチャンの説明は、通貨ごとに何が買えるのかという実例を交えてくれるので実感としてイメージがつかみやすいです。こういう、人にものを教えるのが得意な方は尊敬してしまいます。私はどうにも苦手なんです。
教えていただいた話を総合すると、この国での通貨制度は、おおむね次のようになっていました。
銅貨 = 100円(パン一個、水代、小物など)
銀貨 = 1,000円(一日分の食費、木賃宿)
大銀貨 = 5,000円(庶民の週給、馬車の片道代くらい)
金貨 = 10,000円(日雇い労働者の一週間分の賃金、家族で数日暮らせる)
大金貨 = 50,000円(騎士の月給一か月分程度)
白金貨 = 100,000円(お屋敷の家具や馬一頭が買えるレベル)
庶民から貴族までが日常で使う通貨はここまでで、その上に大額取引用通貨として「札」というものがあるそうです。札は、白金の板に細かい意匠の彫刻が施されたもので、札に使われている白金の価値と貨幣としての価値は釣り合っていない。つまり、金本位制から脱却する萌芽を見て取れます。
星札 = 100万円相当(王侯や大商人が屋敷・領地の取引に用いる)
神札 = 1千万円相当(王家、神宮、国家間でのやり取り専用)
神札のレベルになると、庶民はもちろん貴族でも目にすることはないそうです。
今回、ローレル様救助の謝礼として大金貨100枚をいただきました。教えてらった通貨基準に照らすと、日本円に換算して500万円です! 一気にお金持ちになった気分です。いえ、私のお金ではないので落ち着きましょう。
このお金で署員のみなさんにお給料をお支払できるのでは。
だけど、勝手に現地の通貨建てでお給料を支払ってしまっていいのかしら? 日本円で支払うのが正しいのだろうけど、日本円でもらってもこちらでは使えませんし……
それにこの大金貨100枚は、そもそも都費ではありません。都費でも国費でもないところから給料をお支払いするのは理屈に合いません。帳簿上だけでも都費として受け入れてもらってからお支払いすればいいのでしょうか?
悩みは尽きません。小路さんと相談ですね。
そもそも、大金貨1枚が日本円で50,000円相当ということですけど、これ1枚で騎士の1か月分の給料なんですよね。ちょっと日本の貨幣価値と乖離がありそうです。貨幣価値に乖離があるということは、金の値段が違うと考えるべきですね。




