【IOF_28.log】カップラーメンをすする神
「ずずずーっ!」
創造神様ともあろうお方が、そのような食事マナーに反する食べ方をなさるなんて!
しかも、スープが飛び散り、お召し物を汚しておりますわ。せっかくのスーツが……
え、これがニッポンコクでのラーメンの食べ方なのですか?
え、早く食べないとメンがスープを吸ってぶよぶよになってしまうのですか?
わたくしは、恐る恐るフォークでメンをかき混ぜ、少量のメンを口に運びます。
熱くてそのままでは食べられリリヤりませんわ。やはりリリヤ様がなさっていたように、ふーふーとしてからいただくことにいたします。
さすがに勢いよくすすることは恥ずかしくて無理ですの。
ふーふーしても、なかなかの熱さで、少量ずつしか口に入れることができません。
「あのずずずーっとすするのは、口に運ぶとき一緒に空気を通すことで熱い麺を冷まして食べやすくするという利点もあるんです」
なるほど! 急いで食べているだけではないのですね。きちんとした目的があったとは目から鱗ですわ!
それにしても、このカップラーメンという食べ物は、たいそう美味でございます。このような美食が備蓄品だとは驚きを禁じえませんわ。我が国での備蓄食料といえば小麦と決まっております。一品の料理として完成された備蓄品など存在いたしません。感動のあまり麺を勢いよくすすってしまいましてよ。
あら、食べやすいですわ。
ほら、マーガレットもおやりなさい。
できない?
仕方ありませんわね。あなたの分もわたくしがすすって差し上げますわ。
「ずずずずずーっ」
ああ、美味ですわ。
「フクハラ様、このカップラーメンなる食品を我が領で購入させていただくことは可能かしら?」
「申し訳ありません。署で備蓄しているだけしかございません。なにぶん異世界に転移してしまったもので追加で手に入れることができません。ご購入はご容赦いただきたく……」
「そう。そういうことなら仕方ないわね」
「ご理解いただき感謝いたします」
いけない! 神の使徒であらせられるフクハラ様に頭を下げさせてしまいましたわ!
「よく『貴族のお願いは命令』だと言われることがあります。ですが、わたくし、いえ父である辺境伯も、決してそのような無体を働くものではありませんわ」
「ご立派なお父君でいらっしゃいます」
あああ、お父様が使途様にほめられましたわ! これは、帰ったらお父様にお伝えしなければっ。
「正村さん、保護簿はできあがりましたか?」
ソファからすっと立ち上がったフクハラ様が部屋の入口から外に向かって声をかけられます。
「はい、できてます」
「ありがとうございます。では、それをお預かりして、お二人をお屋敷まで送ってきます」
フクハラ様がショウムラと呼ばれた女性から書面を受け取り、鞄に収められました。
「お食事が済みましたらお屋敷までお送りします。あ、リリヤさんは、テーブルの上をちゃんと拭いておいてくださいね。お汁を飛ばしたのはリリヤさんなんですから」
「えー、私神なんだけどー」
リリヤ様が不貞腐れていらっしゃいます。天罰がくだらないことを祈りますわ。
なんと申しますか、わたくしが抱いていた神のイメージが根底から崩れていくのを感じております。いえ、決して悪い意味ではなく。むしろ神をより身近に感じることができ、信仰心が亢進しているところですわ。
それにいたしましてもこのスウェットスーツ……やばいですわ。
「すみません、お屋敷にお送りする前にクソウズ池の場所をご案内いただけますか」
よろしくてよ。
「可愛さん、硫化水素のガス検知管とデジカメを持って着いてきてください。奥山係長は、私たち3人の腰にロープを結索して20メートルくらいあとを着いてきてください。万一、誰かが倒れたら、すぐにロープを引いて現場から離脱させてください」
「了解っす」
「了解しました」
全員の準備が整ったことを確認したわたくしは、ショの玄関から北の山に向かって進みます。
広場から森に入ると、以前の視察で踏み固められた獣道のような細い道を見つけることできました。この道を進めばクソウズ池に至ることができますわ。
「ラッキーっすね。今日は風向きが北西なので、この進み方なら硫化水素がこっちに流れ来ることはないっす」
カワイ様が人差し指を天空にかざして何かを占っていらっしゃいますわ。
「比較的危険が少ない状況のようです。このまま進みましょう」
フクハラ様が前進を告げられます。
森に踏み込んで二チョーほど進んだところでクソウズ池独特の臭いが漂って参りました。
30ケーンほど先には黒い水をたたえた池が見えておりますわ。あれがクソウズ池、又の名を死者の池。ぶるぶる
「チョーとケーンは、長さの単位ですか?」
フクハラ様のおっしゃる通りでしてよ。
ケーンは、先ほどスウェットスーツに着替えさせていただいた更衣室にあった物入の幅くらい。チョーは、ちょーっと長くなりまして、ここから広場に戻る距離の半分くらいですわ。よく分からない説明で申し訳ありませんわ。お屋敷に帰ればケーンの原器があったはずですの。
「硫化水素っすね。あと、あれはたぶん原油っす。気泡ができてるっすからメタンも湧出してるはずっす。うまくすれば天然ガスと石油が使えるっす」
カワイ様が細いガラス管を取り付けた片手で握れる程度の筒を操作しながら、よく分からないお話をしていますわ。やはりニッポンコクは神がかっていますわね。
「そうですか。では、これ以上近づくのはやめて署に戻りましょう。ローレル様、ご案内ありがとうございました」
よろしくてよ。フクハラ様のお役に立てたのならわたくしの喜びといたすところですわ。




