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【IOF_21.log】神が現れた

 こんにちは。

 ヘキチ辺境伯閣下の娘、ローレンシアお嬢様のメイド、マーガレットにございます。

 仰せのままに。


 お嬢様のわがまま(いつものこと)に付き合い、光の柱が降り立ったと思われる場所に向かう途上、馬車に野生動物のノライノが突っ込み、その勢いで街道を外れ、路傍の石に乗り上げて馬車が横転するという事故に遭いました。その事故で馬車は走行不能と相成りました。

 閣下もわたくしもお止めいたしましたのに、言うことを聞き入れていただけず、この有り様でございます。あのクソガ……お嬢様にも困ったものです。


 このような事態に至ってしまった以上は、いかにしてお屋敷まで、あるいは最寄りの民家までたどり着くかを考えねばなりません。いえ、結局歩くしかないという結論は見えております。それでも、検討したという形式が重要なのでございます。異論? わたくし、暗器をたくさん仕込んでおります。悪しからず。

 持参しておりました軽食とお飲み物をお嬢様にご提供して、暖をとるための火をおこし、3人で火を囲んでおりました。

 お嬢様の聞くに堪えない下品なご発言に心を痛めていたときのことでございます。突然、お嬢様がおかしなことをおっしゃいました。いえ、先のお下品発言のような意味での「おかしい」ではございません。ごく一般的な「不審な発言」という意味でございます。


「どなたかいらっしゃいますの?」

 お嬢様は、ご自身の背後を振り返り、森に向かって声をかけました。

 わたくしも、前職の経験から、人の気配を察知する能力は人並み以上にございます。しかし、今、周囲には人の気配を感じることはできません。

 お嬢様は、気配察知の能力をお持ちでないはずです。ただ、ときどき「白い(もや)が飛んでる」といった訳の分からないことをおっしゃることがございます。おそらく、今回もそのたぐいのものをご覧になったのではないかと推察いたします。

 わたくしの気配察知にかかる者はいない旨をお伝えすると、首をひねっておいででしたが、最終的にはご納得いただけたようです。


 それから、どれほどの時が経過したでしょうか。正確なところは分かりかねますが、太陽が真上を通り過ぎたあたりで、わたくしの気配察知が人の気配を捉えました。

「近くに人がおります」

 わたくしは、お嬢様にお伝えいたします。

「人が? 助かったのですね!」

 お嬢様のいつもの早合点です。

「まだ助かったとは決まっておりません。賊の可能性もございます。お嬢様はその場を動かぬようお願いいたします」

 わたくしは、袖口から細身のスティレットを取り出して逆手に構えます。


 その他に多数の暗器を携えているわたくしは、仲間内から「歩く武器庫」と呼ばれております。

 暗器の一例をご紹介いたします。

 メイド服のゆったりとしたドレープを描くスカートの下には、誰も想像しえない数の小さなダガーナイフがガーターベルトで固定されております。スカートをたくし上げてナイフを取り出す様は特定の嗜好をお持ちの殿方に好評と聞き及んでおります。クソが。

 袖口には、先ほど申し上げた突き刺しに特化した細身のスティレットと投げ針。スティレットでとどめを刺すのは騎士としての慈悲でございます。投げ針には、痺れ薬を塗布しています。

 ブーツの中には、刃渡り10センチほどの平凡なブーツナイフが数本。平凡と申しますと、たいしたことがないように受け取られがちでございますが、とんでもない勘違いでございます。平凡ということは、そのデザインが秀逸で長きにわたり使い込まれた、いわば「枯れた」ものであることを意味いたします。なめたらいかんぜよ。

 腰のコルセット裏には、刃を折り畳める奇妙な仕込み刃。これを取り出すのは最終手段でございます。衣服まではぎ取られ、もはやここまでかという状態になりませんと取り出すことができません。これを見た者には死あるのみでございます。もしくは、お嫁にもらっていただきます。

 すべては一瞬で取り出し、一瞬で仕舞えるよう配置されております。


 ほどなくして、お嬢様とわたくしは驚愕することとなります。

「なんなんですの! 大きな動く箱がこちらに近づいて参りますわ!」

 森の木々の間を縫うようにして、二つの大きな箱がこちらに向かって参ります。

 見たこともない形です。

 馬が引いておりませんので馬車ではなさそうです。

 馬が引かずに動いているところが怪しさを強調いたします。

 とてもよく澄んだ大きなガラスの向こうには人の姿らしきものを認めることができます。箱の中には人がいるようです。

 わたくしは、お嬢様と怪しい箱の間に入り、背後にお嬢様を隠し、スティレットを構え殺気をみなぎらせます。わたくしの殺気は、相手を威圧するに十分な効果を発揮いたします。通常であれば、これだけで戦闘は回避することができます。左手にはダガーナイフの準備もございます。

 その大きな箱は、わたくしどもから20ケーンほど手前で止まりました。箱からは、何か大型動物の唸り声のような低い音が聞こえて参ります。不気味です。


 先頭の箱の扉のようなものが開き、中から人が出て参りました。

「!」

 箱から出ていらっしゃった方のお姿を目にしたわたくしたち3人は、反射的に跪いて最も深い礼を執りました。

 まさに神です!

 神が降臨なさったのです。

 わたくしは、神に向かって暗器を構え、殺気を放ったことを強く恥じました。のちほど懺悔していかなる罰をも受ける覚悟をお示ししなければ。

 お嬢様は、最拝礼を執りながらも顔を上気させていらっしゃいます。


「あの、少しお話できますか?」


 神の御言葉 キタ━━━━(゜∀゜)━━━━!!

 その声は、神宮の銅鑼のように重く、竪琴の調べのように清らかで、天地が同時に鳴動するかのようでございます。

 ですが、この興奮を顔に出してはなりません。なぜなら、わたくしは冷血のアサシンであり、辺境伯家の忠実な僕。常に冷静であらねばならぬのです。

 わたくしは、慌てて暗器を納め、一歩前に進み出て深々と頭を垂れました。

「畏れ多くもテンテル様。先ほどはご無礼をいたしました。わたくし、辺境伯家に仕えしメイド、名をマーガレットと申します。こちらにおわすは我が主、辺境伯のご息女ローレンシア・コリ・ヘキチ様にございます。幼き頃より閣下とともに辺境の地を護りし御方にございます」


「す、すみません。私はテンテルではありません。よく似ているらしいですが、別人です」


 へ?


 思わず間の抜けた声を上げてしまいました。

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