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【IOF_19.log】FU○Kですわ!!

 そして翌日。

 星々が最後の瞬きを見せる頃、わたくしとマーガレットは馬車でお屋敷を出立いたしました。

 お父様はまだ夢の中でいらっしゃいます。

 誰にも見つからずに抜け出すことに成功いたしましたわ!

 朝もやの中、馬の蹄が小気味よく響き、まるで静かな旋律を奏でているようでございます。

 ここまで順調。楽勝でございますわ!


 ……などと調子に乗ったことを口走ったあとには、必ずや不幸が訪れる。これ、物語の定番でございます。

 そして例に漏れず、わたくしもきっちりと不幸に見舞われましたの。

 光の柱が降りたあたりへ続く道は一本きり。山中の街道ですが、峠を越えれば隣国へも抜けられる要路で、馬車が行き違えるくらいの幅はございます。

 時刻が時刻ですので、すれ違う旅人もなく、2刻ほどが過ぎたころのことでございます。

 楽勝ですわと油断していたところ、突然、どかん! という衝撃音とともに馬車が大きく揺れたのです!

「な、なんですのっ!?」

 衝撃で馬車は進路を外れてしまいました!


 ああもう、大変ですわ! 危機ですわ! ピンチですわ!

 わたくし、ただいま絶賛パニック中でございますの!!


「ノライノに突っ込まれました! 馬が暴れて御せません!」

 御者が悲鳴のように叫びます。

 キャビンの中からは様子が見えませんけれど、どうやら街道から逸れて森の中に向かっている気配がいたします。

 わたくし、いったいどうなってしまいますの?!

 馬車はがたがたと激しく揺れたかと思うと「ごんっ!」と強い衝撃とともに大きく跳ね上がりました!

 その勢いで、わたくしは対面にいたマーガレットの胸元へ投げ飛ばされてしまいます。

「お嬢様!!」

 とっさにわたくしを抱きとめたマーガレットが、くるりと身を翻し、覆いかぶさるようにわたくしを守ってくれましたの。頼りになりますわ。

 跳ね上がった馬車はそのまま横倒しとなり、右側面を地に打ちつけて急停止。


 ……助かった……わたくし、生きておりますわ!

「お嬢様、お手を」

 天を向いた扉をこじ開けたマーガレットが、無表情のまま手を差し伸べてくれます。

「ありがとう。外はどうなっているの?」

 手を取りながら問いかけます。

「どうやら石に乗り上げて横転した模様です。御者は投げ出され、そこいらに転がっております。お急ぎください。さ、お手を」

 この緊迫した場面でも微動だにしない表情、半分でいいからわたくしに分けてくださらない?

「ぶきゃっ!」

 キャビンから引き出され外に出た瞬間、マーガレットを巻き添えにして転がり、ふたりで地面にごろり。

 自分の変な声に赤面のわたくし。

 土まみれのお嬢様のでき上がりでございます。

 おまけに転げたときに小枝にでもひっかけたのでしょうか、ドレスのスカートが腰のあたりまで破けてしまいました。

 わたくしの脚が露わですわ!

 貴族子女としてあり得ない痴態ですわ!


 Fu〇kですわ!!


 清浄の魔法とか、回復の魔法とか、どなたかご存じございません?

 そうでございますわねえ、ときおりお屋敷の中をふわふわと飛んでいる白い靄が見えることはございますが、魔法などは物語にしか出てまいりません。少なくともオヤシーマ王国においては存在いたしませんの。残念!


 馬車はもう自走不能。御者は馬を解き放っております。

 ぷんすこしていても始まりません。

 こう見えてわたくし、危機管理能力には優れておりますのよ!

「私の補佐があればこそでございます」

 マーガレット、お黙り。

 さて、馬車で2刻ほどの距離。ここから徒歩でお屋敷まで戻れば大変な時間を要します。

「どなたかいらっしゃいますの?」

 途方に暮れつつ地べたに座り込んだとき、森の中から視線のような気配を覚えました。

 もちろん、脚が見えないよう、ドレスの裾は手で押さえておりますわよ。

「失礼ながら、周囲に人の気配はございません」

 お屋敷に来る前まで、暗部のお仕事をしていたマーガレットの感覚にかからないのなら、きっと気のせいですわね。

 その考えの通り、直後に気配は森へと吸い込まれるように消えていきました。

「やみくもに動けば体力を消耗いたします。今は休息をとるのが賢明かと」

「そうね、マーガレットの意見に従いますわ」

「恐れ入ります。それでは馬車に乗せていた糧食と飲み物を取って参ります」

 そう言うなりマーガレットは、軽やかに馬車へ飛び乗りました。

 ……あなたの跳躍力は、どこから?

 ともあれ、わたくしたちは軽食を取りつつ、この後の行動を練ることといたしましたの。


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