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【IOF_17.log】幽霊さん斥候に出る

「奥多摩30から奥多摩」

 車載無線機で署を呼び出す。

「奥多摩です。奥多摩30どうぞ」

 この声は警務係の城取主任すね。

「署の前の広場で方位を確認。方位については地球と同様でコンパスは北を指しているっす。奥多摩30は、これより周辺へと検索地域を広げていくっす。どうぞっす」

「奥多摩了解。検索に当たっては、すぐに署に戻れる範囲内とせよ。なお、受傷事故防止には特段の留意をされたい。どうぞ」

「奥多摩30了解っす。以上、奥多摩30した」

 あの心配性の指示は福原代理っすね。


「ところで蓉子ちゃんや、なんで君が乗ってるんすか? あのね、そこにいるのにルームミラーに映ってないのって、軽くホラーなんすよ」


 運転席の私は、出発してから後ろの座席の幽霊に気づいたっす。

 なにめっちゃいい笑顔してるんすか。ていうか、シートベルト必要なくない? 質量ないんだから事故っても飛んでいかないっしょ。

「えへへ、警察の車に乗ってみたかったんです。シートベルトは義務ですよ、義務」

 幽霊に義務を諭されたっす。

「まあいいや。ついてくるなら仕事してもらうっすよ。ちゃんと周りの警戒頼むっす」

「はい、任せてください!」

 よし、いいドヤ顔だ。頼んだっすよ。


 さて、まずは署の周りっす。

 署の周りをぐるっと一回りしてみたっす。

 外壁はそのまま残っているっすね。ということは、外壁と庁舎で囲まれた部分が転移してきたと考えてよさそうっす。外壁があって助かったっす。多少は不審者や動物の侵入を防ぐことができるっすから。

 今のところ、野鳥が飛んでいる姿を見ることはあっても、その他の動物は発見できないっす。無論、ドラゴンが飛んでいたり、ゴブリンのような魔獣が闊歩していたりなんてことも(今のところは)ないっす。スライムとは仲良くなってもいいかもしれにゃーす。

 ま、こっちは神とか幽霊というなかなかに強烈なお仲間のおかげで、ファンタジー存在は間に合っているっす。

「あー、ときに蓉子ちゃんや。このあたりで人や動物の気配がするかどうかって分かるっすか?」

「え? 私、たぶん普通の幽霊ですよ? 普通の幽霊さんて、みんなそういうことが分かるんですか?」

 昨日幽霊になったばっかじゃ付与されたスキル意外の能力は分からないのも無理ないっすね。

「うん、普通の幽霊がどうかは私にも分からないっすけど、もしかしたらそういうことが分かったりするかなーと思って訊いてみただけっす。南畝主任、なんか知らないっすか?」

「そうだなあ、俺も幽霊には知り合いがいないからちょっと分からないぞ」

 南畝主任が苦笑いしているっす。無茶ぶりさーせん。


「幽霊のお師匠さんが欲しいですね。気配察知っていうことは、自分の意識をこう周りに広げていくような感じなんでしょうか。うーん、こんな感じかな? おやっ? あれっ? およよ? なんか人がいますね」

 蓉子ちゃんが口を尖らせて難しい顔で腕を組むっす。

「お! 蓉子ちゃんすごいっす! 人ってどこに? 人数は? いい人か悪い人かは分かるっすか? 敵意とかは?」

 人がいるということを聞いて、少し興奮してしまったっすっす。

「そ、そんなにいっぺんに色々訊かれても……えっと、そうですねえ、あっちの方にいるみたいです。それほど遠くない感じ。人数は……1……2……全部で3人ですね」

 蓉子ちゃんが「あっちの方」と指を差したのは南東っす。


「南畝主任、どうするっすかね。行ってみるっすか?」

「いや、俺たちだけで独断専行するのはまずい。まずは宿責に報告して指示を仰ごう」

「了解っす。ところで、蓉子ちゃんて、隠密のスキルで人から姿を見えなくすることってできるっすか? それとも常時見えちゃう人?」

「そうですねえ、幽霊歴が浅いから断言はできませんけど、たぶん私は人からは見えないのがデフォみたいです。こうしてみなさんから見えているのは、私が見て欲しいと思っているからじゃないかと。あ、でも、やっぱり姿を隠してても霊感の強い人には見えちゃう可能性が微レ存というかなんというか……ひょっとして隠密のスキルいらなくない?」

 蓉子ちゃんが両手の指を合わせ、人差し指をくるくると回しながら申し訳なさそうにしているっす。分からないっすよねー、昨日の今日だもん。やっぱりあの神はあてにならないっす。

 周辺に人がいるという割と重要な情報を得た私たちは、車を署の裏庭に戻し、これまでの探索結果とともに福原代理に報告したっす。

「人の気配ですか。それは吉報なのでしょうね。人も住めない山奥だとか放射線に汚染された土地だとかだったら大変です。とはいえ、人がいるということは、悪意を向けられたり攻撃されたりする可能性も考えなければなりません。おそらくですが、私たちはこの世界では異物でしょうから」

 報告を受けた福原代理がみんなに言い聞かせるように見解を示したっす。

 ただ、内容に不穏なところがあるから、ひょっとしてフラグを立ててしまったすかね。


「私、見てきましょうか?」

 蓉子ちゃんが手を挙げたっすよ。積極的っすねえ。

「え、幽霊さんがですか?」

「はい。さっき可愛さんとお話をして気づいたんですけど、どうやら私は姿を消すことができるみたいです。消すというか、消えているのがデフォらしいです。おまけにふわふわと浮遊もできるから、偵察にはうってつけですよ」

「なるほど。それはすごいですね。ぜひお願いしたいところですが、一人で偵察に行って幽霊さんに危険はありませんか?」

 幽霊にまで危険を心配する福原代理、素敵っす。

「たぶん危険はないと思います。もう死んでますしね。成仏でもさせられない限り私に害を及ぼせる人はいないんじゃないですか?」

「そうですか。そういうことならお願いします。あ、でも、警察署の任務としてお願いするわけですから報酬をお支払しないと……非常勤の主事さんなら署の予算で雇えるはず……」

 福原代理、まじめか。

「報酬は円建てですか、現地通貨建てですか?」

 会計の小路さん、クソまじめか。

「ええ……円建てでお支払いしてもこちらでは使えませんよね? かといって現地通貨建てでお支払いするための現金がありません。これは、皆さんの給料にも関係する難しい問題です。すみません、一旦先送りさせてください。あとで検討しましょう」

 福原代理、さらに輪をかけてまじめか。

「幽霊に報酬なんていりませんよ。浄化されない程度のお供えでもしてもらえれば。じゃあ、行ってきますね」

 蓉子ちゃんの姿がすーっと消えたっす。


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