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【IOF_14.log】神と酒盛り

 お疲れさまです。

 警視庁奥多摩警察署会計係主事小路結です。

 勤務中異常なし。


 私は福原代理と同じ日に奥多摩警察署に異動してきました。

 異動前は本部の会計課で都費予算の出納を担当していました。私が会計課に配置されたのは、商業簿記1級の資格を持っているからだと思います。簿記一級を取れたなら税理士とか公認会計士にでもなればよかったのにとよく言われます。

 でも、士業は、詰まるところ接客業です。私は、人と関わるのが苦手ないわゆる陰キャだと自覚しています。だから、接客業である士業には向いていません。黙々と帳簿に取り組める会計業務が性に合っています。

 奥多摩警察署に異動してまだ日が浅く、署の財務状況もまだ把握できていませんでした。だから、少し無理をして遅くまで残って仕事をする日が数日続いていました。


 その日も割と遅くなってしまったのですが、運悪く署の庁舎ごと異世界に転移するという胸熱……衝撃的な事件に巻き込まれてしまいました。

 ライトノベルや同人作品、特にBLといわれる男子と男子のあんなことやこんなことを赤裸々に描写した実にけしからん作品には目がないでござる。ぶふぉ

 失礼しました。

 普段から異世界転移ものの作品にも多く接している私ですから、恐怖や焦りのような感情はなく、無表情なままアドレナリンを大放出してしまいました。

 しかも、そこに幽霊と自称神の変な女まで現れて、一気にファンタジー要素が増してきました。

 あ、神が酒盛りに備えて着替えてくると言って姿をくらませました。能力だけをみれば神のようですが、言動からは神であることを疑いたくなります。

 この自称神、ちょいちょいお嬢様言葉が混ざります。実は、いいとこのお嬢様だったりするのでしょうか。


 明日の朝にならないと外での活動もできないということで、今晩は捜査本部の冷蔵庫に入っていた缶ビール飲みながら夜明かしすることになりました。論理の飛躍もここまでくるとむしろ清々しさを感じます。

 福原代理がいいと言っているので服務規程には抵触しないのだと思います。もっとも服務を監督監視する人事一課の監察係がいないから、誰にも気兼ねすることもないのですが。

 さっきまでローマ風の衣装を着ていた神がスウェットの上下に着替えて戻ってきやがりました。本気でタダ酒を飲むつもりのようです。こいつクズだな。

「まがりなりにも当番責任者なので私は遠慮しておきます。皆さんは冷蔵庫を空にする勢いでやっちゃってください」

 福原代理は、変なところで真面目です。誰にもバレないだろうに、ご自分の責任を果たそうとします。そういうところを見ている、こういう人は裏切っちゃいけないと思います。


 特に乾杯の音頭もなく、各々が缶ビールのプルトップを引き上げて軽快な音をたて、ビールを喉に流し込んでいます。つまみは、捜査本部にあった乾きものと警備の備蓄から缶詰を少し拝借しました。返さないから拝借ではないのですが、細かいことは気にしません。だって異世界なのだから。

 しばらくすると、皆さんのおしゃべりもよく回るようになってきました。

 まるで、転移前から署にいたかのようになじんでいる神が場を仕切っています。


「私もさ、2600年くらい前に辞令が出てこの世界の管理者になったわけよ。でさ、もう結構長いこと管理してきたわけじゃん。そろそろ昇任とか異動とかがあってもいい時期のはずなんだー。同期でも神話級に昇任した子が何人もいるのにさ。いまだに現人神級よ。あ、現人神級って、神の中では一番下なのよ、これが。ところがさあ、待てど暮らせと内示がないじゃない。だからね、この際だからジュリちゃんにこの星の管理者を引き継ごうと思ったわけ。ちょうどこの国、あ、オヤシーマ王国っていうんだけどね。ここの建国の祖として降ろした使いがダークエルフで、見た目がジュリちゃんにくりそつなのよ。建国の祖再臨! なんておあつらえ向きじゃない? だから引き受けてもらえないかしら? 引き受けてくれたらちゃんと神格も付けちゃうから。どう?」


 神がとんでもないことを口走り始めました。

「神にも異動があったんですね。さすが役所です」

 いえ、福原代理、今はそこを感心している場合ではありません。神様にスカウトされてるんですよ? とんでもないことをなんでもないことのように言ってる神がバカなのでしょうが、福原代理ももう少し驚いた方がいいと思います。

「あと、一介の警察官にすぎない私に神は荷が重いです」

 あ、一応反応しました。

「いやー、ジュリちゃんは自己評価が低すぎ! ていうか、神なんてそんなに大層なものじゃないから。所詮公務員よ? まあ、ぶっちゃけちゃうと、イザナミちゃんなんか日本で神話にまでなってるのに私は星の人間に名前すら知られてないわけよ。頑張ってるのにさ。正当な評価をもらえないと士気も上がらないわけよ」

 それは、この世界を使いに任せたからです。因果応報です。

 それはそれとして、この神も割と自分を下げ過ぎのような気がします。

「とにかく、今はお引き受けできません」

「そっかー、残念。でも、考えておいてはくれるわよね?」

「それはまあ、考えるだけなら……」

「よし言質とった!」

 神のガッツポーズを拝むことができました。ありがたや。

 その後も酒盛りは続き、神がいい感じにできあがったころ、爆弾発言をかましました。



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