【IOF_12.log】天界神リリヤ
こんにちは。
天界空間省創生部管理二課のリリヤ・コノエです。
私を崇めなさい。
「異界より召喚されし者たちよ、私はこの星を管理する神のリリヤです。私の管理する星によくぞいらっしゃいました。まずは歓迎の意を表します。」
私は、薄明かりの中で異世界転移の不安に震えている哀れな人間たちの前に光の柱とともに降り立ちました。
私は、頭からオフホワイトの布を被り、腰に紐を巻いた質素ではあるもののローマ風のチュニカといわれるようなデザインの服を身にまとい、厳かな雰囲気を醸し出しています。
いえね、普段は着ないわよ、こんな衣装。
普段の仕事はスーツよ、スーツ。
まあ、オフではスウェットの上下とかでだらけてるんだけどね。
でも、ほら、今日は異世界から来た人たちとの初顔合わせじゃない? ちょっとばかり威厳をもたせようと思ったわけよ。「人は見た目が9割」って神学校でも教わったし、広報課からも映えが肝心と口酸っぱく言われてるの。
「神様ですか? はじめまして。私、警視庁奥多摩警察署の警務課長代理、福原珠梨と申します」
ちょっ、なに普通に対応してるのよこの人間!
そのあとその場にいた全員のことまで紹介してくれちゃってるし。余裕? え、幽霊もいるの? こわっ
いきなり神が降臨したら腰を抜かさんばかりに驚いたり、畏れ多いとひれ伏したりするもんじゃないの?
なによ「神様ですか?」って。ええ、神様ですよ。もっとも管理2課に異動になったから宛て職で神を名乗ってるだけで、実態はただの公務員なんだけどさ。
それでも人間界に降り立てば、たいていは崇め奉られるはずなのよ。
なのにここの人間たちは、ちっとも驚きも拝みもしないんだから、調子が狂っちゃうわ。
「あのー、私神なんですけど、驚いたりしないんですか?」
私は、恐る恐る人間に訊いてみた。
なんで神である私が人間に気を遣ってるのよ。信じられない。
「神様だってことは分かった。だけど、俺たち警察官は、日常的にご遺体を扱う仕事だ。ご遺体のことを俺たちは仏さんと呼んでいる。だから普段から仏様と接しているし、なんなら今ここに幽霊までいる。こんなところに神様が現れたところで、それほど驚くと思うか?」
なんかめっちゃ顔が怖い男が意味不明なことを言ってるんですけど。
ご遺体が仏様? それはいいわ。仏も部が違うだけだから同僚っちゃ同僚だし。
さっきは動揺して流しちゃったけど幽霊がいるっていうのはちょっと聞き捨てならないわね。
幽霊は空間省の主管じゃないから、私の権限が及ばないじゃない。そんなものがこの世界にいたら困るのよね。
よし、消すか。
あ、幽霊がぶるぶる震え出した。ちょっと面白いから消さずにしばらく観察してみよう。
「こほん。ところで、今回皆さんがこの世界に召喚されたのは、天界としては予定外の事故でした。皆さんの世界で何かの干渉が発生して異世界への転移ゲートが開いてしまい、そのゲートに皆さんが入ってしまったようです」
だから、暗に私は悪くないんだということを伝えたつもりだけど、伝わったかしら?
「それじゃあ、その転移ゲートとやらで俺たちを日本に戻すこともできるんだよな?」
だからあなた顔が怖い! 私が悪くないのに謝りたくなるじゃない。
「残念ながら、皆さんをお帰しすることは、私の権限ではできかねます」
そうなのよ、私には空間を超える作業の権限がないのよ。空間を超えるには、部長の決裁を受けたうえで、管理職の権限で実行しないとできないようになってるの!
「それなら、権限がある方にお願いすれば可能性はあるんですね?」
さっきの福原といった褐色肌の女が食い下がってきたわよ。鋭いわね。
「もちろん、決裁がとおり、管理職が作業をすれば帰還は可能です。ただし、それができるのは、先ほど説明した転移ゲートが開いているときだけです。しかも、転移ゲートは、いつ、どういうきっかけで開くのか、空間省でもまだ解明できず、鋭意研究開発を行っているところです」
「まるっきり役所ですね」
「ええ、だって私は天界の公務員ですから。この星を神として管理するようになったのも人事異動で辞令を受けただけですからね」
私は胸を張った。
「えっと、神様って、そういう立ち位置だったんですね。なんだか、お疲れさまです」
あら、労われちゃった。
神になってから初めてかも。お疲れさまなんて言われたのは。
この女、もしかしていい人間かも。加護を与えたくなっちゃうわ。
「あ、それから、これは異世界に転移や転生した人間に天界から下賜される特典なんだけど、何がしのスキルを与えてるからね。皆さんの職場的には特技っていったらいいのかしら。皆さんのスキルは、人事記録の特技欄に追記しといたから見ておくといいよ。地球もまだまだ紙文化なのね」
「いえ、さすがに人事記録はシステム化されています」
「えっ、うそ?! さっき署内をガサったら紙の人事記録しかなかったわよ?」
「この神様、いまガサって言ったな」
男! 顔怖い! 変なとこ突っ込まなくていいから。テレビドラマの知識だから! それと女! あなたも突っ込むところは人事記録が紙かシステム化じゃなくて、人事記録にスキルを追記できる神様の能力にガクブルするところでしょ。なんかずれてるわね、この人間たち。でも、嫌いじゃないズレ方だわ。仲良くなれそう。
「ま、まあとにかく人事記録を確かめることね」
気を取り直して女に告げると、女はなにやら鍵束を取り出して彼女の席の隣にあるキャビネットの鍵を開けた。そうそう、そこに入ってるのよね。
「なんですか、これは」
ジュリちゃんの声がうわずってる。よしよし、驚かせられた。




