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【IOF_114.log】イタリアからの転移者

 お疲れさまです。

 天界位相管理院管理官(院長)兼ねて駐オヤシーマ王国日本国大使館臨時代理大使兼ねて臨時代理領事兼ねて警察庁長官官房付兼ねて警視庁異世界警察署長警視正福原珠梨です。

 勤務中異常なし。


「えー、これまで神と言われることを避けてきましたが、この度、人間を辞めて本物の神になることが決まりました……」

 王城の中、タイロンさんの執務室で、ぽりぽりと頬を掻きます。

「おおっ!!」

 その場の全員が驚きの声を上げます。

「ただですね……皆さんにはきちんとお伝えしていた方がいいと思うので、決して口外しないで欲しいのですが……よろしいですか?」

 皆さん、無言で頷いています。なんかかわいらしいです。


「神と言っても、宗教的なものではありません。オヤシーマ王国や日本があるような世界を管理している役所の役人のことを天界で『神』と呼んでいるだけです。皆さんの宗教観を破壊するようなことで申し訳ないのですが、それが天界の実態です」


「ジュリは、どうしても崇められる神にはなりたくないのだろう? それならそれでいい。だが、天界が俺たち人間を管理するという上位の存在であることは間違いない。そういう意味では、たとえ役人であっても、相変わらず神は宗教的な意味でも神だ」

「人間でなくなるのでしょう? だったら本物の神でなくて? すごいわ、わたくし神とお茶会ができるのね!」

「フクハラ様が神なのは、この地に降臨なさったときからですから、今さらというお話ですわね」

 王族3人組があっさりと受け入れてしまいました。いいんですか? そんなに簡単に国教以外の神を認めてしまった。


「ミセラニアス教は、あらゆる神を受け入れ、神々とともにあろうとする思想ですわ。ですから、ジュリさんが神になるのはむしろ慶事なのです。本当の意味で神とともにある国など、どこを探してもみつかるはずありませんもの」

 カロリーヌ様が頬を紅潮させながらうっとりしていらっしゃいます。私、そんなにありがたがられるような存在じゃないんですけど……肩書だけがインフレを起こしている感じです。


「あなたの器は、そのインフレした肩書を十分飲み込んでいるわ。まだまだ余裕がありそうね。どこまでインフレするのか楽しみですわ。なんならオヤシーマ王国の玉座も飲み込めるのではなくて?」

 カロリーヌ様……観客として楽しんでいらっしゃいますね?

「本日参内したのは、神格化のご報告ともう一つ、ご相談があってのことです」

「相談とな?」

「はい。私が神になるのは、オヤシーマ王国と日本国との間で相互の行き来を可能にするためです」

「そんなことができるようになりますのっ?!」

 ローレル様、まだ驚くには早うございますよ。

「それだけのためにジュリは人間であることを辞めるというのか?」


「はい。私の責任を果たすためであれば、私が人間であることを辞めるくらいなんでもありません」


「やはり、ジュリさんは神となるべくしてお生まれになった……いえ、神としてお生まれになり、ここにきて覚醒なさったかもしれませんわね」

 カロリーヌ様、持ち上げすぎです。今度、ビールをお持ちしますね。

「あら、ちょろい神様だこと」

 含み笑いの破壊力がすごいです。

「私が神になってオヤシーマ王国と日本国で行き来ができるようになると、今まで日本に置くことができなかったオヤシーマ王国大使館を置くことができます。ご相談というのは、駐日オヤシーマ王国大使をどなたにするか、ということです」

「なるほど。日本との交流が本格化するというわけか……外交に詳しい役人といっても、せいぜいが周辺国との付き合い程度の知識しかない。クロダよ、王宮に日本と渡り合えそうな者はいたか?」

「はい、お一人いらっしゃいます」

 クロダさんの「いらっしゃいます」で分かってしまいました。

「ん? 誰だ? 俺には心当たりがないのだが」


「ローレンシア第四王女殿下にございます。国交樹立の功労者であり、フクハラ様とも懇意にしていただけております。ニッポンコクとの橋渡しに最も適任と断言できましょう。このクロダ、自信をもってご推挙申し上げられます」


「まあ! わたくしがニッポンコクに?! お父様、その大任、ぜひわたくしにお任せくださいまし! 必ずや祖国オヤシーマ王国の発展に役立って見せますわ」

 私の腹案をお示しする前に国内で意思決定が取れそうでよかった。

「そうか……確かに適任だな。ただなあ……ローレルがいなくなってしまうと思うと少しな……」

「タイロン、いい加減子離れなさい!」

 カロリーヌ様の平手打ちがタイロンさんの脳天に直撃しました。

「客人の前でそれをするな。国王としての威厳がなくなるだろう」

 タイロンさんが頭をさすりながら恨めしそうにカロリーヌさんを睨みます。

「神の御前では王の威厳など塵芥でございましょう?」

「ぐぬぬ……」

 この勝負、カロリーヌさんの勝利ですね。


「よかろう。ローレンシア第四王女を駐日オヤシーマ王国大使に任ずる。すぐに準備に入れ」

「マーガレット」


「はっ」


「国王の名により命ずる。今このときをもって王国暗部の任を解く。よって、ラミア、マーガレットの名を捨てよ。これよりお前は幼名マルゲリータ・ラファエラ・ディ・スフォルシアに復することを許す。ローレンシア第四王女のニッポンコク赴任に従い、第四王女の補佐並びに身辺の安全を守れ」


「王命とあらば」


 マーガレットさん改めマルゲリータさんが跪いて王命を拝受しました。

「マルゲリータさん。イタリアからの転移者でいらしたんですね」

(はい)……なぜ分かりましたか?」

「戸籍調査票の欄外記載をご説明したとき、誰も意味を理解できずにいらっしゃったのに、当時のマーガレットさんだけが『なるほど』と英語を読んでいらっしゃいました。そのときです」

Accidenti(やっちまった)……」

 マルゲリータさんが天を仰いでいます。


「おいおい、それは俺たちも知らなかったぞ!」

 タイロンさんの目が飛び出そうになっています。

「幼きころに転移し、自分の状況も説明できぬまま孤児院に届けられ、そこで陛下より暗部へと召し上げられて現在に至ります。ご説明の機会がなかったとはいえ、王室に隠し事をした罰、いかようにもお受けいたします」

「そんな些細なことは罪に問わん。気にするな。ところでジュリよ、そのイタリアというのも異世界の国なのか?」

 私は、その場の皆さんにイタリアについて説明しました。


 日本国と同じ星である地球の国であること。

 日本国とは海を隔てた遠い地にある国であること。

 国土がブーツのような面白い形をしていること。

 自然が豊かでワインと料理が「ものすごく」おいしいこと。

 マルゲリータさんのお名前から想像して、マルゲリータさんはかなり高位の家柄であると想像できること。


「マルゲリータさんは、生まれ故郷を覚えていますか?」

「はい、おぼろげですが記憶しています。私の根っこになる部分です、絶対に忘れたくないと思い、必死に記憶を持ち続けてきました」

「ローレルさんと地球に行ったら、お二人で故郷へだって旅行できますよ」

「本当ですか?! 日本とイタリアは、何時間くらいかかるのですか?」

「そうですね……直行便なら14時間くらいで着くことができます」

「なんと……」

 マルゲリータさん絶句。


 マルゲリータさんが日本に行くにあたって、ご注意いただきたいことがあります。イタリアもそうだったと思いますが、日本にもたくさんの法律があります。その法律に従わないと罰を受けることもあります。

 ただし、ローレルさんやマルゲリータさんは、外交官として治外法権の扱いになり、原則として現地の国の法律に縛られることがなくなります。ですが、何をやってもいいというものでもありません。

 外交官は、現地の国に信任されることで治外法権を得ます。ですから、現地の国から「この人は外交官にふさわしくありません」と言われたら、治外法権を失って、現地の国の法律で罰せられることもあります。その通告をペルソナ・ノングラータといいます。これを受けた場合、その外交官は本国に召還されるのが通例です。

 マルゲリータさんがローレルさんの身辺の安全を守るという崇高な使命を帯びて日本に赴任なさるわけですが、日本で暗部のような活動を行うと、先ほどのペルソナ・ノングラータに該当する可能性が高いです。ですから、できるだけ直接的な防衛手段を講じることなく、日本の警察に任せる方向で動いていただけると日本国としてもありがたいです。

 とはいえ、目の前でローレルさんが暴漢に襲われそうになっているのを指を咥えて見ていろというものでもありません。そのような場合、正当防衛や緊急避難という法理があり、自衛のために他人を傷つけても免責されることがあります。これも、簡単な理屈ではありませんので、赴任前にお勉強する時間をもらいたいと思います。もちろん、赴任後でも必要に応じて、外務省の父から助言させますので、安心してください。


 それから、外交は相互主義が基本です。どちらかだけに有利だったり、その逆に不利だったりするような関係はあり得ません。ですから、オヤシーマ王国が一方的に日本のやり方に従わなければならないということもありません。お互いを尊重して、互恵の関係を築くのが外交の基本です。相互主義を保ちつつ、自国の利益を最大化させるという目的をいかに捻じ込むかが外交官の腕の見せどころです。


「外交とは化かし合いの世界なのですね。わたくし、身が引き締まる思いですわ」

 ローレルさんなら、その笑顔と礼節ミサイルのカーテシーで日本どころか他の大国だって手玉に取れそうです。


 日本に大使館を開くには、たくさんのお金が必要になります。オヤシーマ王国の通貨は、日本では通用しません。ですから、日本円に換えられるものをこちらから持ち込む必要があります。前に、ヘキチさんからオーメ領で白金が採掘されると聞きました。プラチナは金より高価で、現地通貨に換えるための輸出品にはもってこいです。

「白金は、産出量が少ない貴重な鉱物資源だ。外国に持ち出すのは、できれば避けたい」

 タイロンさんが渋い顔をしています。そうですか、それなら仕方ありません。オヤシーマ王国では利用できないけれど、日本では貴重で高価なもの……なにかありますか?

「白金を掘るときに出るクズ石ならいくらでもあるんだがな」

 あ、それはヘキチさんもおっしゃっていました。そのクズ石は本当にクズ石なんでしょうか? 白金と同じところから出てくるのです。白金でない他の希少な金属が含まれていたりはしないでしょうか……

「すみません、一度その鉱山でクズ石を見せてもらうことはできますか?」

「そんなのはいくらでも手配するぞ。なにしろヘキチの領内だ。俺が手を回さなくてもジュリかローレルが言えばすぐだろう」

「そうですわね。わたくしから言っておきますわ」

 ローレルさんの心強い援軍がありがたいです。

 なぜ私が白金の鉱山にこだわるかというと、白金族が含まれる鉱石には、レアメタルであるロジウムが混ざっているかもしれないからです。ロジウムは、精錬が難しい金属で、おそらくオヤシーマ王国の技術では精錬できていないと思います。それを、日本に輸出すれれば、オヤシーマ王国に莫大な利益を生み出すことになります。


「このクズ石は本当に厄介なんだ。露天に放置しても錆びて朽ちることがない。おまけに錬金術師が間違って王水をこぼしたときも溶けないんだ。王水だぞ? 白金だって溶かすことができる王水でも溶けないんだ。俺たちではお手上げだ」

 鉱山技師が熱心に語ってくれます。

 ほぼロジウムでしょう。

「ほぼ間違いなくロジウムっす。王水で溶けないあたりで当確を打てるっす」

 鉱山に同行してもらった可愛さんのお墨付きをもらいました。あとは、クズ石を少量もらって日本で鑑定してもらいます。

 これが当たりなら大使館の2棟や3棟くらい余裕で建つことでしょう。

 クズ石を科学捜査研究所に送る傍ら、私は天界で役職をもらうことについて、また警視庁本部に上申をあげる準備をします。

 兼職なので警務部長の承認が必要です。窓口は監察係です。今度の上申は、書きぶりに工夫が必要になります。今までは、なんでもありのままに書いてきました。しかし、今度は世界の入れ子構造について書くことができません。

 今でさえ、色々なシステムやソフトウェアの穴とか脆弱性を探し回る人たちがいるくらいです。そういった人が「天界は仮想マシンの入れ子構造」だなんて知ったら絶対攻撃してくるし、今ある脆弱性だって見つかってしまうに違いありません。そうなったら世界インスタンスは大混乱に陥ります。

 私のせいで天界に迷惑をかけるようなことはできません。

 少し前は、天界を初期化してやろうとか言っていたのに、今では天界も守りたくなるとは不思議なものです。

 ですから、そこを避けつつ私が天界で位相スイッチの管理官になるという流れをどう説明したらいいのか、かなり頭を悩ます仕事なのは間違いないです。


 そもそも、「位相」ってどういうことなの? っていう疑問が出ますよね? 位相管理院管理官なんて職名を出したら。位相は移送をもじった言葉遊びです、と言っても納得してくれる人なんていそうもないですよね……

挿絵(By みてみん)

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