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【IOF_108.log】素乃子

 お疲れさまです。

 駐オヤシーマ王国日本国大使館二等書記官兼ねて警視庁異世界警察署交通捜査係長警部補木村天馬だ。

 勤務中異常なし。


 署長の使いで王宮に行くのは2回目か。

 先触れっていうやつらしい。

 王族ってのは面倒な相手なんだな。訪ねていくのにも知らせを出さなきゃいけないらしい。まあ、それを言ったら現代だってアポなし訪問は失礼とか言われてるから大差ないか。

 というわけで、俺はスーパーカブでオーメ街道を王都に向かっている。

 コースや日程は前回と同じだ。

 ひとつだけ違っていることがある。

 それは、人数だ。

 前回は、俺だけだったのが、今回は2人だ。

 署のスーパーカブは50ccじゃない。110ccだ。なんか警察っぽくていいだろ?

 だから二人乗りもできる。


「で、お前、なんで付いてきたんだ?」


「木村係長とツーリングしたかったから」


 お、そう。そうか……

 俺の後ろに乗っているのは、少年係の正村素乃子だ。


 転移した当日、署内の点検を一緒にやった相手だ。そのとき、処女だというどうでもいい情報を聞かされた。

 オヤシマーマ王国に転移してきてからというもの、なにかにつけて絡んでくることが増えた。うざ絡みじゃないぞ。

 俺がガレージで溶接やらガス切断やらをやっていると、そばにしゃがみこんでじっと見ているかと思うと、冷えた缶ビールを持ってきてくれたりする。俺よりうまそうに飲んでるから、自分が飲みたかったのもあるんだろう。

 でもまあ、そういう絡み方をされるのは嫌な気はしないもんだな。

 溶接をしている側で、眩しそうに目を細めているから

「裸眼で見るな。目を傷めるぞ。これを使え」

 と手で持つタイプの溶接面を渡してやった。

 それを自分の顔の前に持って行って「おー、緑だ」と一言だけ反応した。

 こいつは、いつも反応が薄い。こちらに関心ないわけではなさそうなんだが、言葉のひとつひとつが短いからぶっきらぼうに聞こえる。

 1つ投げれば1つ返って来るから、よく言えば言葉のキャッチボールだ。悪く言うと会話が続かないタイプということになる。お前、その性格のせいで損してることが多いぞ、たぶん。

「別にいい……」

 ま、本人がいいって言うなら俺がとやかく言うことでもないか。


 そんなあいつが、一度だけ自分から話を振ってきたことがある。

 ある晩、事務所に集まってビールを飲んでいたときのことだ。

 俺の隣に座っていたあいつが、何の脈絡もなく話しかけて来た。

「木村係長の奥さんは怖い人?」

 なんだよいきなり。

「ああ、怖いぞ。しかも半端じゃなく怖い。殴り合いのケンカで俺が負けたからな。ほれ、この傷はそんときのやつだ」

 俺は、額の生え際にくっきりと残っている傷跡を見せた。

「深そうな傷……」

 額を見られているのに、なんとなく目を見つめあっているような気がしてドキリとした。

「お前はそういうこととは無縁だろうな」


「ん……ケンカは嫌い。あと、私はお前じゃない。正村素乃子25歳、処女」


「あ、ああ……前にも同じこと言われたな。すまん。正村でいいか?」

「ダメ。素乃子の方が文字数が少なくて経済的」


 そういう問題か?


「いや、たしかにそうかもしれないけどよ。俺、嫁さんいるから、よそのお嬢さんを名前で呼ぶのはどうかと思うんだよな」

「下心があるから?」

 ねえよ! 今言ったばっかだろ。うちの嫁さん怖いんだよ、マジで。

「うん。さっき聞いた」

 だから……うーん、分からなくなった。まあいいや。

 そんなことがあって、現在に至っているわけだ。


 二人乗りだから後ろの素乃子は俺に抱き着く形になる。

 こいつ、隠れ巨乳じゃねえか。めっちゃ当たってるぞ。

 で、お前、なんでさっきから俺の背中に鼻を押し当てて深呼吸してんだよ?

「お前って言ったら返事しない。素乃子25歳、処女」

「素乃子、なんで背中で深呼吸してんだよ」

「男の匂いを吸ってる」

 そのまんまかよ。

「嘘はいけない」


「素乃子は俺のこと好きなのか?」

「うん。好き」


 即答かよ。ためらいも恥じらいもねえな。

「そうか。そうだとしても、前にも言ったけど俺は嫁さんがいるからダメだぞ」

「別にいい。悲劇のヒロインになる。洗い忘れの弁当箱を洗っておいたけど、気づかれなくても泣かない」

 こいつストーカーだった。

「それは心外。ちょっと愛が重いだけ」

 そういうのをストーカーというんじゃないんですか? 生安課さん。

 俺は、ヤバい女に懐かれたらしい。

 今のところ実害はないし、ちょっと飼い主が好きすぎる犬みたいでかわいくもあるから、基本的に放置でいいだろう。

 ここは異世界で嫁さんにバレることもないだろうし。


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