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【IOF_104.log】石鹼を作ろう

 お疲れさまです。

 駐オヤシーマ王国日本国臨時代理大使兼ねて臨時代理領事兼ねて警察庁長官官房付兼ねて警視庁異世界警察署長警視正福原珠梨です。

 勤務中異常なし。


 小路さんがとんでもないことをやってくれました。

 複式簿記の指導のため、王宮に滞在してもらっている間に、タイロンさんとクロダさんを丸めこみ、この国の通貨単位を決めてしまったのです。

 それを知ったのは、領都から早馬で駆け付けたバルボアさんが国王の布告を見せてくれたときです。

 バルボアさんは、最近ちょくちょく署に来ては可愛さんに鑑識や捜査実務の指導を受けています。なんとなくいい雰囲気のような気もしますが、そのあたりはそっと見守るのが大人というものです。

 それはそうとして。

 新たに制定された通貨の単位が問題なんです。


「王国の通貨単位をジュリとする。銅貨1枚を100ジュリと定める」


 一瞬目を疑いました。

 いえ、ジュリなんてありふれた名前ですから、私にちなんでいると思うのは自意識過剰かもしれません。そうですね、きっと偶然です。


 さて、日本の資金提供を受けて開始した戸籍整備事業は順調です。

 オヤシーマ王国全体にわたって戸籍を調製しなければなりません。おそらく数年単位の事業になるでしょう。

 今のところ、異世界からの転移者や転生者らしい人は見つかっていないようです。

 戸籍事業は、いますぐ何かしなければならないことはなさそうです。

 なので、以前支援を行った娼館の衛生対策でマザーと交わした約束を果たさなければなりません。

 そうです。石鹸を作って娼館で使ってもらうのです。目の前に次々と新しい課題が出てくるので、つい先送りになっていました。約束を先送りにするのはよくないですね。

 石鹸の作り方は、健康管理本部に問い合わせて資料を送ってもらっています。

 健康管理本部の女性職員の方からメモで「異世界生活、がんばってください♡」と添えられていたのが嬉しかったです。

 石鹸を作るには、動物の脂が必要になるのだそうです。

 市の肉屋さんに不要な脂身を売ってもらえないかと相談したところ「処分に困っているんだ。むしろ金を出すから持って行ってくれ」と大歓迎されました。もちろん、お金はいただきません。

 あとは、かまどや薪ストーブなどから出る木灰です。これも無償でほぼ無尽蔵に手に入ります。当面は、ヘキチさんのところからもらうことにしました。


 健康管理本部からもらった資料を見たところ、作り方は思っていたより簡単です。

 手のひらサイズの石鹸が20から30個くらいできる作り方です。


 まず、木灰約2キログラムに、沸騰した水5リットルを注ぎ、数時間〜一晩置く。


 そうすると、上澄み液が「灰汁」として約2リットル取れる。


 次に動物の脂身1キログラムを大鍋で溶かして不純物をこし取る。ここが臭いらしい。


 大鍋で脂を温めながら灰汁を少しずつ加え、根気よくかき混ぜる。


 二~三時間の加熱で泡立つ粘りが出る。


 それを木箱や陶器に流し込み、一晩置いて固める。


 固まったら枠から取り出して切り分け後、風通しの良い所で3~4週間乾燥させると完成。


 署員の皆さんに協力してもらいながら、この作り方で石鹸を試作しました。

 たしかに、脂身を溶かす作業は臭いがきつかったです。

「こんなものが石鹸になるのかよ」

 とは南畝主任の言です。


 結果としてなりました。

 できあがった石鹸は、薄い象牙色とでもいうのでしょうか。ほぼ脂身の色と同じです。

 香りは、かすかに獣脂の甘い脂を思わせます。

 数週間の乾燥を経るとほぼ無臭になると説明に書いてありました。


 今回の試作では、庶民向けの無香料のものと、王族や貴族向けの高級感ある香りを加えたもの、それと娼館用としてシダーウッドという清潔感とほのかな色気を纏う精油を配合したものを作りました。

 完成までは数週間かかるのですが、使用感を確かめるのであれば切り分けた段階のものでも問題はありません。

 三種類の石鹸を小さく切り分けたものを領主邸に持ち込んで体験してもらいます。


「これが先日おっしゃっていた石鹸ですのね。とても素敵な香りがいたしますわ」

 ローレルさんが香りを楽しんでいます。

「これは、まだ完成品ではありません。完成までは、数週間乾燥させる必要があります。今日は、実際に使ってみた感じがどうかをお聞きしたくて参りました」

「そうなのですね。これは、どのように使うものですの?」

「はい、水を付けて手の上で転がすと泡が立ちます。その泡で手や体を洗い、あとは水やお湯で流します。水やお湯だけで洗うより確実にきれいになりますし、石鹸で手洗いをする習慣が身に付けば、かなりの流行り病を防止することができます」

「そんなに素晴らしいものですのね!」

 ローレルさんが石鹸の欠片を手に持ち、水に濡らします。

「なんですのこれはっ! どんどん泡が立って参りますわよ」

 手を泡だらけにして喜んでいらっしゃいます。

「お父様とセバスも試してみてくださいまし!」

 3人で手洗いタイムとなりました。

「これは……」

 ヘキチさんが絶句しています。

「本当に素晴らしいですわ。手が一皮むけたようですわね」

 洗い終わった手をひらひらと回しながら嬉しそうに眺めていらっしゃいます。

「そこでご相談なのですが、お許しをいただければ、この石鹸を領内で売ろうと考えています。まずは庶民用として無香料のものを販売します。香りを付けたものは値段を高くして貴族向けにします。そして、この少し色気のある香りのものは娼館向けです」

「これは絶対売れますわ! ねえ、お父様」

「ああ、間違いない」

 お2人のお許しをいただけたようです。

「これを領内の工場で生産して、販売することを考えています。そうすれば、領の税収にも貢献できるかと」

「それはありがたい」

 ヘキチさんが大きく頷きます。


 石鹸を工場で生産して販売するとなると、警察の業務以外の事業活動を行うことになります。

 警察に限らず、公務員は兼業が原則として禁じられています。

 警視庁の場合も同じです。ですが、一応例外として警務部長の承認を得られた場合は、兼業してもよいとされています。まず許可されませんが……

 それでも、今回は異世界で生きていく上で必要な外貨獲得手段です。是が非でも承認していただきます。

挿絵(By みてみん)

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