【IOF_101.log】誘拐ですわ
犯罪のにおいですわ。
オヤシーマ王国第四王女ローレンシア・メグロ・テンテルウスでございます。
ごきげんよう。
「ローレルさん、朝早くにすみません」
フクハラ様と登城して2日目の朝、なにやら慌てた様子のフクハラ様がわたしの部屋を訪ねていらっしゃいました。
「いかがなさいまして?」
まだ寝間着のままのわたくしですが、フクハラ様のご様子から緊急の事態と感じまして、すぐにお部屋にお通しいたします。
「ゆうべ、小路さんがお風呂に行くと言って部屋を出てから戻って来ていないんです。お風呂も確かめましたけれど、小路さんが服を脱いだような痕跡もなく……」
なんですって!!
これは、犯罪のにおいがいたしますわ。
いくら王城が広いといいましても、一晩中迷い続けて誰にも会わないなどあり得ませんわ。
拉致ですわ。誘拐ですわ。かどわかしですわ。人さらいですわ。
ひょっとしてまたいずこかへ転移なさったとか……
いずれにいたしましても、早急にお父様のお耳に入れなければなりませんわ。
あ、さすがに寝間着のまま王城内を歩き回るのは外聞がよろしくなくてよ。
しばしお待ちになって。
マーガレットの介添えでドレスに着替えたわたくしは、フクハラ様をお連れしてお父様のお部屋に向かいましたの。
「事件ですわ!」
お父様の部屋のドアを蹴破る勢いで開けます。
「陛下でしたらすでに執務室にお入りになっています」
国王付のメイドが部屋の片づけをしておりました。
空振りでしたわ。
「事件ですわ!」
今度は、執務室のドアを蹴破る勢いですわ。
「なんだ、朝からどうした?」
どうしたもこうしたもございませんことよ!
「コウジ様のお姿が見えなくなりましたの。これは、誘拐に違いございませんわ!」
「昨晩、小路がお風呂に行くと言って部屋を出て以来戻って来ていません」
フクハラ様が冷静に補足なさいます。さすがですわね!
「お前もジュリの冷静さを見習ったらどうだ」
「あら、いやですわ。わたくしのトンチキ具合はフクハラ様が補ってくださいますの。そういうシステムなのですわ」
「クロダよ。お前はどう思う?」
「殿下のトンチキ具合についてでございましょうか?」
「それは分かっているから今さら聞かん。コウジ様がいなくなったことについてだ」
お2人とも、なにげに不敬ですわよ。
「陛下! ご報告申し上げます!」
わたくしのトンチキ具合について議論を交わしていたところ、カネスキーが慌てた様子で執務室に飛び込んで参りましたの。
カネスキーは、おふおふと聞き苦しい息を吐き、肩を上下させておりますわ。
太りすぎだからですわよ。
「昨日、王宮の財務帳簿を点検したコウジなる女が隣国、サキタマ王国の間者であるとの密告がございました! それを裏付けるかのように、昨日から女が姿をくらましております。至急手配を!」
「ほう……」
「これは……」
お父様とクロダが半目でカネスキーを見下ろしてますわね。怖い、怖い。
まさか犯人が自分から飛び込んで来るとは予想いたしませんでしたわ。
解決が早くてようございました。
「分かった。よく報告してくれた。下がってよい」
「はっ!」
カネスキーが満足そうな顔で退いていきます。
わたくし、コウジ様から教わりましたの。こういうときに言うセリフですわ。
クソが、ですわね。
「フクハラ様、我が国の臣下がとんだことを……なんと申し開きしてよいのやら言葉もございませんわ。ことは、国内の問題にとどまらず、外交問題でもございます。必ずやわたくしどもの手でコウジ様をお救いして連れ戻しますわ。フクハラ様は、お部屋にて待機いただきたく存じます。状況は、逐一お知らせいたしますわ」
「承知しました。私は客間で待機します。事件を捜査するにあたってお願いしたいことがあります。それは、先般ご指導申し上げた『適正手続き』を意識した対応をお願いしたいということです。そして、この件を王国初の裁判例としてください」
「テンテル様の名に誓って……」
わたくしは、深いカーテシーでフクハラ様を送ります。
「悦殺」
「はっ」
「梟らを指揮下に入れ、コウジ様の捜索を行いなさい。可能性が高いのはロットルが言っていた隠し倉庫です。まずはロットルを連れてそこから手を着けなさい。なお、この件に関しては納品の必要はありません。必ず王宮騎士団の手にて捕縛させなさい。よいですね、くれぐれも納品しないよう、他の者にも厳命するのですよ。あなたたちは、すぐに納品したがるから……」
「仰せのままに……ちっ」
片膝をついて命を受けていたマーガレットの姿が一瞬で消えましたわ。最後に舌打ちしていきましたわよね? ここ、国王の執務室ですわよ?
「ラミアは相変わらずだな」
孤児院に身体能力の高い子がいると聞き及んで暗部に迎え入れたお父様の教育の賜物でしてよ。




