表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
101/109

【IOF_100.log】ユイさんとの出会い

 こんにちは。

 オヤシーマ王国王宮倉庫長補佐フルス・ロットルです。

 無断持ち出し厳禁です。


 僕は、オヤシーマ王国の東にある港を領地に持つ子爵家の四男だ。

 子爵を継げる立場でもなく、王宮に仕えることを選んだ。

 武芸に秀でているわけでもないので王宮騎士団や衛兵のような仕事には向かない。

 そんな僕が、倉庫番に滑り込むことができたのは幸運といっていい。

 僕には倉庫番の仕事が合っていたようで、倉庫長にはかわいがってもらえた。

 気づいたら倉庫長補佐の役職までもらうことができ、毎日充実した生活を送っていた。

 倉庫長はいい人なのだが、お金や物の管理を統括しているカネスキー伯爵、こいつが曲者だ。はっきり言おう。こいつは嫌いだ。

 態度はでかいし、面倒からは逃げるし、公金や物資の横領をしているという噂も耳にする。だけど、証拠がないから誰も手を出せないらしい。責任者が自分で横領していたらなんでもありだろうな。

 カネスキーと顔を会わせることはめったにないから別にいい。

 と思っていたら、顔を会わせることになった。

 カネスキーに呼び出された。

 カネスキーに呼び出されるようなことをした覚えはない。

 訝りながら部屋に入ると、机の上に山積みの帳簿が見えた。

「これを地下の空き倉庫に運べ。異世界から来たという女が帳簿を点検するとか言っておる。お前は、そこに立ち会って、女が怪しいことをしないかどうか監視しろ」

 地下の空き倉庫といったら、狭くて暗くてホコリ臭いあそこか……

 帳簿を点検するような部屋じゃないだろう。

「ほれ、さっさと運べ」

 カネスキーは顎をしゃくって僕に指示をした。一々癪に障る所作だ。

 倉庫とカネスキーの部屋を何往復しただろう。

 10年分の帳簿だぞ。ものすごい量だ。

 どうにかこうにか帳簿を運び終わり、倉庫で待機していると、カネスキーが一人の女性を連れて来た。

 女性というより女の子、少女のように幼い風貌だ。

 背は僕の胸くらいまでしかない。かなり小柄だ。

 体つきも華奢で女性らしい丸みはまだなく、幼子のようにすとんとした体形だ。

 この国では珍しい黒髪を後ろでひっつめている。飾り気のない髪型だ。

 顔の前に着けている器具はなんだ?

 目の前に丸いガラスのようなものがある。

 あとで聞いたことだが、あれはメガネという異国の視力矯正器具だそうだ。

 それを説明するときに、メガネを外した顔を見た僕は、はっと息をのんだ。

 メガネを外したときの顔がとてもかわいかったからだ。


 つまり、飾り気はないが、女性としての魅力がないかといえば、そうでもない。

 いけない。初対面の女性について、つい熱く語ってしまった。

「私、ユイ・コウジ。よろしく」

 コウジ様というのですね。こちらこそよろしく。

 コウジ様の話し方は、ぶっきらぼうな印象を受ける。

 だが、そこがいい。

 貴族のお嬢様のように虚飾と嫌味に満ちた言葉よりずっと心に響くものがある。


 コウジ様は、ものすごい集中力で羊皮紙をめくっていく。

 途中、ところどころで小さな短冊のようなものを貼り付けている。

 あれはなんだろう? 彼女は、糊を付けるような動作もしていない。なのに、あの短冊は羊皮紙に貼りついて剥がれ落ちない。

 たくさんある羊皮紙の中で、重要なことが書いてあるものに付けておくと、あとで分かりやすそうだ。

 コウジ様は、一度も休憩することなく帳簿を見続けた。

 どれくらい時間が経ったか、僕は途中で少しうとうとしてしまった。

「おかしい」

 すべての帳簿類を閉じたコウジ様が一言だけ呟いた。

 その後、コウジ様の説明を聞いたが、驚くことばかりだった。

 帳簿を改めただけなのに、税金の出入りが不自然なことや物品の横流しなどを理路整然と指摘してみせたのだ。

 僕は、この人ならカネスキーの悪い噂を暴いてくれるのではないかと思った。

「コウジ様……」

 僕が声をかけると、コウジ様はかばんから白い薄い板のようなものを取り出した。

 羊皮紙にしては薄すぎるし白さが段違いだ。

 王城で物品の管理をしている僕ですら見たこともないものだ。

 次にコウジ様は、細長いペンを取り出した。

 そして、そのペンを使って白い板に文字を書き始めたのだ。

 何もつけずに書けるペンだと?

 そんなものこの国、いや世界中どこを探してもありはしない。まるで魔法のようだ。

 コウジ様は、達筆なオヤシーマ語をすらすらと記していく。

 どうやら筆談を求めているようだ。

 なるほど、隠し部屋からの監視を警戒したのだな。

 ただのお嬢さんかと思っていたが、どうやら只ものではないらしい。

 僕は、コウジ様と顔を突き合わせるようにして文字を隠しながら筆談を続けた。


 コウジ様の甘い吐息が顔にかかり、少しドキドキした。


 カネスキーの横領の噂と、カネスキーの指示で王城の倉庫から郊外の倉庫に物を移したことがあることを筆談で伝える。

 僕の顔が赤くなっていることに気付かれていなければいいのだが。

 コウジ様と部屋を出たところでカネスキーと鉢合わせた。

 カネスキーから、後で帳簿点検の結果を報告するように命じられた。

 報告の席で「伯爵の横領の噂を教えました」とは言えない。

「税金の流れで一部不自然なところがあり、中抜きされている疑いがあるとのことでした」

 これくらいなら警戒されることもないだろう。

 カネスキーは、「ふん、その程度か」と言って特に気にした様子もなかった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ