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VRChatの世界でルームメイト募集中

作者: 各務 史

 田中陽子、83歳。この度、独身になりました…。

夫が突然に亡くなって早57日。葬儀が終わっても他の諸手続で未だ落ち着かない。

それでも49日を過ぎて納骨を済ますと、何くれとなく手伝ってくれた娘2人も

私のことを心配しながらも、それぞれの家庭に帰っていった。

 そして1人残されて改めて気付く家の中の静けさ。


もう、夫はいない。


 私たち2人はテレビもラジオもほとんどつけなかったから、その類いの音は家の中に元々なかった。

家の中を満たしていた音は私たちのお喋りの声。

庭の花が咲いたとか、天気がいいから布団を干そうとか、お茶にしようとか

内容は他愛ないものばかりだったけれど、他愛ない会話だったからこそ

余計に夫の声のない静寂が身にしみた。

 ひとりぼっちだと言う事実を突きつけられる気がする。


 美味しい料理を作っても、花を活けても1人きりでは張りがない。

うちってこんなに広かったっけ?こんなに寒かったっけ?

外に出掛ける?1人きりで?何をしに?痛む足腰をおして出掛けるメリットなんてある?

頭の中でグルグルと暗い思考ばかりが渦を巻く。

 私は日当たりのいい窓際でぼんやり過ごすことが多くなった。


 「お、おばあちゃん!?大丈夫?」

ある日やってきた孫娘が声を上げた。私はゆっくりそちらへ顔を向けた。

「大丈夫よ、勿論。」

私は笑みを浮かべて答える。

「うん、大丈夫じゃないね。このままじゃダメだ。おばあちゃん、何か新しいことやろう。」

 そう言って孫の美玖がパソコンを持ち込んで何やら登録を始めた。


 「おばあちゃんの分身を作ったよ。」

「分身?」

「そう、アバターって言うんだけど…。お人形遊びみたいなもんだよ。

お人形そのものになって、人形の世界で遊ぶみたいな感じかな。

このピンクのウサギが私のアバターで、この白いヒツジがおばあちゃんね。

で…。」

 扱い方を分かりやすく教えてくれたので、何とか動かすことが出来るようになった。

「今日の夜6時からライブあるんだよ。一緒に行こうね。」

よく分からないけど、行ってみよう。


 数週間経って、嵌まってしまった。

ライブもショッピングも楽しい。年齢も性別も飛び越えて言葉を交わすのもの楽しい。

この世界の中に部屋も作った。ルームメイトでも募集しようかな。


 田中陽子、83歳。まだまだ未熟、まだまだ発展途上中。

もっとワクワクしたい、もっとドキドキしたい。

パラレルワールドみたいな別の世界でもう一度ときめきます!

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― 新着の感想 ―
おばあちゃんの日常系かなと思いきや、ハイパーおばあちゃんの新たな人生。なにやら、楽しそうなのが伝わってきます。
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