8. ライバル
2度目のデート。
映画を見に行く前に、少し早めにレストランでランチにする。
隣の席に、偶然、愛美が座った。
「あれ、拓海じゃない? 久しぶり!」
ごく自然にわざとらしいことを言える愛美に感心する。美羽ちゃんには申し訳ないけど、ここに来ることは事前に教えてあった。愛美に逆らうとあとが怖いんだ。
「知り合い?」と聞く美羽ちゃん。幼馴染だと紹介しようとしたら、愛美が先に「元カノです」と言い出した。
なにが起きたのかわからず、キョトンとした顔をしている美羽ちゃん。
たぶん僕の顔は引きつっていたはずだ。本当に大丈夫なんだろうな?
「あなたは今カノさんかな? 私は愛美。拓海とは中学卒業まで付き合ってたの」
「あ、美羽……です」
「へぇー、かわいい名前ね。その地雷メイクも似合ってる」
「あ、ありがとうございます……。愛美さんも大人っぽくて素敵です」
なんだ、この不穏な空気の自己紹介。
一触即発の雰囲気で、生きた心地がしない……。
「美羽ちゃんを見てると懐かしくなるなぁ。拓海と付き合っている頃は、片時も離れずにいたよ。だってこの世で一番大好きだったから」
「そ、そうなんですか……」
美羽ちゃんがちらりと僕を見る。
「それはちょっと言い過ぎ……」
「毎日、遅くまで電話してたよね。拓海は途中で寝落ちすることが多かったけど。知ってた? 拓海の寝息をずっと聞いていたんだよ。隣で眠っているような気がして幸せだったの。あっ、手紙もたくさん書いたよね。でも拓海は筆不精で返事をくれないから寂しかったんだぞ。私の愛がこもった手紙、まだ持っているよね? 今でも返事待っているからね」
冷汗が止まらない。
これではどっちがメンヘラなんだか……。
「ああ、ごめんね、私ばかり喋ってしまって……。あの頃は拓海に依存し過ぎてた。今はね、束縛は相手の重荷になるってわかるから、ちゃんと反省してるのよ。あの時は本当にごめんね拓海……」
「ま、まぁ、物心ついた時からの知り合いで、家族みたいな感じだったからさ。別に重荷だなんて思ってはいないよ」
美羽ちゃんは唇を噛みしめて黙っていた。
ちらりと愛美を見たら、余計なことを喋るなと言わんばかりに睨まれた。ごめんねって言うからフォローしただけなのに。
「美羽ちゃん。拓海は天然でおっとりした犬みたいな人だけど、ちゃんと芯があって誰にでも尻尾を振るわけじゃないの。あなたのこと、本当に好きなんだと思うよ。拓海のことよろしくね」
なんで犬で表現したのか、は置いておいて、愛美が席を立ってから2人の間に沈黙の時間が流れた。
そして意を決したように美羽ちゃんは僕に話しかける。
「拓海くん……」
( ᴗ ̫ ᴗ ) つづく予感