31. ぬいぐるみ
「至急、美羽さんと連絡が取りたいんです。どこにいるのか教えてください」
某法律事務所職員(?)に扮した愛美が、美羽ちゃんのお母さんに詰め寄る。
「そう言われても、携帯にも出ないので連絡の取りようがなくて……」
「アルバイト先はわかりますか?」
「アルバイト? あの娘は最初に勤めた会社を辞めてから働いていませんよ」
「え? 美羽ちゃんは雑貨屋でバイトをしていると言ってましたよ」
僕は確かにそう聞いたんだ。
「最近になって始めたのかしら? 部屋にいないことが多いからわからなかったわ」
会社勤めをしていたなんて知らなかった。隠してたわけじゃないんだろうけど、辛いことでもあって辞めたのかな?
部屋の様子は前に見た時と同じ。質素で、女の子らしさはどこにもない。ということは、この部屋に引き籠ったりはせずに、毎日バイトしていたのは本当なんだろう。せめてどこの店なのかわかればなぁ……。
棚に置かれたぬいぐるみを手に取った。耳の大きな犬のぬいぐるみ――。
それを見て、お母さんが大きくため息をつく。
「いくら片付けてもキリがないわ、その犬……」
「これって、郊外にあるテーマパークのキャラクターですよね?」
愛美はこのぬいぐるみのことを知っているようだ。
「ええ。この家へ来る前は、この犬のぬいぐるみやら雑貨で部屋が埋め尽くされるほどだった」
「好きだったんですね、このキャラクターが。今はこのひとつだけ?」
「邪魔だったからみんな捨てたわよ」
「どうしてそんなことを」
信じられない。美羽ちゃんが好きで集めていたものを、どうしてそんな簡単に捨てられるんだ?
「うちの人、犬嫌いだからね」
再婚相手――まだ彼氏だったか――に媚び売って処分したというのか。本当にこの人は美羽ちゃんのことをなんだと思っているんだろう?
ムカムカして、それでも母親か!と言ってやろうと一歩踏み出したところを、愛美に遮られた。
「同じキャラクターばかり集めていたんですか? よほど思い入れがあるんですね」
「そうね……。あなた、ぬいぐるみのことを郊外のテーマパークのキャラクターと言ってたわね。別れた主人と美羽は、何度かそのテーマパークへよく遊びに行ってたみたい」
あれ、美羽ちゃんって前のお父さんとは仲がよかったの? 連絡を取ってないと言ってたから、家族との繋がりを持たないのかと勝手に想像していた。
クレーンゲームで、あのぬいぐるみを狙ったのは、お父さんとの思い出があったからなの?
(〃'▽'〃) つぎへ




