2. おしえて
“明日”って虚構じゃなかったんだ……。
「じゃあ、また明日」の言葉が現実となって、叶夜はまた僕の前にいる。
メタバースのロビーとでもいうべき中央広場。昨日は、花壇裏の段差が乗り越えられずに困っていた叶夜。同じ場所で僕らは再会した。
しばらくここで話していたのだけど、プライベートな会話をすると周りにいる人たちにも聞こえてしまう。なので、個人情報に関わる話はできない。
それだと話す内容が限られてしまうから、内緒話がしたい人たちはプライベート空間へ移動している。本来の用途はオンライン会議や講義をする場所だけど、そこには招待した人しか入れないため、親しい者同士で集まって喋るにはちょうどいい。通称”鍵部屋”なんて呼ばれている。
僕は叶夜を鍵部屋へ招待した。
2人の他に誰もいないので、お互いの本名を明かした。それをきっかけに、急に開放的になって会話が弾む。
叶夜の本名は美羽。「美しい羽という字」だと教えてもらい、天使を想像してしまった。年は20歳。今は雑貨屋でアルバイトをしているけど、将来はトリマーを目指しているらしい。僕よりも3つ年下なのに、ちゃんと目標を持っていて、しっかりした子だなと思う。
「拓海くん」
女の子に名前で呼ばれるのは、嬉しいような恥ずかしいような……。
「連絡先、教えて?」
美羽ちゃんと連絡先交換? それは断る理由なんてないよ。むしろ有頂天だ。これからはメタバースにログインしなくても、いつでも電話やメッセージができるってことだ。それ以上に発展することも……?
あれ、夢かな? 自分の頬をつねってみた。
……嬉し過ぎてあまり痛く感じない。
「拓海くんのこと、もっと知りたいな……」
ヘッドホン越しに聞こえた囁くような甘美な声は、耳を舐められたのかと勘違いするくらい背中がゾワゾワした。
₍ᐡ⸝⸝•ᯅ•⸝⸝ᐡ₎ つづくっぽい