10. 伝える
そうなんだよ。ずっと前から気付いていた。
メンヘラな美羽ちゃんに振り回されたって、メタバースの中で聞いていたキミの声に魅せられていたこと。ううん。音声だけの“声”という意味じゃない。隠された優しさを、耳から感じ取っていたんだ。
なーんて、カッコいいことが言えていたら美羽ちゃんも見直してくれたのかもしれない。その場で気の利いたセリフがポンポンと出るなら苦労しないよ。
「大好き」
それしか言えなかった。
だけど、せっかく仲良くなれたのに、こんな形でお別れしたくない。声を好きになったのは本当のことだし。
こうなったのも愛美のせいだ。ひとことくらい文句を言ってやろう。
「おい、愛美!」
「なに? お礼なら要らないわよ」
「美羽ちゃん、もう連絡しないって言ってきた。やりすぎだったんじゃないのか?」
「あそう。これからは振り回されずに済むじゃない」
「そういう問題じゃない。付き合えるかもしれなかったのに……」
「ん? 付き合うって、告白でもしたの?」
「え……、告白? いや、それは……」
「してないの?」
「好きとは言った」
「それだけ?」
ぐっ……。畳み込むのやめてくれ。
口喧嘩で愛美に勝てっこないのを忘れてた。言葉が続かなかった原因は僕だから仕方ないけど……。
「拓海の告白を待っていたんじゃないの?」
「えっ?」
「『えっ』じゃなくてさ、ちゃんと言ってくれなきゃ付き合えないでしょ?」
「それもそうだ。だけど本人を前にすると言葉が出なくて……」
「もう、しょうがないな拓海は……。伝えたいことを手紙に書いて渡したら?」
「ラブレターってこと? なるほど、それはいい考えだ」
「チェックするから本人に渡す前に見せて。なんなら私宛のラブレターも書いてきて。振られた時は私が付き合ってあげるから」
「また罰ゲーム? 縁起でもないこと言わないでくれよ」
文句を言いに来たのに、また愛美のペースに乗せられてしまった。
いや、話してよかったのかもしれない。やっぱり持つべきものは幼馴染だな。
:(っ'ヮ'c): つづく




