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カフェオレとカフェラテとカプチーノ

テレフォンアポインター清水

 少し前まで人類に平等に与えられたものは時間だと思っていたがどうも違ったらしい。

 子供の頃から信じていた事を覆されるのって結構ショックだよね。

 タラバガニは実は蟹じゃなかったとか、アルプス一万尺は子ヤギの上で踊るわけじゃないとか。

 時間も然り。

 数学において時間は絶対的なものではなく相対的なものなんだそうだ。

 できる限り数学に関わらないですむよう生きてきた僕にとってそんな事言われても正直戸惑いしかないが、かの有名なアインシュタインさんが言うからにはきっとそうなんだろう。

 最もアインシュタインさんがそう言ったかどうかもあやふやで、何を証明したのかも、どんな人物なのかも全く存じ上げないのだが、とにかく頭が良いんだという事と相対性理論というパワーワードは数学嫌いの僕でも知っている周知の事なのだ。

 では人類に平等に与えられているものは無いのか。

 所詮この世は不公平で、不公平だから理不尽な目にも遭ってしまうのか。

 世の不公平と理不尽を嘆くばかりだったある日、時計代わりに点けていたテレビで、運は平等だと語る人物がいた。

 なんでも幸運と不運は、あたかも天秤に乗せてつり合うかのようになっているそうで、例えば若い時に楽をすると楽をした分幸運は使われて減ってしまい、傾いた天秤を水平に戻そうとするが如く年を取ってから不運が襲ってくるんだそうだ。

 そんなようなコトを、世界で活躍していたりするトップアスリート達の日常と共に紹介していた。

 世界で活躍できる、し続けているような人達は日頃の努力研鑽はもちろん、例えばロッカーにゴミが落ちていたら拾ってゴミ箱に捨てるし、例えば洗面所を使う時に水がはねていたら拭いておく等々、自分だけ良ければ良いなんて傲慢さからは無縁な、謙虚で人の為になるような行いを無意識に行っているんだそうだ。

 その気遣いだったり苦労だったり何より努力は、変換された不運としてどんどん消費されその分、幸運の閾値自体がどんどん上がっていく。だからこそその人にとっての幸運を、例えば天候だったり試合に勝つだったり競技を極めるだったり等を引き寄せられるのだろうと。

 つまり楽をしているのにラッキーなのは歪で不釣り合いな事であっていずれしっぺ返しがくるし、努力苦労を重ねていれば報われる。運は平等、如何に不運を努力に変え幸運を引き寄せられるか。昔話風にいうならば「お天道様は見ている」。

 なんだか小学校の道徳の教科書のようで少々強引とも思えるが、腑に落ちない事もない理論だ。

 不運を不運として消費するよりは、努力、苦労として消費する方が断然良い。

 そんな事が頭の片隅に入ったせいか、気づいたらゴミを拾ってみたり、電車の席を譲るのは少しばかり照れるのでいっそ最初から座らず立つようになり、エレベーターやエスカレーターも譲ったり待ったりする手間も省くべく階段を好んで使うようになった。

 すると思わぬ副作用というか、思いがけず体が鍛えられるという嬉しい誤算もあった。

 元々デスクワークが主で一日中ほぼ座っている状態だった僕にとって、微量ではあるが歩いたり階段を昇ったり降りたりする事は運動になったのだろう。

 案外出来ないでいるけれど運動をすれば体が鍛えられて日常生活が楽になる、という現実に軽く心が弾んだ。

 普段どれだけ運動不足なのかが身に染みる。

 そして何より今までうっすら感じていた罪悪感を伴う行為をことごとく排除していった事により、心も軽くなっていく気がした。

 普段どれだけ見て見ぬふりをしていたかが身に染みる。

 体が健康になるから心も健康になるのか、心が健康になったから体も健康になったのか。別にどちらでも構わないと思う。結果健康になれるのなら。

 柄にもなく散歩でもしようかという気分にもなり、人間引きこもってばかりじゃいけないだなんて如何にも最もらしい能天気な事も心の中で呟いたりするようになった。

 少しは前向きになれたのだろう。

 それまでネガティブで後向きな思考回路だった自分が、ちょっとした心持ちでポジティブな前向き人間になれると知り何だか人としてレベルアップした気がしたりして。

 そうするとついついお節介を焼きたくなってしまってこんなに簡単にレベルアップできるんですよと教えてあげたい伝えたい、などと思ってしまったり。

 後から冷静に振り返ればそれは随分と思い上がった考えで、単に己れの承認欲求を満たしたいがための身勝手な行動なのだとわかるのだが、その時にはそんな事を微塵も感じず世のため人のために一肌脱ぎたいんだという博愛精神に満ちた気持ち良さを感じていたのだから笑っちゃう。

 そうして良くも悪くもポジティブキャンペーン真っ最中で自分史上最も積極的になれていた僕は、いままで挑戦出来なかった事をしてみようと思い立つようにまでなった。

 まずは手軽なところから小洒落たカフェで読書なんぞをしてみようとか。

 ちょっとばかし憧れていたんだよね。いまなら一人カフェしても緊張せずにゆったりまったり出来るんじゃなかろうか。

 だがしかし、ひとくちにカフェで読書と言っても事前準備に時間がかかる。

 準備だなんて大袈裟な、と思われるだろう。普通の人はただ、適当なカフェに行って適当に注文して適当な席について適当な本を読めばいい。

 それだけの事だろうが、ネガティブ出身ネガティブ育ちの僕にとってその適当というのはものすごくハードルが高いのだ。

 そもそも適当がわからない。

 適当なカフェとは何なのか。適当に何を注文するのか。どんな席が適当でどんな本が適当なのか。

 天気の良い穏やかな日に気まぐれで二駅分歩いてみた時、思いがけず某有名チェーン店のカフェを見つけた。

 一度は入ってみたかったところだ。しかもおあつらえ向きな事に本屋が併設されている。

 一筋の光が差しこんだ気がした。

 そうだ、たまたま立ち寄った本屋でたまたま買った本をたまたま空いていたカフェで読むなんていかにもさりげなくてそれっぽくていいんじゃないんだろうか。

 よし、とばかり頭の中で早速シミュレーションしてみる。

 まずふらっと本屋に立ち寄ってみる。もちろん立ち寄る時に横目でしっかりカフェ席の空き状況を確認。

 あ、この本読んでみたかったんだよねとばかりに思いがけず邂逅できた風を装い、本を購入後そのままカフェへ移動。

 ここで注意、座れなくてそのままテイクアウトにならないようとにかく席はキープしなければ。それも出来れば角の席。片側ならともかく両隣に知らない人というのは相当に落ち着かないことだろう。端っこで、且つ外の景色が見られると尚可。

 そんな理想の席に上着を置いて席を確保し、レジでコーヒーを注文。いや、コーヒーよりカフェオレのほうがいいかな。うん、完璧。

 さあ実践だ。

 脱ぎ着できる上着を羽織れるようなコーディネートの選択にやや時間を要したが、それはまだ想定の範囲内。

 そして余裕を持って理想の席を得るべくわざわざ平日の午前中を選んで行っただけあって本屋はもちろんカフェの方も空いている。軽く下見した時に、どの辺りにどんなジャンルの本があるかも把握済み。

 よし。ここまで計画通り。

 しかしつい目移りしてしまって本を選ぶのに時間がかかってしまった。まずい、カフェが混んでしまう。

 迷いに迷っていたら「アシモフの雑学コレクション」を見つけ思わず手に取ってしまった。学生の頃持っていたはずなんだけど、誰かしらに貸したままなのか実家に置きっぱなしなのか、行方不明になっていたっけ。

 うん、これもきっと一期一会だ、これにしよう。あれ、一期一会は一生に一度の出会いだから正確には違うな。とにかくこれは星新一ファンも必見のお宝なんだ。このお宝を逃したらもう会えなくなるかもしれない。新刊だけでなく、こんな古いものも置いてあるなんてありがとう本屋さん。

 徐々に混み始めたカフェの席を確保するため、急いでいるけれどでも落ち着いて見えるように本屋での会計を済ませカフェへ向かう。いくつか席が空いている中、シミュレーション通りの理想の席をゲットしたところでレジに列が出来ている事に気づく。

 そうか、お昼時か。だとしたら飲み物だけ買うというのも気が引ける。ちょっと計画とは違うけれど何か簡単に食べられるものも買うか。

 列の最後からレジ横のケースに並べられたサンドイッチやらマフィンやらを遠目に眺めてまた悩む。

 正直マフィンやドーナツのような甘いものを脳が欲しているようだが、手がベタベタして肝心の本が読みにくくなりそうだ。やはりここは食べ易く一口サイズにカットされたサンドイッチを選ぶべきか、とサンドイッチに目を移す。

 艶やかなトマトがレタスの間からその新鮮さと美味しさを主張するかのようにきらきら輝いている。

 うん、そうだなキミにするよ、と取る気満々で待機、、していたのだが、直前でマニキュアの美しい白い手が残像を残してラス1(ワン)を掻っ攫っていった。

 ああ、そうだよね。白と緑と赤という見事なコントラストを惜しみなく発揮し、その存在だけでお洒落だと主張できるサンドイッチを購入できるのは、指先まで気を抜かないお洒落な人であるべきだ。

 ヤバい、ネガティブが鎌首をもたげてきた。

 がらがらとポジティブキャンペーンが終わりを告げそうになりかけたところをぐっと堪えてメニュー表が見える位置まで列が進んできたことに勝機を見出す。

 計画ではカフェオレのホットを注文する予定。

 そういえばメニューを調べていたときにややこしい事実を知ってしまった。ミルクを入れたコーヒーというものには幾つか種類があり、カフェオレだけじゃなくカフェラテやらカプチーノやらがあったのだ。

 ああもう本当に適当な注文をするのは難しい。

 なんだよそれ、どれも珈琲牛乳じゃないのかよと憤ったが、いやいや、これをさりげなく注文できたらなかなかに格好良いんじゃないかと思い直し、違いを勉強してきた。

 カフェオレは普通のいわゆるドリップコーヒーを、カフェラテとカプチーノはエスプレッソを使用していて、じゃあカフェラテとカプチーノの違いはというと、どうもミルクの泡が多い方がカプチーノらしい。

 どうせなら何だか語感のお洒落なカプチーノにしてみようか。いや見た事も聞いた事も無い初めてのものを注文するのは危険か、と思い直しカフェオレにしようと心に決めてきたのだが。

 無かったよ、カフェオレ。どれだけメニュー表を見ても上から下から横まで眺めても。かろうじて予習してきたカフェラテとカプチーノは見つけたけれど。

 あぁもう、下調べが足りなかったな。

 僕は本当に詰めが甘い。

 反省…する間も無く順番がきた。

 物凄い速さで思考を回し、回しすぎて噛みそうなので、無難にメニュー表にあるホットドッグのような写真を指差し「これ、と、あとカフェラテ下さい。」と絞り出した。

 どっと疲れた。

 その後、サイズとか聞かれて知らない単語が応酬されたけどろくに覚えてない。

 まあ、店員さんも慣れた調子でサイズの説明していたからきっとサイズわからない人は多いんだろう。うん、多いはず。

 まあ今回で課題もわかったし、次回こそはよりスマートに注文してみせよう。

 シュゴゴゴォーというミルクをスチームする音や、ガシャシャンガシャシャンと小さいブロック氷をグラスに入れる音やらを耳にしながら決意を新たにする。

 しかし自宅以外の場所での読書がこんなに落ち着かないものだとは知らなかった。周りに人がいると、見られてる感がどうしても気になる。

 いや、わかっているよ、誰も僕の事なんて見てるわけじゃないって事くらい。でもやっぱり気になるんだよ。まったくもって集中できない。結果、ぼーっと人間観察に費やす羽目となった。

 不自然ではない程度に時折本に目を落とし、時折窓の外の景色を見遣る。そして街行く人々のファッションチェックなんぞをしながらその人の職業や性格を想像してみたりする。

 ふと、待ち合わせだろうか、きょろきょろとワタワタが混在した年齢不詳性別不詳の人物が一人、店内を右往左往しているのに目を止める。

 帽子を目深に被り、体の線が極力出ないようなゆるっとした服装だ。とは言え、ゆるっとはしていてもパジャマ感がないのは細身な上にどこか色彩や質感が洗練されているように感じるからだろうか。裾の長さとそこから覗くスニーカーのバランスも素晴らしい。隙間から脛が見えたりする程短くなく、また引きずる程長くないのでむさ苦しさとは無縁だ。

 見るとはなしに眺めていると全身がぴこんと跳ねた。どうやら目的の人物を見つけたらしい。

 何だかかわいらしいなと、小動物を見守る気分でいると、とててと寄っていった先に片手を挙げた女性がいた。

 思わず眉が上がった。

 本ばかり読んでいる割に視力1.5をキープしている僕の目が、挙げられた片手の指先までしっかり捉えたのだ。

 ラス1(ワン)サンドイッチのマニキュアさんだ。

 お洒落な人はお洒落な人と待ち合わせするんだな。謎理論だけど。

 さすがに話の内容までは聞こえないが、両手を合わせてペコリと頭を下げた後、嬉しそうに距離を詰めて座る様子から親しい間柄なのだろうと推測される。

 謝っているような仕草をしていたから遅刻でもしてきたのだろう。二言三言交わすとレジへ向かい、カップを一つとマフィン二つを載せたトレイを持って戻ってきた。お詫びのつもりかな。

 マニキュアさんは差し出されたマフィンを軽く首を傾けて受け取る。

 ゆるっと服さんは肩がけにしていたリュックを下ろすと流れるような仕草で帽子を取りリュックに仕舞う。

 帽子に慣れている仕草だ、羨ましい。僕も帽子を気軽に被れる様になりたいものだ。

 思わず、席取りのために帽子を置く自分を想像したりして悪くないなんて思ったりして。

 さて、今日はここまでだな。そろそろ退散しよう。

 先程から何組か店内を周回している。一人ならともかく二人連れとなると席を確保するのが難しいらしくあそこのカップルは二周目に入っている。

 「ここ、空きますよ。」なんて言えたらいいのだが、色々と考え過ぎるきらいのある僕には難易度が高く、近くを通りかかったタイミングであからさまに片付け始め、席を立つ素振りをするのが精一杯。

 座っていた席から上着を退けた途端、ラッキーとばかりに日傘を置く女性と一瞬目が合ったので、何となくお互い目礼し、そのまま立ち去る。

 後ろから「私、トールのカプチーノね。あと、…」と聞こえてきた。一緒にいた彼氏らしき人に頼んでいるようだ。慣れない自分にとっては呪文のように聞こえてくる。

 僕もいつかこのくらいスラスラと注文できるようになれるかな。

 トールノカプチーノ、トールノカプチーノと謎呪文を反芻しながら店を後にした。

 とにかくまずは注文する事に慣れよう、うん。遅出で余裕がある時、出勤前にカフェに立ち寄ってテイクアウトしてみよう。


「あれー清水さんも今日は遅出ですか?あーそだ、おはようございますー。」

 ブラックデニムのパンツに古着っぽいTシャツをラフに着こなしているのは左道くんだ。挨拶が後回しになってしまったのが可笑しかったのかふへへと笑っている。

「日本一多いサトウさんだけど左の道って書くサトウさんはたぶんオレだけっすよー、知らんけどー。」と自己紹介していたときも笑っていた。

 いつも明るく笑っているし、誰にでも分け隔てなく挨拶してくれるので凄いなと常々思っている。

「おはよう。左道くんも遅出なんだ。」

「遅出だと電車が空いてていっすよねー。あー、コーヒー?のイイ匂いー。」

「あれ、コーヒー好き?」

 勝手な思い込みで悪いけどいつも炭酸を飲んでいるイメージだったからちょっと意外。

「匂いだけならー。あーでも思いっきり砂糖とか入れれば飲めまーす。サトウだけに。」

「清水さんにひだりん、おはようございます。相変わらずひだりんは朝からくっだらない事言ってんねぇ。」

「サトキチは相変わらずキビシイねぇ。」

「おはよう、佐藤さん。」

 きりッとした爽やかなパンツ姿で現れたのは佐藤さん。肩より少し長い髪をきっちり一つに結んでいる。

 とてもややこしいのだが、職場にはサトウさんが多く、左道くんはひだりん、今話しかけてきた女性の佐藤さんはサトキチと呼ばれている。

 研修の頃は、顔と名前がなかなか一致できず、混乱の極みでしかなかったが、困ったときにはとりあえずサトウさんと呼んどけばイケるんじゃん?と笑いながら誰か言っていたっけ。

 あだ名で呼んでいいのかどうか迷いながら結局、小心者の僕は無難に苗字で呼んでいる。心の中ではこっそりあだ名をつけて呼んでいたりするけど。

 外気から遮断されひんやりとしたオフィス棟に足を踏み入れ、そのまま三人で進む。

 向かい合って三基ずつ、合わせて六基のエレベーターが並んだホールは時間帯もあって人はまばらだ。

 声が響くホールでは自然と声を潜めた会話となる。

「それ、あのカフェの?紙袋、可愛いですよね。」

「わかるー。そのカフェの紙袋持ってるだけでテンション上がるー。」

 二人の会話を一所懸命聞きながら何とか相槌を打つ。微妙に丁寧語とタメ語が混じった会話。

 距離感を掴みかねている他人との会話は本当に緊張するが、相手には悟られないよう必死だ。

 僕はいつもこんな感じで緊張を悟られないよう緊張しながら他人と会話する。

 もうこればっかりは生まれつきとしか言いようがないんだろう。改善しようと子供の頃から努力はしてきたつもりだが、どうにも空回りばかりだ。

 時に礼儀正しくし過ぎて距離を置かれ、時に馴れ馴れしくし過ぎて相手の機嫌を損ね、沈黙が怖くてひたすら話し続けたら会話が成立しなかったり。うまく自分の意図が伝わらないもどかしさばかりが募り、常に一人反省会ばかりで人との会話がつらくなる。

 持って生まれた性分なのだからと諦めていたけれどやっぱり何とかしたい。

 頑張れ、僕のポジティブキャンペーン。

 何とかスムーズな会話を。会話のキャッチボールを。

「こ、コーヒーのサイズってどうしてる?初めてテイクアウトしてみたんだけど難しくて。」

「サイズ?難しいって…」

「あーわかるー。何か独特の言い方すんですよね。SとかMとかLとか分かりやすくしろって感じー。」

「そうなんだよ。ショートはSだからまだしも、トールとか、」

「そういや、前、私もSサイズ下さいって言ったらショートでよろしいですかって。えー、Sってショートの頭文字だったのってビビったわぁ。」

「スモール、どこいったー。」

 二人がけらけらと笑う。

 良かった、楽しそうに会話続いてる。

「最近、なるべく歩くようにしてて、ここまで来る途中でカフェを見つけたんだ。」

「えっ、歩いてんすか?家からー?」

「いや、まさか。二駅分くらいだよ。」

「あっ、もしかしてあのベンチが並んでる広い遊歩道沿いにあるカフェ?」 

「すげー。」

「天気の良い日は気持ちいいよ、散歩…」散歩すると体調も良くなってと言おうとしたところでエレベーターが来た。なんとなくうやむやになってそのまま乗り込む。

 そうだな、そんなプライベートな事話しだすなんて距離感詰めすぎだよね。何か話題、話題、沈黙はツラい。エレベーター空間って本当に苦手だ。やっぱり階段にすれば良かったかな。でも急に一人だけ、じゃあ階段で行くよなんてその場から立ち去るのも失礼な気がするし。

 ぐだぐだしている間に二人は気楽にSがスモールならMは何だとか話し始めてほっとした。


「今日は助かりました!ありがとうございました――。」

 オフィスビルに付随する商業施設がことごとく閉店作業を終え、施設内は一種独特の雰囲気だ。

 アルコール類を出すような飲食店のみが煌々と明るい。その明るさのせいか逆に宵闇の黒が際立つ静まり返ったオフィス棟で、まだほんのり目が赤いサトキチ佐藤さんが僕たちに向かって頭を下げる。

「気にしないで。良く頑張ってくれてたよ。」

「そーそ、運が悪かったっすよね。」

 気にしないでと言っても気にするんだろうなと思いながらエレベーターの下ボタンを押す。

 遅出だった三人が帰り道でも一緒になったのには訳がある。

 不運にもサトキチ佐藤さんがタチの悪いクレームに引っかかっり、その対応に追われていたのだ。

 テレフォンアポインターという職業上、クレームとは無縁ではいられない。それでも経験の浅い女性などは比較的クレームの入りにくい部署を担当するようになっているのだが。

 これは別に差別でも何でもなく、単にその方が作業効率がいいからという区別。

 まあ、若い女性の声だと上から目線で、低い男性の声だと比較的大人しくなるっていうあからさまなお客様が多い世の中もどうかと思うけど。

 ポーンという音と共に扉が開いたエレベーターに三人乗り込むと、まるで場を和ませるかのようにひだりん左道くんが「しっかし、シャツのサイズが合わないってだけでここまで引っ張れるのもある意味才能っすねー。こわ。」と呆れながら言い、軽く伸びをする。

 そう、クレームは通販で購入したシャツのサイズが合わないというシンプル極まりない内容だったのだが、何しろそんな簡単なコトを把握するのに二十分以上かかった。とにかく文字通りお話にならない状態で、ひたすら怒鳴られ続けたサトキチ佐藤さんはさぞかし辛かったろう。涙目になって、それでも懸命に対応してくれていた。

 しかも入電時間はカスタマーセンター受付時間終了ギリギリ三分前という間の悪さ。

 近くに座っていたため、異変に気付いたひだりん左道くんがグループリーダーだった僕を呼びに来てくれ一緒に後処理まで手伝ってくれていたのだ。

 よくある事とはいえ本人は何も悪くないのに怒鳴られるという理不尽、さぞかし精神を消耗したことだろう。

 理不尽な目に遭った時、僕ならとりあえず何か飲んだり食べたりして気を紛らわせるなと、思わず、コーヒーでも奢るよ、と言いかけ、いや待て、ジュースの方がいいか、いやいやそもそも奢るなんて馴れ馴れしいか、いやいやいや、と一人無限ループが始まった。

 とりあえず無難な会話、無難な話題といったら…エレベーターから降りて駅の方へ足を向けながら「帰り、どっち方面だっけ?」と聞いてみる。

「あ、下り方面です。」

「あー、この時間混んじゃうねぇ。寄り道でもしちゃいますかー。」

「あ、じゃあコーヒーでも奢ろうか?」

「え?」

 しまった、ここはコーヒーとかじゃないだろう。焦ってしくじった。なんとかフォローを…

「おー、イイっすねー。せっかくだから清水さんオススメのさんぽみち、行っちゃいますかー?」

「いいですね!よるさんぽ、アリです!」

 え、いいの?

 内心おそるおそるだった僕に比べ、軽やかに応えてくれる二人。

 散歩、アリなんだ。

「ここの遊歩道って、広々してていいですよね。クリスマスの時のイルミネーションも超キレイだったんですよ。」

 へぇ、そうなんだ。知らなかった。まあこの道、使うようになったのはつい最近だもんな。

「それはちょっと楽しみかも。」

「わっ、誰かと来るご予定でも?」

「そういうサトキチは誰と来たんだい?」

「ふふーん、クリスマスイルミネーションを恋人同士で見るなんて決まりはゴザイマセーン。」

「あー、良かった。俺だけ一人で見に来るんかと思ったー。」

「あーら、私は一人じゃなくて友達とですー。」

「すいませんねー、誘う友達いなくて。野郎同士でイルミネーション見てもねー。」

「え、ダメなの?」

 遊歩道の石畳が音を鳴らす。二人が同時に止まったからだ。

 え、何?なんか変な事言った?あ、もしかしてダメとか失礼だったのかな。

「そう、そうですよね。男同士だろうが、女同士だろうが、恋人同士だろうが、ぼっちだろうが、クリスマスイルミネーション見るのに問題ないですよね。」

「俺、清水さんのそういうトコ、好きっすー!何か天然っていうかー、超越してるっていうかー。」

 え、そ、そうなの?そ、そんなご大層なものなんかじゃなく、単にイルミネーションを観に行くのなら恋人同士で、という一般的な発想に思い至らずうっかり口が滑っただけなんだけど。普通だったらそこで恋バナとやらに突入して皆んな仲良くなったりするはずなんだよね、なのに、見当外れな返事しちゃっててダメダメだし、それでも褒めてくれるなんてやさしいなぁ。あ、でも僕みたいなやつ相手に恋バナしても面白くないし、あまり立ち入って欲しくないプライベートな事に触れたりしたら申し訳ないし…え、どうしよう。何て返すのが正解?

「あ、ここかあー。」

「えー、本屋もある、えーオシャレー。」

「先に席とっちゃおー。」

 一人無限ループで固まりかけていたが、はっと気を取り戻し「あそこ、空いているかな。」と動き出せた。あぶない、あぶない。

 駅直結の店舗と違って、ちょうど駅と駅の真ん中あたりにあるせいか比較的空いている。良かったよ、席空いてて。

 中央にどどんと置いてある十五人は座れそうな大きなテーブル席。そのちょうど端っこが空いてたのでL字型に並んで座った。

「あーじゃー俺、買ってきますよー。何にします?」

「あ、ありがとう、じゃ、これで三人分お願いしていい?」

 そう言って慌てて財布から五千円札を出す。

「え、ホントに奢ってくれるんですか?すんません、ゴチですー。」

 少しおどけた調子で頭を下げ恭しく五千円札を受け取るひだりん左道くん。

 「ありがとうございます!」とサトキチ佐藤さんもわざわざ立ち上がって頭を下げた後、「私アレ!あれがいいです!」と入口に立てかけてあった看板を指差す。季節限定と縁取られた文字にきらきらした果物や茶葉がアーティスティックにチョークで描かれている。

「りょおーかい!清水さんは?」

「トールのカプチーノで。」

 念願の謎呪文、言えた。

 やった。言えたよ。

 浮かれたのも束の間、新たな問題に直面する。一人が注文しに行ったらその間、残された二人は何話していたらいいんだろう。え?二人共通の話題とか?何だろう、何話したらいいんだろう。ヤバイ。また緊張してきた。

 動揺を隠しながら無駄に時間をかけてゆっくり財布を仕舞い、上着も時間をかけてゆっくり脱いで畳む。

 そこへ注文してレジで支払いを済ませたひだりん左道くんが「ありがとうございましたーお釣りです。」と席に戻ってきた。

 おお、救世主!と思った途端、「多分すぐ出来あがると思うんで、ちょっと取ってきますねー。」とまたすぐに行こうとする。

「あ、僕が取りに行っていいかな?作るところ見るの好きなんだよね。」と素早く引き止め、立ち上がる。

「へー、さっすがコーヒー好き。頼んまーす。」

 どっかと座ったひだりん左道くんと、え、ちょっと狭いんだけどーと笑いながらブツクサ言うサトキチ佐藤さんを横目に、内心ほっとしながら席を立った。

「じゃ、お疲れ様という事で、」

 三人、カップを軽く掲げながら「乾杯。」と声を揃える。

「ふふ、ビールじゃないのがアレですね。」

「なに、サトキチ、ビールが良かったん?」

「んー、実はビール苦手。だから逆にこういう方がありがたーい!」

「俺はどっちでもありがたーい!」

 良かった、とりあえず二人とも嫌いじゃなくて。

 嫌いどころか、これ、飲んでみたかったんですよと目をキラキラさせながら写真を撮っているサトキチ佐藤さん、今どきだなぁ。サトキチなどという一見古風な名前が逆にイマドキ感を際立たせているかのようだ。

「サ、佐藤さんはまだ学生だったっけ?」

 あぶない、サトキチ佐藤さんって言うとこだった。

「はい、いま二年です。」

「とりあえずサトキチが乾杯してから写真撮るタイプで良かったよ。乾杯する前から写真撮り始めるヤツ、困るんだよねー。こっちは早く飲みてぇっつーのに。」

「さすがに、そこは弁えてますわ。」

「しっかり者だね、偉いなぁ。そういえば明日、学校は大丈夫?朝早くないの?」

「えへへ、しっかり者は次の日が朝早い時、ラストまでシフト入れたりしません。」

「おー、エライエライ。ぶはっ、清水さん、ビール飲んだみたいになってるー。」

 爽やかに笑いながらすっとスマホを出して顔を映してくれた。

 これは迂闊だった。泡の多いカプチーノにそんな罠があったとは。

 っていうか、スマートだなぁ、こんな風に違和感なくスマホを鏡代わりにサッと見せてくれるなんて。

 画面に映った自分を見て見事なヒゲに思わず口が綻ぶ。

「泡ヒゲなんて久しぶりだなぁ。はは。」

 言いながら紙ナプキンで拭う。そもそもビールどころか、アルコール自体たいして飲める体質ではないし、飲みに行く事もあまりないしな。

「マグカップで飲むと、泡ついちゃいますよね。テイクアウト用の紙コップだと、蓋がついてるから。」

「そういや、ウチの姉ぇちゃんもカプチーノはフタを閉めて飲むもんじゃーと、って言ってたよーな。」

「えっ、そうなんだ。あれって蓋閉めたまま飲むもんなの?」

「や、俺は開けて飲む派っす。猫舌なんでー。」と首の後ろに片手を入れながらわしわしするとイヤーカフがちかりと見えた。「ホットを買うなんて滅多にないけどー、」とひとりごちるように言う彼のもう片方の手は冷え冷えのグラスを握ったままで、体温を下げようとしているようにも、冷たさを堪能しているようにも見える。

 そんな彼に目を見開いたサトキチ佐藤さんが「ひだりん、お姉さんいるんだ。末っ子?」と意外そうに聞いた。

「いーや、真ん中。なんとオソロシイ事に妹もいるのデス。」

 言いながら両手で包んだグラスを眼前にかざして拝むように答えてみせる。

 お姉さんと妹さん、女性に囲まれて育ったからこんなにも人付き合いが上手いのかな、「そうか、だからひだりん左道くんは気配り上手なんだね。いや、凄いなあ。」と後半、心の声が口に出て、しかもあだ名呼びしちゃっている事にも気付かずただただ感心していた。二人の視線が自分に釘付けになっている事にも気付かず。

「やだ、ひだりん左道ってサウスポー左道みたい、ウケる。肩書きカッコ良。」

 え…、

 え、やば、ヤバいヤバい。ひだりん左道って口に出てた?声になってた?うわ、どうしよう、、

「いーな、それ。今度からひだりん左道って名乗ろー。」

「そしたら私はサトキチ佐藤って名乗ろう!」

 ――良い子達…!

「いやごめん、つい…」

 頭の中が混乱してはいたが、変に謝り過ぎるのも失礼かと思い、生真面目正直作戦でいく事にした。

「研修の頃からなかなか顔と名前が一致しなかったもんだから、名前と一緒にその人の特徴とかも頭に浮かべるようにしていて、ついごっちゃになってしまって…」

「やだなぁ、うれしいですよぉ。そんな風に呼んでもらえたら。ぜひサトキチ佐藤って呼んで下さい。」

「そーすよー。それより大事なトコロは、俺が()()()()()ってトコ。聞いていたかいサトキチ佐藤君?」 

「もう、せっかく褒めてもらったのに自分で言っちゃあ台無しじゃん。」

「え、でも本当にひ、ひだりん左道くんはすごいよ。周りをよく見ているからこそ今日だってすぐ気づいて呼びに来てくれたし。本当に、助かっているよ。僕はあまりそういうの、得意じゃないから。」

 あだ名呼びにちょっぴり緊張しながら正直に白状する。

 するとクレームにハマって今日助けられた張本人が顔の前で合掌しながら、まるで経でも唱えるかのように一気にまくしたてた。

「その件に関シマシテハ全くもって同意致シマシテいやいやほんっとうにアリガトウ助かりましてゴザイマス。」

「なんじゃそりゃー。」

「あはは。サトキチ佐藤さんは照れ屋さんなんだねえ。良い子だなぁ。」

 ぼぼんという音がしたかと錯覚するほど顔の色が変わった。そんな彼女をまるで冷やすようにグラス越しに覗き、「へー、貴重なサトキチが見れたわー。なかなか本音見せないもんねー。」とひだりん左道くんが頬杖をついてにんまりする。

「そっ、ほっ、本音って、」

「まー、本音どころかまともに会話したのもほぼほぼ初めてかー。ねー、清水さん。」

「そうだね。僕もこんな風に仕事帰りにお店寄ったりして話すの初めてかな、嬉しいよ。」

 新設されたコールセンター部署に配属され、二人がアルバイトとして採用されてから半年近く経つが業務以外で話すのは数えるほど、というかほぼほぼ初めて。

「飲みに行ったりしないんですか?」

 前髪を片手で押さえながらストローをカシャカシャ回している。普段から学生らしからぬ落ち着きがある彼女だが、今は年相応に、いやそれ以上に幼く見えて可愛らしい。

 照れ屋さんて言われたのがそんなに恥ずかしかったのかな、悪い事言っちゃったかな。

「あまり飲みとか…、ええとお恥ずかしながらあまり友人が多いほうでもないし、そもそもそんなにお酒も得意では無くて。それに…、」

 慎重に言葉を選びながら何とか間を繋ごうと脳をフル回転させる。僕なんかの拙い体験談で少しでも元気になってくれるなら多少の恥はかき捨てよう。

「学生の頃、お酒でやらかしているから自粛しているのもあるかな。はは。」

「やらかし?」

 ぐりんと二人同時に顔がこちらへ向く。

「いや、あの、」

 期待に満ちた輝きの目が二対。

「そんなに、面白い話じゃないから、そんなに期待されても…、いや頼むから、ガッカリ…す、る…から…、」

 まさかこんなに食いつかれるとは思わなかった。そこはあっさり流されると思ったのに。

 ガードするように両の手のひらを二人に向けて硬直させるが、どうやら何の役にも立たない様だ。

 うーん、これは見逃がして貰えそうにない。

 はぁ、と息を吐きながら諦め、組んだ両手をテーブルの上に乗せる。

「本当に大した事じゃないんだけど、学生の頃限界がわからなくて調子に乗って飲んでたらひっくり返っちゃったんだ。で、気づいたら救急車の中。」

 詳細はかなり端折って、なるべくネタっぽく聞こえるように話したつもりだった。自虐ネタとでも言おうか。

「救急車っ?」

「それはなかなか大した事っすよ。」

「本当に救急隊員の方達には申し訳なかったと思っております、はい。反省しております。」

 それは心の底から本当に。謝れるものなら今でも謝りたい。そして感謝したい。

「もし僕が地位と権力を持ったら、まず、医療従事者の方々の給料を上げます。」

「ぶはっ、何すかその選挙公約的な。」

「うん、賛成します。」片手を挙げて下を向いたまま同意するサトキチ佐藤さんは至極真面目に姿勢を正す。

「私、子供の頃から医療従事者に憧れていて、看護師だったり救命士だったり薬剤師だったり…色々調べたんですけど、向いてないって言われて…」

「向いてないー?」

「私、見た目も話し方もキツいから患者さん怖がらせるんじゃないかって。それでコールセンターで話し方とか上手になれたらなって、ここでバイト始めたんです。でも、」

 ここで初めて顔を上げて僕達を見つめる。「話し方とかはおかげさまで大分マシになったと思うんですけど、一つ解決するとまた一つ問題が。なんて言うか、あんなにも大変な仕事なのに割に合わないっていうか、もちろんお金の問題じゃないって言う人もいるけど、そうじゃない、そうじゃないだろうって。十八から選挙行けるようになって何とか変わって欲しいって思って投票に行くけども、思うけども、けどもーホントにっ、、」

「おー、熱いねー。」

「で、結局憧れてはいても実際の職業として受け入れられるのか、勉強すればするほどわかんなくなってきちゃって…。」

 ここではっと気づいたように、「す、すみません。つい…、」と彼女は前髪を押さえながら下を向く。

「いや、えらいよ。きちんと考えているんだね。しかも色んな角度から。なかなかできる事じゃないよ。」

「そーそー、真面目に向き合っている証拠。」

「カフェオレとカフェラテとカプチーノ…」思わず口に出た。

「へ?」

「え?」

 二人は同時にキョトンとしている。

「いや、えと、前、ちょっと調べたんだ、違いがわからなくて。」

「はあ。」

 目をぱちくりさせている二人に説明を試みる。

「ベースがドリップコーヒーかエスプレッソか、ミルクやその泡の量が多いかどうかとかの違いが色々あったんだけど、日本語にしちゃうと全部コーヒー牛乳なんだよ、結局。」

「それ言ったら身も蓋もないすね。」

「そうなんだ。メニュー表には全くのベツモノとして記載されていてその違いを必死に覚えてきても、訳し方によって全部コーヒー牛乳で同じだったりするんだよ。視点が何かによって同じものなのに全く違うものにもなるし、だから、えと、何が言いたいかというと、やっぱりやりたいこと、憧れているものがあるのは良いことだなって。」

 やばい、支離滅裂だ。どうしたらもっと上手く説明出来るんだろう。

「あの、だから似てるけど違って、違うけど似てるっていうか、目指しているうちに似て非なるものになるかもしれないし、違うものを目指していても結局同じところに辿り着く事もあるっていうか、あー、ごめん。うまく説明できないね、忘れて。」

「違うものを目指しても同じところに辿り着く…。」

 そうつぶやくサトキチ佐藤さんはじっと一点を見つめている。

「…そうか。」と呟いたのは誰だったか。

 二人ともかもしれないし一人だけかもしれないし僕の気のせいだったかもしれない。



 

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