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4 村(前編)

「…てめえら!動くんじゃねえぞ!」


興奮した男は、腰からナイフを取り出すとメリアの首筋に当てた。


「おい、落ち着けよ!一体何を…!」

「うるせえ!俺の娘にかけた呪いを解かねえと、コイツを殺す…!」

「…!?」


男はすごい剣幕でモードとフィエルを睨むと、ナイフを握る手に力を込めた。


「…呪いって、何のことだ?」


緊迫した空気の中、フィエルが毅然とした態度で問いかける。


「…とぼけるな!俺の娘が、お前ら魔女に貰ったククリの実を食べたら、苦しそうに倒れちまったんだ!」

「倒れた…!?」

「あぁ、そうさ!毒だか呪いだか知らんが、何のつもりだ!」

「ひっ…!」


男の怒りのままに揺さぶられるメリアは抵抗できず、青ざめた顔をしている。


「そんな、あたしはそんなこと…、それにあのとき、ククリの実は捨てられて…」

「全部は捨ててなかった!こっそり持ち帰ってたんだよ!」


女の子の父親を名乗る男は、怒りとも悲しみとも言える顔でメリアに訴える。


「…寝室で食べちまってたんだ。全身真っ赤になってて、薬草を飲ませようにも上手く飲み込めねえんだ。さっきまで元気だったんだ、こんなこと初めてなんだよ。頼むからよ、呪いでも何でもいいから、娘を治してくれよ…。」


彼はだんだんと声を震わせる。

さっきまでの威勢は消え、ナイフを持つ手も小刻みに揺れていた。


「どうしてそんなことに…?」

「違うのフィエル!あたしはそんなことしてないわ!」

「ああ、メリア、わかっている。」


メリアの悲痛な声に、フィエルは落ち着いて答えた。


「とにかく、娘を見せてもらう。まずはメリアを離してくれ。」

「あ、あぁ…クソっ…!」


男は乱暴にメリアを解放するとナイフを納めた。

半ば自暴自棄になっていたようだったが、少し落ち着きを取り戻した様子だった。


「変なマネしたら承知しねえからな…!」

「そちらこそ、言われのないまま危害を加えてきたら容赦はしない。」


緊張した空気の中、炊事場で赤い炎が揺れていた。



◇◆◇◆◇



「連れてきたぞ!」

「おぉ…!」


村のとある家では、その到着を待ちわびる人で溢れていた。


「あなた…!あの子が苦しそうで…!熱も下がらないわ!」

「落ち着け!今魔女を連れてきた、すぐにでも治させる!」

「魔女…!」


男性に縋りつく女性は、キッと家に入ってきたフィエルたちを睨みつけた。

怒りのこもった表情に、メリアは思わず視線をそらす。

急いで夜道を走ってきた彼女たちは、肩で息をしながら家の中を見渡した。


「あの子はどこにいる。」

「あぁ…、この奥だ…。」


男性に連れられ、フィエル、メリア、モードは奥の部屋へ続いた。


「…!」


フィエルは部屋に入って息を呑んだ。

近所の人々が駆け付けているのか、多くの人がそこに集まっていた。

人々の視線の先には、粗末な布団に横たわる小さな女の子の姿があった。


「なんてこと…!」


さっきまで元気に会話をしていた女の子は、今や苦しそうに胸を上下している。

肌はまだら状に赤くなっており、大量の汗をかいて苦しんでいた。


近くには、齧られたククリの実が転がっていた。


「おねえ…ちゃん…」


周囲の騒がしさでわずかに目を開けた女の子は、うつろな目でメリアとモードを見た。


「たす…けて…。」

「…っ!」


女の子の掠れた声に、メリアは悲痛な面持ちでモードの手をぎゅっと握る。


「大丈夫よ…!必ず助けるわ!」

「そうだ、オレたちに任せろ。」


フィエルは女の子の頭を撫でながら静かに言った。


「頼むから助けてくれ…、こんな姿見ていられねえ。」

「とりあえずやれるだけのことはやろう。薬草は飲めないんだろ?まずは治癒魔法だな。」


そう言って、フィエルは腕捲りをすると女の子に手をかざした。


以前、彼女はこの村で治癒魔法使いとして村人の病気や怪我を治していた。

こうしてたくさんの人々を治癒し、助け、ありがとうという言葉をもらうことが彼女の幸せだった。

今はそんな機会も無くなってしまったが、やることは変わらない。


「治癒の精霊よ、力を貸してくれ…!」


彼女の手の先で、ほのかに緑色に光る粒がぽつぽつと現れた。

光の粒はゆっくりと女の子の方へ漂い、その体の中へ消えてゆく。


「あなた…。」

「きっと大丈夫だ、これで助かる。」


女の子の両親は心配そうにその様子を見守る。

沈黙の続く中フィエルが額に汗を滲ませると、女の子の指が微かに動いた。


「フィエル…!」

「ああ、もう少しだ…!」


このまま治癒魔法をかければみんな元気にある。

そうすれば、またこの村で治癒ができる日も来るかもしれない。


フィエルが今一度、魔力を込めたそのときだった。


「うううっ…!」


女の子は、突如呻き声をあげると全身を震わせ始めた。


「え…!?」

「なんだ!?何が起こって…!?」


明らかに異常なその様子に、フィエルとメリアは混乱する。

女の子は先ほどよりもさらに苦しそうにもがき、ヒューヒューと空気の漏れるような呼吸を始めた。

フィエルは治癒魔法を中止したが、彼女の容態は変わらず悪化したままだった。


「そんな…!治癒魔法が効かない…!?」

「ちょっと!どういうことよ!あなたもしかして…!」

「おい!大丈夫なんだよな!?」


血相を変えた両親が、呆然としているフィエルに組みかかる。

周りの人々も混乱して、予想外の出来事にどうすればいいか分からずオロオロしている。


「魔女が呪いをかけた…!」

「コイツらを通報しろ!捕まえるんだ!」


狼狽えるもの、怒るもの、悲痛な表情で黙り込むもの、様々な感情が苦しそうな女の子を取り巻き部屋の中は騒然とする。


「…そんな…!」


喧騒の中、メリアは泣きそうな表情でモードに縋りついた。


「モード、どうしたら…!」

「…メディカルモードへ移行します。」


モードは少し目を瞑ったあと、女の子の横に膝をつきその腕に触れた。


「モード、何を…?」

「体温、心拍数及び血圧確認中…。血清アレルギー検査を実施、データベースの特定タンパク質と照合…。」


彼女は胸に耳を当てたり、口の中を覗きこんだりしている。

メリアには何をしているかわからなかったが、黙ってその様子を眺めていた。


「おい!何をしている!」


モードを訝しげに見ていた一人の男が、モードを引き剥がそうと歩み出る。


「これ以上変なことはさせねえぞ!」

「待ってください!必ず、必ず助けますから…!」

「信じられるか!なら何故まだ苦しんでるんだ!」

「そ…それは…!」


男の前に立ちふさがったメリアは、説明できずに言い淀んだ。

モードならきっと何とかしてくれるという気持ちだけでは、この場は抑えきれそうにない。


「メリア。」


すると、周りの喧騒をものともしないモードがメリアを呼んだ。


「…どうしたの?」

「陽性反応、アナフィラキシーショックです。」


彼女の言葉で、部屋がしんと静まり返った。

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