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14 精算

「誰…?」


厳つい男性の間から、不釣り合いな少女が姿を現した。

女性であるメリアやフィエルから見ても、彼女は気品に満ち溢れている。


「初めまして魔法使いさん。わたくしの名前はカリンセラ。氷の魔法使いですわ。」

「魔法使い…!」


フィエルはモードの背中の魔導具を見る。


「…これは、貴女が?」

「ええ、それはわたくしが作った魔導具ですわ。」

「そうか…それは、申し訳なかった。」


フィエルは構えていた杖を下ろすと、カリンにすっと頭を下げた。


「…メリアが何も言わず、どこからかコレを持ってきたとき、裏があるとは薄々気付いてたんだ。ただ、オレは見ないフリをして使わせてもらっていた。」


彼女はバツが悪そうに服の裾を掴んで続ける。


「…オレが頼りないから、メリアはこうして手を汚すしかなかったんだ。全てはオレの責任だ、罪を償わさせてくれ。」

「何を言ってるのフィエル?これはあたしのやったことよ。償えるかわからないけど、できることならなんでもするわ。」

「自分は何もできず、友達に犯罪までやらせて、オレにのほほんと生きていけって言うのか?」

「モードはあたしの使い魔で、フィエルは関係ないわ。勝手に責任取るとか言われても困るのよ。」

「メリア、いつもそうやって一人で抱え込んで決めるのやめろよ。少しはオレにも迷惑をかけてくれよ。」

「迷惑かけてくれとか、迷惑なんですけど?」


二人はお互いの非を譲らず、訳のわからない応酬が始まってしまった。

カリンはため息をつくと、やれやれと首を振る。


「詳しいことはわからないけれど、魔導具が必要な事情があったのでしょう?まずはそれを片付けますわよ。」

「そ…それは、ありがたいけれど…。」


カリンの話を聞き、膨れていたメリアはうつ伏せになっているモードに目線を移した。

モードはこの間にも何度か起きあがろうとしていたが、その度にフィエルに身体を押さえつけられている。


「…その子が怪我をして、氷魔法が必要になったのかしら?」

「そうよ。あたしたちは氷魔法が得意ではないから、冷やし続けるために魔導具の力が必要があったの。」

「なるほど、事情はわかりましたわ。レナード、バロム。」

「…よろしいのですね?」


カリンが頷くと、後ろに立っていたレナードとバロムは部屋を後にした。


するとカリンは、モードに魔導具を固定していた紐をするっと解いた。

そのまま背中の魔導具を取り払うと、彼女はモードに巻かれている包帯も解き始めた。


「…あっ」


フィエルが何かを言いかけている間にも、カリンは包帯を解き続ける。

まだモードの患部を見ていないメリアも、固唾を飲んで様子を見守る。

そして、遂にモードの背中が露わとなった。


「…まあ!」

「なんてこと…!」


その背中を見たカリンとメリアは絶句する。

フィエルはしまった、と言う顔をしたが既に手遅れだった。


「モード…!ごめんね、あたしのせいで…!」


メリアは、これまで泣き言一つ言わなかったモードに涙ぐんでいる。


「…いえ、特に苦痛は感じておりませんので…」

「強がらなくて良いの!こんなことになって、とても辛かったでしょう?」


そんなやりとりをしている横から、フィエルはおそるおそる覗き見た。


「え…?」


モードの背中は皮膚が痛々しく爛れ、一部は赤く滲んでいるような状態であった。

重度の火傷を負ったような深刻な傷跡は、あの攻撃の凄まじさを物語っていた。


「(…嘘だろ!?もうあんなに回復してるのか…!?)」


フィエルは、メリアたちとは別の理由で驚いていた。

ヒトで言うならば内臓組織が露出しているレベルの重大なダメージを負っていたはずだったが、既に患部は皮膚に覆われている。

皮下組織の様子はわからなかったが、攻撃を受けてからまだ半日と少ししか経っていない。


魔物ですらありえないような回復速度に、フィエルは薄寒さを感じていた。


「…ご迷惑をおかけし申し訳ございません。放熱部のスキンは優先的に回復させましたが、内部の冷却システムの復旧にはまだ時間がかかる見込みです。具体的にはあと四日ほど…」

「四日と言わず、もっと休んでいいわ…!」

「しかし、こんなところで、いつまでもこうしているわけには…」

「そんなの、なんとかするわよ!」


メリアは声を張る。

そんな様子を見てフィエルは肩をすくめたが、モードの言うことにも一理あった。


突然飛び込んだような廃墟で、生活基盤もなく何日も過ごすことは難しいだろう。

しかし、モードが動けない状態で生活のために王都をうろうろすることにも大きなリスクがある。


盗んだことの精算と、モードの回復と、生活の確立。

問題は山積みだったが、もはやこんな状態ではどうしようもなかった。


「冷やせば、よろしいのですか?」


膠着した空気感の中、カリンがさらりと口を開いた。


「冷やすことで、回復が早まるのですね?」

「はい。排熱量に比例して回復は早まりますので、冷却は効果的です。」

「わかりましたわ。ではこうしましょう。日中はわたくしの氷の魔法、夜の間は魔導具を使うこととしましょう。」

「え…」


カリンからの予想外の提案に、メリアは呆気に取られる。


「…助けてくれるの?」

「魔法使いが困っていたら、助け合うのは当然のことですわ。とりあえずは、わたくしの隠れ家においでください。」


カリンは下ろした魔導具を再びモードの背中に乗せ、紐を結びつけながら言った。


「…盗んだことについては、また後ほど。」


カリンは、誰にも気づかれないレベルで口角をわずかに動かした。



◇◆◇◆◇



「此度の騒動について、貴女たちには二つのことを要求いたします。」


カリンの言葉に、メリアはごくりと生唾を飲み込む。

彼女たちは今、カリンの隠れ家にいた。


あの後カリン、メリア、フィエルで訓練場に散らばった荷物を回収し、同時にバロムとレナードによりモードが運ばれた。


夜も更けていたためつつがなく事は運び、誰の目にも触れることなく隠れ家にたどり着くことができた。

モードを背負ったバロムが、着く頃には尋常ではない汗をかいていたという不可解な出来事には誰も言及しなかったが…。


ともあれ、皆うまく身を隠すことに成功したのである。

そんなメリアとフィエルは、椅子に座るカリンの目の前で緊張の面持ちで立っていた。

カリンの後ろでは、レナードが目を瞑って話を聞いている。


「一つ目の要求は、貴女の使い魔…モードさんと話をさせていただきますわ。」

「モードと?まあ、断る道理もないけど…。」


首を捻りつつも頷いたメリアを見て、カリンは再び口を開く。


「二つ目の要求は、貴女たちがここにいる間、何もしないこと、ですわ。」

「何もしない…?」


今度はフィエルが首を捻った。


「わたくしは今、王都で重要な局面を迎えています。ここで貴女たちに下手に動かれて、魔法使いの存在が目立ってしまうことは避けたいのです。」

「いや、細かいことは話さなくていいぜ。カリン…さまの、当然の権利だ。」

「カリン、と呼び捨てでよろしくてよ。」


カリンはにこやかに言った。


「…しばらくの衣食住はこちらで用意いたします。どうぞ、自分の家と思ってごゆっくりお過ごしください。」

「そんなこと言われても…」


話しがうますぎる、と言いかけてフィエルは黙った。

いくら魔法使い同士とはいえ、窃盗の犯人にここまで情けをかける人がいるだろうか。

いやしかし、貴族は寛大なのかもしれんな…とフィエルは強引に納得した。


「…では、よろしいですか?」


メリアとフィエルが要求を飲み込んだ様子を見て、カリンは椅子から立ち上がった。


「…早速ですが、モードさんと話をさせてもらいますわ。」


メリアはゆっくりと頷いた。

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