11 破壊
「うぅ…!」
耳鳴りのする中、メリアは痛む頭を押さえながら身体を起こす。
何が起こったかは理解できなかった。
ただ、大きな爆発があり、それに吹き飛ばされたところまでは覚えていた。
「…おい、やべえぞ!」
「…早く捨てろ!持ち場に戻るぞ!」
もやがかかったような耳に、衛兵たちの慌てた声が聞こえてくる。
かろうじて片目を開けると、男たちがボロボロになった魔導具を放り投げて門の外へ逃げていくところだった。
「ぐぅ…っ!。」
文句の一つでも言おうと口を開いたが、うまく言葉が出てこなかった。
魔導具の放った攻撃は、その場にいた全員の予想を越えていた。
あれだけの衝撃であったにも関わらず、幸い大きな怪我はしていないようだった。
モードが守ってくれなかったら、どうなったことか…。
「も…モードっ!」
メリアはモードのことを思い出し、必死に周囲を見渡す。
土煙が舞い上がっており視界が悪いが、彼女の遥か後方に見覚えのある白髪の少女が横たわっていた。
「…なんてこと…!」
メリアは身体の痛みを忘れ、力を入れて立ち上がる。
彼女たちを庇うため、超高速の岩の弾丸を背中に受けたモードは激しく弾き飛ばされていた。
「だ、大丈夫!?」
ふらふらとモードに駆け寄るが、明確な返事がない。
彼女は地面に仰向けとなり、険しい表情で荒い呼吸をしていた。
「…メリア…。」
「良かった、生きて…!大丈夫…!?」
「…放熱ユニットが破壊されました。メインの熱交換システムが機能していないため、大幅な動作制限が掛かっています。サブユニットを空冷にて動作させていますが…」
「喋らないで!」
モードの声はいつもより小さく、何かがよくないことが起こったのだとメリアは悟った。
彼女はモードの正面に回り、弾丸を受けた背中を見るために身体を引き起こそうとする。
「モード、肩を持ってもいい!?」
「大丈夫です、申し訳ございません…。」
「お、重っ…!だめ、支えるだけで精一杯…!」
メリアは全力で肩を支えてモードの身体を起こそうとするが、あまりの重さに腕がプルプルと震えている。
「…フィエル!手伝って…!」
「ちょっと待ってろ!」
メリアがフィエルの方を振り向くと、すでに彼女は散らばった道具の中から必要なものをかき集めているところだった。
「熱い…!モード!今助けるからね!」
「…申し訳ございません…。」
モードの身体は火傷しそうなほど熱いが、メリアは耐えながら支え続ける。
「フィエル!早く!」
「すまん!もう少し頑張ってくれ!モード、背中を見せ…っ!?」
ようやく道具を集め終わったフィエルは、駆け寄ってきてモードの背中に回った。
しかし、その背中を見たフィエルは、あまりの衝撃に言葉を失った。
「(なんだ、これは…!?)」
モードの背中の服は破け、身体は大きく抉れていた。
しかし、そんなことはどうでもよかった。
モードは精霊ではなかった。
精霊は怪我をすることなく、力を失えば影が薄くなる存在だから。
そして彼女は、ヒトでも、魔物でもなかった。
モードの身体の中では見たこともない金属の塊が複雑に絡み合い、知らない素材が相互に接続し、そしてそれらが赤熱していた。
何か液体が漏れた痕跡も見られたが、それは血液ではなかった。
「(…どっ、どうすれば…!)」
フィエルは治癒魔法を掛けようとするが、村での出来事が脳裏に浮かんで思い止まった。
知らないものに迂闊に手を出すべきではないと考えたのだ。
「…フィエル!何してるの!」
「あ、ああ…!今から何とかする!」
何とかするとは言ったものの、何をどうすればいいのか彼女は見当もつかなかった。
「どうすれば…!」
「…フィエル、私の身体を出来る限り冷却してください…。熱暴走により、自己再生機能が極端に低下しています…。」
「フィエル!モードが死んじゃう!」
メリアは若干パニックになっており、モードの言葉をよく聞いていない様子だった。
「わかった、冷やせばいいんだな!」
「…ありがとうございます。」
「フィエル、モードの背中は…!」
「見るな!」
そのとき、メリアがモードの背中を覗き込もうとした。
しかし、フィエルは咄嗟にそれを止めた。
何故そうしたかは彼女自身もよく理解していなかったが、そうすべきだと判断していた。
「…見ないほうがいい。オレが何とかするから、モードの身体をしっかり支えてくれ。」
「…!」
メリアは泣きそうな顔で頷くと、がっしりとモードを支えた。
離れているフィエルにも熱が伝わってくるほどモードは熱くなっており、メリアがどれほどの熱さに耐えてるかは想像もつかない。
「モード、少し脱がすぞ…!」
フィエルは包帯を取り出すと、モードが攻撃を受けた部位全体を覆うように上半身へ巻きつけた。
「血…は止まってるみたいだから、とりあえず患部が露出しないようにした。あとは冷やせばいいんだな?」
「ありがとうございます、フィエル…。」
「とりあえず、安静に出来る場所を探すぞ!」
メリアがこくんと頷いたのを見ると、フィエルはモードの左肩を支えた。
反対側をメリアが支えると、二人はタイミングを合わせて立ち上がった。
「誰か…近所の人を頼るの?」
「…いや、さっきまでの衛兵の態度を見る限り、王都の人間も魔法使いに友好的だとは思えない。訓練場の中…は流石に危ないから、近くの空き家を探そう。」
「そうね、ここまでの道で使われてない家があったから、とりあえずそこに…!」
「わかった!」
三人は重い足取りで訓練場を出ると、来た道を引き返していった。
幸い、道中誰にも会うことはなかった。
◇◆◇◆◇
「アレは…何だったんだ?」
壊れかけのベッドにうつ伏せになっているモードの隣で、フィエルはボソリと呟いた。
「はぁ…はぁ…わからないわ…!」
「メリア、そろそろ代わろう。」
フィエルはメリアと場所を変わると、モードの背中に手を伸ばした。
「…氷の精霊よ、その力をここに…。」
彼女たちは、氷の魔法を使ってモードを冷やしている。
二人には慣れない魔法だったが、ないよりましだった。
「…魔導具は、魔法を溜め込んで使うものなの。」
一息ついたメリアは、汗をぬぐって話し始めた。
「魔法使いの力を色んな人が使えたら、生活はとても便利になるわ。魔導具はそんな発想で生まれたのよ。」
「ああ、オレも魔導具の存在は知ってる。だけど、アレはそんな代物じゃなかっただろ?」
「…そうよ。魔導具は魔力を溜め込む時も使う時も、膨大な魔力が無駄になってしまって、あんな強い攻撃は絶対に不可能なのよ。」
「だが、現にオレらはやられてしまった。」
フィエルは傷跡の残る自分の腕を見た。
彼女も先ほどの攻撃で怪我を負っていたが、治癒魔法の使用を最低限にしている。
魔力を温存してモードへの氷魔法に専念しているものの、慣れない魔法を長時間使うことは想像以上に負担となっていた。
「…あれが魔導具かどうかはわからないわ。どこの誰が、どうやって作ったのかもね。」
「厄介なことになったな…。」
「これからは、もっと注意して行動しましょう。今誰かに攻撃されたら、次こそは助からないわ。」
「…ああ。」
思い返せば、迂闊であった。
衛兵に言われるままに人気のないところへ連れられた上に、モードの警告をよく聞かなかった。
その結果、モードは動けなくなってしまった。
先ほどだって、彼女が守ってくれなければ確実にメリアたちは死んでいた。
死。
ぼんやりしたその輪郭が、急にはっきりと影を持って目の前に現れた。
今までもメリアは危険な洞窟で死と隣り合わせだったが、人相手となると訳が違う。
ここ王都では、魔女であるというだけで簡単に命を奪われてしまうのだ。
「…もう二度と、モードに辛い思いはさせないわ。」
メリアは拳を握りしめると、すっくと立ち上がった。
「どうしたんだ?」
「このまま一晩中、慣れない魔法を使い続けるつもり?あたしはモードを冷やす方法を探してくるわ。少しでも早く回復してもらえるなら、氷でも、魔導具でもなんでも手に入れる。」
「…ああ、気をつけろよ。」
「無論よ。」
大きな決心をした様子のメリアを、フィエルは何も言わずに見送った。
深くフードを被った彼女は、部屋の外へと消えていった。




