ぽっちゃりモブ顔令嬢ですが、実は子供っぽい婚約者がいるのです!貴女も彼、いかがですか?
「フラワリーさん。本当に貴女は、みっともないお顔と身体つきをしているわね。そんな貴女に、美しきセイラック公爵家令息であるグレイ様の婚約者は、絶対に務まらないし、相応しくないわ!私こそグレイ様の隣にいるべきなのよ!」
「「そうよそうよ!早くグレイ様と婚約解消しなさいよ!」」
「……」
あー…。年に数回ある王城のガーデンパーティを楽しんでいた所、急に呼び止められて、人気のない場所に連れてこられたと思ったら…。まーた、この話ですか。
私は短くため息をついて、目の前にいるシャーレ侯爵令嬢とその取り巻きの令嬢方を見ました。
確かに、私は彼女達の言ったように、身体つきは細くなく、全体的にぽっちゃりしています。
シャーレ様のように顔が整った美人という訳でもないですし、目も小さいですし、私は伯爵令嬢だから、シャーレ様よりも身分が下です。
ただ、唯一自慢できる事と言ったら…身だしなみをしっかりしていて、お肌が綺麗な事でしょうか。あと、グレイ様から頂いた綺麗なドレスとか…でしょうか?
とりあえず、ここはどうにかして彼女達に帰って頂かなければ。グレイ様が「どこぉ?」って私を探しにきますし。
…あぁ、やっぱり予想通りですね。遠くからとても大きな、ドコドコと走る音が聞こえてきました。
私は真顔のまま、両脚に力を入れます。すると、「フラワリーちゃあああああん♡」という猫撫で声と共に、一人の男性がすごい勢いで私に抱きつきました。
…ふぅ。なんとか転倒は免れましたね。
私は大きくため息をついてから、抱きついてきた張本人であるグレイ様の腕を右手で強く掴みました。
「うおっ!いてててててて!…あぁ、これも愛の痛みってやつだねっ♡」
「別にどう思っても構いませんが、馬が人をはねるように、急に私に抱きつかないで下さいませ、グレイ様」
「えぇ〜?だってだってぇ!フラワリーちゃんが好きそうな生ハムサラダがあったから、知らせようと思ってぇ…」
…はぁ。目をうるうるさせて、そんな事を言うだなんて、つくづく面倒…いえいえ、可愛い事を言うお人ですね。
でも…それにしても、グレイ様はこんな態度を全面に出してもいいのでしょうか?
いつも公の場に出る時は、『笑顔の貴公子』として爽やかな笑顔を携える、非常にしっかりした『猫かぶりのグレイ様』になってるはず…。
あぁ、ほら。シャーレ様とその取り巻きの令嬢達が、今のグレイ様を見てドン引きしておりますわ。
「こ、こんなの…グレイ様ではない…」ってブツブツ言ってますし、彼女達はきっと、グレイ様に『理想の王子様』という幻想を抱いていたのでしょう。
正直…可哀想ですね。なにせ乙女の恋心を、グレイ様によって粉々に砕かれたのですから…。
これは、見てみぬふり出来ませんわ!
何とかして、シャーレ様の心を回復して差し上げないと、もしかしたら引きこもってしまうかもしれません!
引きこもりは、お肌の大敵なのです!
…せっかく美しい容姿を保ち続けているシャーレ様ですもの。綺麗であり続けて欲しいですし!
私はベリっとグレイ様を引き剥がして、シャーレ様にこう声をかけました。
「シャーレ様。グレイ様は子供っぽくて我儘ばっかり言うお方ですが、愛情は人一倍強いのです。グレイ様にどういう理想を掲げているのか分かりませんが、一度この状態のグレイ様と一緒にいてはいかがですか?心が回復しますわよ!」
「…えっ!?」
「は!?な、何言ってるの、フラワリーちゃん!」
…あらら。なんか私、言い間違えました?
シャーレ様は目をまん丸にして驚いてますし、グレイ様は怒ってるオーラがすごいです。
でも、ここで前言撤回する訳にもいきません。私は続けてシャーレ様にこう話しました。
「シャーレ様は先程、『グレイ様に相応しいのは自分自身』だと仰っていましたよね?じゃあ宣言通り、グレイ様の隣にいればいいんじゃないでしょうか?グレイ様の隣はいいですよ?珍しい蝶や虫の標本を見せてくれますし」
「ひいっ!」
「仕事がない日は、領民の子供達と遊んで元気いっぱいですし。…全身泥んこのまま帰ってきますけど」
「き、汚らしい!」
「去年の私の誕生日には、不器用ながらも熊のぬいぐるみを作ってくれたのですよ!綿が所々出てて、目も飛び出してましたが」
「いっ、いやああああああ!!」
ん?なんかシャーレ様が顔を青ざめさせて叫んだかと思うと、取り巻きの令嬢方を連れて、一目散に逃げてしまわれましたね?
う〜ん…。グレイ様のいい所を話していたつもりだったんですけど…。
って、なんかこの話をした途端、隣にいるグレイ様が目を輝かせて私を見てますけど…えーっと…。
「フラワリーちゃん!そんなにオレの事、大好きなんだねっ!嬉しいっ!」
「い、いやいやいや。ただ私は、グレイ様のいい所を述べたに過ぎないんですけど…」
「じゃあ、オレも言う!フラワリーちゃんは全部が可愛くて、見た目も性格もだーい好きっ!もちもちふくふくの顔とボディに、つぶらな瞳とサラサラな茶色の髪が、もう最っ高!オレがあげたドレスも、ぜーんぶ似合ってるし!好きっ!」
「そ、そうですか…」
「うんっ!性格も可愛くて、こんな時でもオレのいい所言っちゃう所とか、オレのやる事を殆ど肯定してくれる所とか、食べ物に目がない所とか、実は見た目を気にしてこっそりジョギングしてる所とか!もうぜーんぶ可愛い!大好きっ!」
「なっななっ!?なぜジョギングの事知ってるんですかー!」
ジョギングしている事を言われたのが恥ずかしくなり、私はついグレイ様の頬を両手でつまみました。
けれど、グレイ様は「ふへへ〜」と嬉しそうに笑ってるだけ。…な、なんでしょう…この肩透かし感は…。
と、とにかく!今日はガーデンパーティなので、美味しい食べ物を摂取しなくてはなりませんね!グレイ様が教えて下さった生ハムサラダもありますし!
グレイ様の頬をつねっていた手を離して、大きく深呼吸したあと、私は気合いを入れて目の前の婚約者を見ます。そして、彼に勢いよくこう宣言しました。
「では!私はこれから、生ハムサラダをめいいっぱい味わってきます!早く食べたいので先に戻ってますね!」
「えっ?う、うん。分かった。じゃあ、オレはゆっくり戻ってるよ。もうフラワリーちゃんをいじめる子は、いないでしょう?だから、オレが焦る必要は…ないかな」
「…グレイ様…」
あら?もしや、私がいじめられてると気付いて、グレイ様はあの行動を?
…う〜ん…それは多分ないですね。
グレイ様は嫌われたくないと思ってるお人ですし、わざわざ猫を脱いでまで本性を曝け出す方ではないので…。
多分、私を見つけて感極まったが故の行動、言わばミスですね!
私はそう納得して頷き、グレイ様を残してガーデンパーティー会場に戻りました。
さあさあ!生ハムサラダが私を待っています!思いっきり食べ尽くしますよ!!
※※※
<グレイSide>
可愛い可愛いオレのフラワリーちゃんが、前からこっそりといじめられているのは知っていた。
でも、フラワリーちゃんはすぐにそのいじめを跳ね除けてるし、何事もなかったのようにケロっとしてるから、中々彼女をいじめる令嬢を見つけられなかった。
だから、オレはこのガーデンパーティーでフラワリーちゃんを注視していたんだ。
すると、ノコノコといじめの犯人がフラワリーちゃんを連れてガーデンパーティーを抜けているじゃはないか!
しかもその主犯は、オレの事を『完璧で清廉潔白な理想の王子様』とのたまうシャーレ嬢だというではないか!
正直、オレは理想の王子様って訳じゃない。そう見せた方がウケはいいから、猫をかぶってるってだけ。
本当は公の場でも叫びたいし動き回りたいし、フラワリーちゃんとイチャイチャしまくりたい。でも出来ないから、あんな形を取るしかなかったんだ。
でも、フラワリーちゃんを救うためなら、たとえ猫を脱いでも構わない。
嫌われたくないけど、そう思うのはフラワリーちゃんにだけだから。
…あぁ、早くフラワリーちゃんと結婚したい!そしたら妻として自慢出来るし、ずっと彼女を守れるから!
でも、まずは腹ごしらえしないと!フラワリーちゃんをお姫様抱っこできるように、密かに筋トレしてるから、結構お腹空くんだよねぇ…。
オレは自分の腹に手を当てて、小さくため息をついたあと、愛しのフラワリーちゃんがいるガーデンパーティー会場へとゆっくり戻ったのだった。
(完)
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