病弱なお嬢様、推し活に目覚める
コラリーは公爵家の末っ子長女。家族から愛されているが、身体はすごく弱かった。そこで、田舎の別荘に一人で住んで療養をしている。
そんな彼女には最近趣味が出来た。推し活である。
超お金持ちの公爵家のご令嬢である彼女。一月にもらうお小遣いは、その辺の男爵家の年収に匹敵する。そのお小遣いを、ドレスや装飾品を買ったりなどの必要経費以外全て推し活にあてる。
では、その推しは誰か。
療養先である別荘の使用人の一人、庭師のルーカスである。
「はあ…ルーカス、今日も可愛いわ!ごほっごほっ」
「だ、大丈夫ですか、お嬢様!」
「大丈夫、ルーカスがウィンクしてくれたら元気になるわ!」
「こ、こうですか?」
「きゃー!ルーカス素敵!最高!超可愛い!」
ルーカスは顔こそ良いがただの庭師。きちんと身分は弁えている。しかしお嬢様から純粋な気持ちを貰えるのは、とても嬉しいと思っていた。
「お嬢様、今日はその…僕が手作りで薬膳を用意しました!食べてください!」
「きゃー!ルーカスの手作り!いつもありがとう、ルーカス!東国の食文化まで調べてくれて、嬉しい!」
「ふふ、喜んでいただけて嬉しいです」
「…うん、美味しい!ルーカスは天才ね!」
「よかったぁ…」
ルーカスは、孤児院の出身だ。しかしそんなルーカスを雇ってくれる公爵家には深い恩がある。そのお嬢様であるコラリーを、なんとか元気にしてあげたいと出来る限りのことをしていた。…その裏には、コラリーへの恋心もあったが。
二人は他の使用人達から見て、相思相愛に違いなかった。公爵家の面々はその幸せそうな様子を侍女達に報告されて、コラリーが元気そうで安心した。
それと同時に、二人の仲を応援するべきか悩んでいた。
「父上、母上。どうせ身体の弱い子です。政略結婚には向かないですし、好きな男と結婚させてやりましょう」
「しかしそれであの子は幸せになれるのか?」
「…悩ましいですわね」
何度も家族会議を行う公爵家の面々。平民との結婚は、一筋縄ではいかないのだ。
そんな間にも、コラリーはルーカスに溺れる。
「ルーカス、バーンして!」
「こうですか?」
「ルーカス可愛い!」
「…ふふ、投げキッスとかしちゃったりして」
「きゃー!供給過多ー!」
最近慣れて、ファンサ過剰になりつつあるルーカスにメロメロなコラリーである。
「お嬢様。今日も東国に伝わる漢方をお持ちしました。飲んでくださいね」
「ルーカス、本当にありがとう!ルーカスが用意してくれたのだから、頑張って飲むわ!」
「ご立派です、お嬢様」
コラリーは推し活として、ルーカスに貢ぐ。身につけて欲しい服や装飾品、靴を貢ぐのはもちろん、チップも払っていた。
そのチップをルーカスは、コラリーのための健康に良い食材や、漢方を買うのに使っていた。
「お嬢様!ようやく〝特級ポーション〟を手に入れました!さあ、飲んでください!」
「え!?幻の特級ポーション!?どうやって…」
「お金を払って魔女に作ってもらったのです!さあ、飲んでください!」
コラリーは魔女に騙されたんだろうなと想像しながらも、その水を喉に流し込む。するとコラリーの身体は嘘のように軽くなった。
「…主治医を呼んで参ります!」
「う、うん」
コラリーは初めての軽やかな身体の感覚に戸惑っていた。そして主治医がコラリーの身体を診る。結果。
「コラリー様の身体を蝕んでいた様々なご病気が、全て回復しました。完治しております!」
これにはコラリー本人が一番びっくりした。ルーカスは本当に嬉しそうに喜ぶ。
「お嬢様!おめでとうございます!」
「ルーカスのおかげよ!本当にありがとう!」
「ふふ、お役に立てて光栄です!」
この報せに、公爵家の面々は心を決めた。コラリーのためにそこまでして尽くしたルーカスだ。コラリーを任せられるだろうと思ったのだ。
爵位の一つと飛び地にある領地を与えて、必要な教養を身につけさせるため家庭教師もつけた。ある程度下地を整えれば、籍を入れる日を待つだけだ。二人はその決定を聞いて、二人で抱きしめあい泣いて喜んだ。
そんな中でも、コラリーは変わらない。
「ルーカス、愛してるわ!」
「僕も愛しています、お嬢様。こうして思いを伝えることが許されて、嬉しいです」
「えへへ」
「ふふ、お嬢様…」
「ルーカス…」
完全にバカップル全開な二人だが、そんな二人を誰もが祝福していた。