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第9話

 そのまま、商店街に帰る。

 すると警察の制服を着た獣人の女性たちが出迎える。


「応賀先輩! お疲れ様であります!!!」


「おう、悪いな。こいつ届けてくれ。重要参考人の髪の毛むしった」


 犬耳の女性がケラケラ笑う。


「相変らず字面が狂ってるであります、先輩!」


 しゃきーん!


「おい、犬神。先輩に失礼だぞ!」


 猫耳の女性がたしなめる。


「猫又ちゃん。先輩はなにをやってもいいんでありますよ! あ、先輩、頭なでなでしてください!」


 応賀は頭をなでる。

 すると頭をグリグリ押しつけてくる。


「なんだ応賀。彼女か」


 フローラは男子中学生のようにあおる。

 自分の性別は完全に忘れている。


「違う」


「そうですよ! わたし、犬神リオンは紬ちゃんよりもハーレム序列下位を目指しているであります!」


 闘う前からドラゴンに負けている。

 ヘタレ。あまりにもヘタレ!


「わたし、猫又リゼはたまにメシをおごっていただければ満足です。自分は重蔵のおっちゃんの作ってくれるご飯大好きです!」


 こっちはほとんど野良猫のノリである。


「あ、リオンもご飯おごって欲しいであります!!!」


「わかったわかった。おごってやるから髪の毛署に届けてくれ」


「了解であります!」


 二人は髪の毛を引ったくるとパトカーで行ってしまう。

 基本的にツーマンセルなのだ。

 二人が行くと応賀は交番に行く。

 交番の中で紬がゆうと遊んでいた。


「はい、ゆうちゃん。私は?」


「ちいまま!」


「ぶぶー、ママでしたー!」


「?」


 ゆうは首を傾げた。

 わかってないようである。

 すると今度は重蔵がゆうを抱っこする。


「おじいちゃんでしゅよ~」


「おじいちゃーん!」


 がくんと賢人が肩を落とした。

「知ってたが。いや知ってたが……」とブツブツつぶやく。


「オーク族は子ども好きで有名だからな……ああ、うん、賢人がんばれ」


「フローラ……慰めなくていいぞ」


 オーク族は村単位で子育てを行う。

 死亡率が高いためかどのオークも子煩悩で子だくさんだ。

 重蔵もカツオの前に8人の子どもがいたが、みな三歳の誕生日を迎えられずに逝ってしまった。

 オークはとてつもない再生力を持つ。

 普通なら死ぬような怪我でも命さえ無事なら治ってしまう。

 手足が欠損しても再生するほどに。

 だがそれも落とし穴がある。

 その再生力のせいか、いや原因は未だに不明だが癌や遺伝性の疾患の発生率が明らかに高い。

 小児癌もいわゆる人間である普通種と比べると多い。

 重蔵の実子はカツオを除いて栄養失調による肺炎や人間に殺されたりで死んでしまった。

 賢人の義理の母であるマルゴットも三年前に乳がんで逝ってしまった。

 デトロイト市の定期検診で見つけたときには、すでに骨に転移していてすぐに余命宣告を受けた。

 手を尽くしたがどうにもならなかった。

 賢人はそんな重蔵が子ども相手に表情を崩しているのを見ると……膝から力が抜けてしまうが文句を言う気にはならないのであった。


「ほら~ゆうちゃん。パパとママが帰ってきまちたよ~」


「あ~い♪」


 ゆうが手を振る。

 がくんとフローラの膝から力が抜けた。


「少女時代までオークは悪と刷り込まれた私の常識が崩れていく……」


 フローラの目尻から涙がこぼれる。

 哀れ、あまりにも哀れ。


「今ならわかる……オーク族にさらわれた女が帰ってこない理由……いい伴侶だったのだな……」


「ほ、ほら、オークとエルフものの少女漫画でも買ってこい。千円やるから……」


【オークの恋】

 真面目で地味なオークの少女が学園の王子様である人間と恋をする作品である。

 デトロイト市外で500万部売れている人気シリーズである。

「オークの女は尽くすからなあ。よほどのクズでもねえかぎり、たいていの男はおちるわ」とデトロイト市でも斜め上の方向性で好意的に受け止められている。


「ブック○フはどこだ!!!」


「隣の書店で新品買ってこい!!!」


 いきなり復活したフローラとの茶番である。

 ゆうが手を叩く。


「兄貴……フローラさんと相性よくねえか?」


「カツオちゃん」


 紬は笑顔のまま、親指で首をカッ切るポーズをした。


「お前がそれやるとシャレにならんわ!」


「紬、署はなんて?」


 賢人は無理矢理話題を変えた。


「ここの方が安全だから預かっててだって」


 ドラゴンの紬がいればアメリカ軍と戦闘になっても戦えるのだ。

 しかもオークの士官は戦車とタイマンを張ることが可能だ。

 少なくとも交番の近くに7人はいる。

 たしかに最高戦力ではある。


「そうなるか。なあ親父。変なハーフエルフに会った」


「エルフはだいたい変だろ」


「いやそうじゃなくて……」


「兄ちゃんのこと知らなかった!」


 カツオの発言を聞いて重蔵が額にシワを作った。


「知らないって……神聖国じゃドラマやってるだろ。【勇者物語】」


 わずか5歳で誘拐された勇者が反政府軍である魔王を倒し、亜人を約束の地へ導く。

 日本国のプロパガンダ用ドラマだ。

 日本製作ドラマのため、ちょいちょい日本(・・)への批判を入れつつもおおむね中立的に作られている。

 物語の最後だけは救いがなさすぎるせいか、勇者が両親と再会し幸せに暮らすように改変されている。

 それが思いっきり嘘であると週刊誌やネットメディアにすっぱ抜かれてプチ炎上。

 賢人の実の両親と週刊誌側で訴訟に発展したがメディアの黒歴史のためかほとんど知られてない。

 まったく救いのない笑えない話であるのでネットの炎上もすぐに鎮火した。

 内容を誰も憶えてない事件である。

 メディア化もされてないが、ミッドガルドでは放送されている。


「放送されてたって言っても、もう8年も前だ。小さいころだぞ。それにあれは説教臭くて人気ないんだよ。だがさすがに応賀のことを知らんやつはいないと思うぞ。魔除けの絵として売ってるし」


「なぜその一部すら俺の懐に入ってこない?」


「知らん」


「そもそも俺のドラマの人気ないのおかしいだろ! お前ら西遊記は好きなくせにな!!!」


 聖職者が失われた原典を求めに困難な旅に出るという物語は、女神教の信者にすら支持されているほどだ。

 むしろ女神教の聖職者からしても理想の人生だ。

 同じ理由で香港映画の少林寺シリーズなどが受け入れられている。


「日本だろうが神聖国だろうが政府の作るものはどれもつまらん! それにお前は神聖国じゃ魔王どころか破壊神扱いだからな!」


 フローラが「がおー!」と拳を振り上げる。

 賢人の扱いはもはやそのレベルである。

 さらに言えば、神聖国でも日本に対抗するドラマを作っているがノウハウがないため学芸会レベルにも達してないひどい出来である。

 そこにプロパガンダを詰め込むものだから、当然現地の人気もない。

 なお日本の作った納税教育のドラマや交通マナーの啓発ドラマも人気がない。

 ただし自衛隊のPR映像はとつてもない人気がある。


「だとしたら……誰だ……あいつ……」


 それに答えられるものはいなかった。

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