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第7話

 バイクのエンジン音がうなる。

 そこにいたのはヤンキー、ヤンキー、ヤンキー。

 リーゼント、モヒカン、トゲ頭、様々なおもしろ髪型が並ぶ。

 現代日本人の人間種から見ればギャグでしかないが、本人たちは真剣だった。

 なぜなら彼らはオーク、リザードマン、ゴブリン、ドワーフ、エルフ、巨人族などの亜人種。の……少年少女たちだったのだ。

 その中心にいるのが……。


「兄貴ぃッ! 迎えに来たぜ!」


 前方が見えなそうなほど大きなロケットカウル。

 昇り竜が描かれた無駄に光った車体。

 エアホーンによるゴッドファーザー愛のテーマ。

 トドメがデカデカト書かれた「夜露死苦」と「仏恥義理」の文字。

 時代を40年ほど逆行した存在がそこにはいた。

「あちゃー……」と賢人が額を押さえた。

 頭悪そうを集めたバイクにまたがり得意げな表情のカツオ。

 令和の時代に一度滅亡し、異世界移民大量流入による好景気ゆえに復活した暴走族である。

 このときの状況を後にフローラは語る。


「ブチブチ音がしたと思ったら賢人の顔中に血管が浮かんでたな。それで口だけ笑いながらカツオに近づくと問答無用で拳骨落とした。スパーンッて音が一撃目。二度目からはボコッ! ボコッ! って重低音が響いていたな。ふふふ、あれを喰らったらゴーレムですら無事ではないだろうよ。久しぶりに恐ろしいものを見たよ。だが、カツオもさすがオーク貴族の血を引く子どもだ。アレを喰らっても普通に立っていたよ。涙目で。はっはっは、どちらも敵に回したくないな」


「いてえよ兄ちゃん! いきなり叩くことないだろ!」


 涙目のカツオが抗議する。

 周囲の少年たちは「え? あれ痛いだけですむん!?」とどん引きした。


「他人様に迷惑をかけるなといつも言ってるよな? ねえバカなの! 本当にバカなの! 恥ずかしくないの! っていうかお前、そのバイクどうした!?」


「ふふふ、兄貴。我らデトロイト黄金聖闘士をなめるな! デズモンドのバイク屋でスクラップを貰って一から作ったわ!」


 デトロイト黄金聖闘士とはカツオのグループの名前である。

 カツオたちは本気でスクラップパーツをレストアして組み立てバイクを作るだけの技術があるのだ。

 その技術を教えたのがバイク屋でドワーフのデズモンドである。


「なんで勉強以外で全力出すんだよ! 兄ちゃんお前らの技術力にマジでびっくりだよ!」


「今度ソーラーカーレースにも出る予定!」


 カツオは親指を立てる。

 自分の技術力の高さはもちろんわかってない。


「とりあえずお前ら兄弟がバカという絆で繋がれてるのはわかった」


 フローラが言い放った。


「いくらなんでもひどくね?」


「ふんッ! バカでいられるだけの兄弟仲がうらやましいという意味だ」


 フローラの性格が歪みまくっているのには、なにか理由があるようだ。

 一行は門に向かう。

 カツオたちは先にバイクで周囲を見に行く。

 門は入管が厳重に管理している。

 行き来は基本的に許可された配送業者のみ。

 それも門の先の物流センターまでしか入れない。

 他にも外交関係者やフローラのような特別な許可があるものしか出入りできない。

(ODAで工場を作る計画は反対が根強く宙に浮いている)

 門は幅200メートルくらいで高さはスカイツリーくらい。

 旅客機が入る大きさだが立ち入りは制限されている。

 門にはこちら側のあらゆる言語、すでに失われた物も含めて『友との再開の約束を果たす』と書いてある。

 そのため、向こうの亜人含む人間とこちら側の人間が祖先を共にするのではないかと考えられている。

 とはいえ証明する手立てはいまのところない。

 門を開いた張本人である賢人もわからない。

 賢人はミッドガルドに元から存在した古代文明の遺産、アーティファクトを起動しただけである。

 異世界に繋がるとは聞いていた。

 だが日本の。しかも地元に繋がるとは思わなかったわけである。

 あとは出たとこ勝負。

 転移魔法で一番偉い人を拉致して脅迫。

 紬に乗って多国籍軍の戦車や戦闘機やミサイルと戦いを繰り広げ交渉に勝利したわけである。

 あまりに無計画。

 当然、アーティファクトの由来など知らないのだ。

 門の周囲は有刺鉄線のついたフェンスに囲まれている。

 すぐ側にはデトロイト地下鉄『ゲート駅』がある。

 日に何便か貨物列車も走っている。

 周囲には倉庫が乱立していて、亜人の配送業者が忙しくゲートに荷物を運んでいた。

 数千万の亜人がいなくなったミッドガルドは経済が低迷。

 日本政府は、初期対応で『国連の方から来ました』な団体が余計な介入をしようとしたため、現在は誰のためにもならない程度に支援している。

 井戸掘りと食料援助、それに文化の相互理解中心で宗教と思想の持ち込みを強く禁止している。


「フローラ、なにか気づいたか?」


「わからん。地の精霊が騒いでるが……そもそもこちら側は地の精霊が活発すぎるからな」


「地震大国だからな」


 特に門が開いてからは震度4程度の地震は月一回は起こる。

 それが8年も続けばただの日常なのだ。

 地の精霊が騒いでいるのもまた日常なのである。


「ユニコーンって馬だろ? こっちには野生の馬なんぞいねえぞ。そんなのうろついてたらすぐに見つかるんじゃね?」


「だろうな。と言いたい所だが、私もユニコーンを見たことがない」


「お前なにしに来たの?」


「私だって反対した。だが聖女の託宣で無理矢理こちらに派遣されたのだ!!!」


「聖女ってアレか。お前らの所の宗教に任命された」


「ああ。お前の勇者だって同じだろ」


「いや俺んとこ、一家全員仏教徒だし、ミッドガルドの教会にはなるべく近づかないようにしてたから」


 埼玉県デトロイト市に移住した異世界人のほとんどが仏教や神道に改宗した。

 神聖国の『神』は亜人を抹殺するのを教義にしていた。

 そのため遺体を埋葬する習慣がなく、適当に燃やされていた。

 それに不満を持たないわけがなく、ほとんどの亜人種は『神』に反感を持っていた。

 そこで仏教や神道は素早く『亜人は人間である』と宣言し取り込みに成功。

 むしろ亜人の方が信心深く、施設の維持に積極的なため歓迎された。

 日本人の方も、亜人の近くに埋葬されたくないと主張する人間はほとんどおらず問題にならなかった。

 賢人の家も母親が近くの寺の墓地に眠っている。

 ミッドガルドの神なんて「なにそれ美味しいの?」状態である。


「く、こちらの連中はまったく!」


 フローラが小石を蹴る。

 ミッドガルドの『神』の完全敗北はさすがに悔しかったようだ。

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