第14話
バカを引き渡して賢人は交番に戻る。
結局、ユニコーンは異世界転移者のことで、対象者を殺せば願いが叶う魔法らしい。
「はた迷惑な……」
賢人を殺して得ようとしたものはわかる。
亜人の抹殺だ。
いや元から存在しなかったことにすらできるだろう。
露骨な差別主義者のエルフは別として、ミッドガルド人が亜人を嫌うのには理由がある。
食料だ。
ミッドガルドの食料生産性は悪い。
そもそもミッドガルドにはトラクターも農薬も化学肥料もない。
大規模な農業ができるはずもなく、収穫量は低いのだ。
なのでどの国でも平民は常に困窮。
国への不満はたまる一方だった。
そんな状況で偉い人はは考えた。
土地を持たず狩猟生活を営んでた亜人に食糧不足の責任をなすりつければいいのではと。
実際は、亜人たちはモンスターなどの魔物や野生生物を狩ってくれていたので食料生産に貢献していた。
そんな亜人を捕まえて奴隷にしたり、おもしろ半分に殺したり、キャンプに火をつけたりしたわけである。
組織的な強盗である。
当然、バチが当たる。
交易で手に入る肉もなくなり余計に困窮したのだ。
あまりの困窮に貧民救済をしていた女神教が亜人抹殺を主張。
それに国際世論が同調。
大虐殺が始まったわけである。
一時は村レベルで「亜人の仲間だ!」と魔女狩りも横行したらしい。
そこに悪魔族の族長だった男が決起。
魔王を名乗り、亜人の生存をかけて戦争を開始したというのが真相である。
賢人が召喚されたころには、亜人の血を引いた人間は少数のハーフエルフを除いて皆殺しにされ残っていなかったほどだ。
それが許される世界だったというわけである。
「ま、こちらの世界の人間も似たようなもんか」
賢人はシニカルに顔を歪めた。
こっちの人間も歴史的には失敗を繰り返している。
ミッドガルドが野蛮に見えるのは、こちらの人間がすでにその段階をクリアしただけである。
交番の中から音がする。
「おーっす」
ゆうはフローラの膝の上に座ってゲームしていた。
「あ、パパ!!!」
立ち上がって、ゆうは賢人の方にやってくる。
「いい子にしてたか」
「うん!」
脳筋勇者の賢人だが、いくらバカでもいいかげん気づいていた。
ゆうは異世界から来た賢人とフローラの子どもだと。
そうなぜなら……賢人の子どもの時そっくりなのだ。
さらに言えば髪の毛の色や中性的な顔はフローラに似ている。
あらゆる特徴が二人の遺伝子を否定できないのだ。
賢人の世界と同じ並行世界があるのかはわからない。
もしかすると未来かもしれない。
そういう難しいことは学者にまかせよう。
賢人はゆうの頭をなでながらゲイジ教授に電話する。
「おっさん、異世界召喚の真実がわかった。別の世界の人間を殺して願いを叶える儀式だってさ。で、呼び出された人間がユニコーンだとよ」
「なんだそりゃ」
「願いが実現不能になればなるほど強者が送り込まれてくるらしい。強力な現実改変ってのは、たぶんそれだ」
「クソの中のクソだな。で、今回送り込まれてきたのは誰だ?」
「未来に生まれる俺の子どもだ」
「は? おいおい、どう評価していいかわかんねえよ。それは強者なのか?」
「わからん。俺が拉致された年齢よりさらに若い。同じ状況に放り込まれたら生きてられないだろうな」
「だろうな……もしかしてなにか特殊な能力とかあるんじゃないか? 漫画とかでよくあるだろ? 一般人だと思ってたら特殊な家系だったり」
「あのな、俺を生んだ連中は学歴くらいしか凄いとこねえっての」
「そういやエリートだったな。中身は被害者ヅラしたクソ野郎どもだがな」
賢人の両親は、賢人を捨てたくせに「息子を奪われた」と被害者ヅラしている。
ついには国家賠償訴訟を起こした。
賢人も何度か出廷しており、そのたびに心の傷をえぐられている。
「じゃあ、なんなんだよお前! 国と戦える個人っておかしいだろ! 刃○だって遺伝だったろ!!!」
「知らねえよ!!!」
ゲイジはすでに日本に毒されており、○牙シリーズは番外編まで含め全巻履修済みである。
「って考えるとだな……異世界転移によりなんらかの異常な力が発露するとは考えられんか? ……人為的にスーパーソルジャーを作り出せる可能性があるということか」
「やめろ。やったら国ごと叩きつぶすからな」
「やらねえよバカ! 全身タイツのスーパーヒーローとかいらねえっての! そんなんやって軍や警官の仕事が減ったら暴動が起こる」
「でよ、ゆうを元の場所に帰す方法わかるか?」
「おう、そっちはまかせろ。お前はどうやって帰ってきた?」
「聖王国の宮殿と首都を破壊して門を開けて帰ってきた」
「つまり魔方陣を壊して術者を倒して門を開けたわけだな。つまりそういうことだ」
「わからねえ!」
「だから! 門は開いてるから魔方陣を壊して術者を半殺しにしろ!」
「うっす! よくわかった。でも術者って?」
「この術式には何人もの命が必要だ。殺人事件を洗え」
確かにデトロイト市は治安がよろしくない。
喧嘩は日常茶飯事。
だが殺人はそれほど多くない。
正確に言えば亜人種は頑丈なのでナイフで刺した程度じゃめったに死なない。
拳銃も大口径のものや貫通力の高い銃でもなければ致命傷を負わせるのは難しい。
「殺人事件……?」
「エルフだ。女神教の関係者だ」
「エルフか……」
エルフ、特に女神教はとてつもなく閉鎖的なコミュニティだ。
日本国の法律に従う気はないし、亜人種とも交流を持たない。
世の中に適応しているエルフのほとんどが、こちら側の適当な宗教に改宗したため余計に閉鎖的になってしまったという事情もある。
彼らは「だって女神教って差別主義者の集まりじゃんキモッ!」と女神教を一刀両断にしている。
「……わかった。また連絡する」
賢人は重蔵に「ちょっと来てくれ」と手招きした。
するとフローラや紬までも来る。
「なんでお前らも来るのかな!」
二人はニヤニヤしている。
置いて行かれたので今度は一緒に行くつもりだ。
「あー、もう! わかった! 犯人はエルフで女神教の関係者だ。犯人を半殺しにすればゆうを元の場所に帰せる」
「おう、わかった! 野郎ども! エルフの不審者がいないか聞き込みしろ!」
重蔵が指示を飛ばす。
なお警察官は賢人だけである。
亜人ネットワークはとても強固なのである。