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第13話

 それは微妙な空気だった。

 男は完全に捨て駒にされた。

 かと言ってそれを喜ぶほどの狂信者でもなかった。

 もう少し能力があれば……いや能力があるものなら、ミッドガルドだろうが日本だろうが道を外さないだろう。

 その程度の男だったのだ。

 そう、男はユニコーンの密輸のためだけの捨て駒だった。

 ミッドガルドの女神教はハーフエルフを仲間と思わない。

 ハーフエルフは奴隷。

 圧倒的下位の者なのだ。

 下位の者に恐怖で縛るのではなく、おだてて使い捨てにする。

 女神教はそれを選択しただけである。


「ユニコーンの正体を教えろ」


 賢人は男を指さした。

 男はぐらっと傾くと壁にもたれかかった。


「……未来の魔道書だ」


「未来? 未来からやって来たってことか?」


 ドラえもん方式はさすがに反則である。


「違う。未来の可能性を一つに収束させる魔法だ」


「なんだそりゃ?」


「現在数多にある可能性の一つを選び確定させる。過去の改変は出来ない。代償は使用者と99人の命。通常の使用ならな」


 100人も殺して、可能性のある一つの未来を確定させる。

 それは恐ろしい魔法だ。

 チャンスが少しでもあれば、その未来を確定できる。

 たった100人の命で9割負ける方を勝たせることもできるわけだ。

 だがここで疑問が浮かぶ。


「俺を殺すことはできねえし。クソみたいな願いだったら俺が必ず止めるぞ」


「ヒヒッ! それはわかってる。だから裏を使う」


「裏?」


「条件を追加することで効果を高めることができる。かこまで改変できる。条件は呼び出された人間の抹殺。過去未来現代からよりすぐりの難敵が召喚される。どいつもこいつも正面からじゃ倒せない化け物ぞろいだ」


「なぜお前がそんなことを知っている?」


「俺の顔に見覚えはないか?」


「どういう意味だ?」


「俺の顔に見覚えがねえかって聞いてんだよ!?」


 賢人は男の顔を見た。

 この邪悪そうな顔。

 顔を見てるとイライラする。


「お前……神官長の縁者か?」


 賢人は思い出した。

 神官長。

 賢人はミッドガルドに呼び出した男である。

 賢人としてはこの手で始末してやりたかったが、その前に賢人を呼び出した罪で処刑されてしまった。

 その男の関係者が目の前に現われたのだ。


「ああ。奴隷のハーフエルフに生ませた息子だ。知ってるか? ハーフエルフと人間を組み合わせるとハーフエルフが生まれるんだ」


 神官長は人間だった。

 つまりハーフエルフと人間の元に生まれたのだ。


「親父の敵討ちに来たのか?」


「あははははは! 笑わせんな! あんなやつ親父じゃねえ! 俺の目的はハーフエルフの救済だ!」


 すると男の体が炎に包まれた。


「俺の最後は捨て駒か! あはははは! いいぜ……捨て駒になってやるよ! おい、勇者! 最後に教えてやる! お前もユニコーンだ」


 男の身体中に彫られた入れ墨に過剰な魔力が注入される。

 過剰な魔力は行き場をなくし、魔力の暴走を起こした。

 暴走した魔方陣から炎が上がる。

 炎はあっというまに広がった。


「薬品か!」


 可燃性の物体がまき散らされていた。

 祭室に繋がっている台所が見えた。

 その隅にポリタンクがある。


「ふざけ……」


 閃光、そして炎、衝撃。

 それらが一度に賢人を襲った。

 が、そんなものがミサイルすら無効の男に効くはずがなかった。


「アホか」


 賢人の足元にはハーフエルフの男が倒れていた。

 かろうじて息がある。

 とっさに賢人が助けたのだ。


「こ、殺せ」


 息も絶え絶えに男は寝言をほざく。


「ムカつくからやだ。絶対にお前の願いは叶えてやんねえ」


「クソ……本当だったら……お前はあのとき死ぬはずだった……殺すつもりで神官長はお前を戦場に送り出した……それがすべての間違いだった……。ユニコーンの儀式は失敗し、神聖国と女神教は滅びの道を進んだ……」


「勝手に呼んでおいてギャーギャー騒ぐんじゃねえよ。はいはい治療治療っと」


 そのまま男は気を失った。

 賢人は回復魔法をかけておく。

 みるみるうちにこんがり焼けた男の体が治っていく。

 部屋は焼けていて、誰かが通報したのかパトカーのサイレンが聞こえた。


「俺がユニコーン?」


 今まで異世界人召喚だと思っていたものがユニコーンの儀式だった。

 大規模な現実改変の儀式。

 しかもかなりリスキーだ。

 確かに乱用すれば世界が滅ぶ。

 賢人を殺しさえすれば儀式は成就したはずだ。

 そしておそらく、その願いは亜人の抹殺。

 だが呼び出したものが問題だった。

 賢人には戦いの才能があった。

 クズみたいな聖王国の連中に幼児でありながら前戦に出されて生き残った。

 6歳になるころにはミッドガルド最強の一角だった。

 儀式のせいかユニコーンの儀式のせいかはわからない。

 今回もユニコーンの儀式が行われた。

 同時期に現われたものがいるはずだ。

 おそらく賢人と同じ才能の持ち主。

 賢人には召喚された異世界人に心あたりがあった。


「ゆうだろうな」


 もうそれしかない。

 おそらく未来から召喚された賢人の息子だ。

 だが……。


「俺がフローラと……ねえわ」


 ハッキリ言ってフローラに女を感じない。

 紬にすら多少は感じる女がまったく感じないのだ。

 どう考えても野郎の友だちだ。

 高価なタワマンのローンと固定資産税を払える自分の姿も思いつかない。

 幸せ家族というのもだ。

 異世界の賢人だと言えばそれまでだが……。

 だが……女の趣味悪すぎないか?

 脳筋だぞ、あいつ。

 思い悩みながら男を引きずって下に降りる。

 外には警察が待っていた。


「お疲れ。こいつ犯人な」


 そう言って乱暴に男を差し出す。

 犯人の手がかりはなくなったが、ユニコーンはわかった。

 あとは戻ればいい。

 ゆうはそこにいるのだから。

 賢人は驚愕していた。

 自分の趣味の悪さに。


「なにもフローラじゃなくてもいいだろ。リオンとかリゼでもよかっただろが!!!」


 考えられるのは……このまままともな彼女が出来なかった説。

 賢人は高校あたりで自動的に彼女ができると思ってた。

 だが賢人は有名すぎた。

 女子の王を見る目。

 王子様ではない。

 忠誠を誓った王だ。

 重いバックグラウンドを持つ賢人は、日本人の同級生女子には距離を置かれていた。


「嘘だろ……このままかよ……」


 賢人は本編とは全く関係のない部分で思いっきり苦悩した。

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