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そのお巡りさん元勇者につき  作者: 藤原ゴンザレス


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第11話

 賢人は旧西川口地区に向かう。

 治安のあまりよくない地域だ。

 女神教徒が多く住んでいると言えば聞こえがいいが、混乱のどさくさに魔王軍のフリして入ってきた連中である。

 敵対しているダークエルフはもとより、亜人や魔王軍のエルフにまで嫌われているので仕事がない。

 人材派遣会社から紹介される仕事は条件が悪い。

 亜人は仲間の紹介で仕事を紹介してもらうことが多い。

「こいつ軍で俺の部下でさあ、真面目なやつなんだけど会社が潰れちまってよ。俺が責任取るから雇ってよ」という、昭和演歌な世界観の前ではエルフの美貌などないに等しい。

 それに肉体労働では獣人やオーク、人間にすら劣り、魔法の仕事は研究職が中心。

 大卒はまだ少ないし、ゲート開通から8年では正規職員は少ない。

 事務職は専門教育をすでに終了して実務経験もある日本人には敵わない。

 また専門職も数名が試験に合格したが、ミッドガルドで似たような仕事をしていたものばかりである。

 エルフの職業選択の幅はどうしても小さくなる。

 そうなると自然と夜のお仕事が多くなる。

 旧西川口地区はそんな場所だった。

 西川口地区にはタワーマンションとビルが建ち並ぶ。

 当たり前と言えば当たり前だが、3000万人もの人口をここに押し込めるには縦に住居を積み上げるしかない。

 高層マンションや商業ビルだらけになる。

 ウサギの巣どころの騒ぎではないが、それでも現代的なマンションでの生活は快適である。

 賢人は駅前をうろつく。

 ラブホテルが建ち並び、店に属してないエルフが賢人を見て逃げていく。

 この通りは下層階は飲み屋が建ち並び、上層階のマンションは様々な個人の店が使っているパターンが多い。

 賢人はわざと警官の制服で歩いていく。

 スカウトや客引きが面倒なのもあるが、制服さえ着てれば女神教徒でも一目で賢人だとわかる。

 威嚇しながら一回りもすれば、営業妨害だと黒服の男たちが出てくる。


「応賀の兄貴。ご苦労さんでございます」


 一目でカタギではないとわかる男たちが応賀を取り囲んで挨拶した。

 その中でも偉そうにするエルフがいた。

 わざとらしくツーブロックにしてダブルのスーツを着た男。

 男の首からは入れ墨が見え隠れする。

 その入れ墨も伊達じゃない。

 すべてミッドガルドの攻撃魔法の魔方陣だった。

 体に魔方陣を直接刻みつけることで、詠唱なしで魔法を使う。

 知っている人間は熟練の魔道士だと気づくだろう。


「お前らの兄貴になった憶えはねえぞ。だいたいお前の方が先輩だろうが」


「それでも応賀の兄貴は兄貴ですので」


 男のズボンのポケットは不自然に膨らんでいた。

 ポケットに直接札束をつめている。

 後ろのポケットの膨らみは折りたたみナイフ。

 妖精銀の特注品だ。

 腕時計は海外製の高級品。

 悪趣味な金のネックレスには身を守る結界の魔方陣が細かく分解されて描かれている。

 拳銃はおそらく持っていない。

 それだけ魔法の腕に自信がある。

 この地区のエルフヤクザの幹部。

 ジークである。

 賢人がなぜ知っていたのか?

 目の前のエルフはかつて通っていた高校の先輩だった男。

 そのなれの果てだった。

 ジークはタバコを取り出す賢人に差し出す。


「吸いますかい?」


「紬が怒るからいらん」


 ジークは「相変らずッスね」と笑うと火をつけ吸い始める。


「ユニコーンの話聞きましたぜ」


「店は休まないんだな」


「ハッ! その程度じゃ休んでられませんぜ。女たちを食わせてやらないけませんのでね」


「女神教関係者の話を聞かせてくれ」


「そこのマンションの一室でやってますぜ。だけどねえ、どうしても寺に比べたら人気ありませんな」


「まだ信仰を捨てるものは多いのか?」


「ええ、人間とエルフは天国に行き、亜人は次の生でも奴隷に生まれることができる。はっきり言ってクソですな。つき合ってられませんわ。それに寺なら金さえ出せば墓に困らんでしょ」


「女神教の元司祭がそれ言うか?」


「元司祭だから言えるんですよ。ま、今じゃヤクザですが」


 ミッドガルド人からすればターンアンデット効果のあるお経を唱えてくれるというのは、かつては人間やエルフの王侯貴族にしか許されない贅沢であった。

 それを定期的に行ってくれるというのは、宗教に求められていることをすべて満たすのである。

 さらに亜人種にとって女神教では死体は野ざらしが基本。

 ちゃんと埋葬してくれるだけでも徳の高い宗教家だなとなる。

 日本において女神教は消滅寸前の存在だった。


「組は関係ありませんぜ」


「だろうな。だけど、お前はなにか知ってる」


「ええ、知ってますよ。そこの教会はミッドガルトとは関係ありません。ミッドガルドと関係あるのは、そっち側でやってるやつッスね」


 指を指した方向は商業地区ではなく住宅地だった。


「でもユニコーンに関係してるかはわかりませんぜ」


「でもあやしいと思ってるわけだ」


「ええ。銃を売りましたんで」


「おい、いいのか。そんなこと話して」


「ええ、刑務所に行く人間が決まった後なので。しばらくしたら自首するんじゃないですか? じゃ、俺はここで。また会いましょう。応賀の兄貴」


 そう言って去ろうとするジークに応賀は言った。


「なあ先輩、今からでもカタギにならないか?」


「あはははは! 無理ッスね。女たちと子分を食わせなきゃならんので」


 そう言ってジークと子分たちは去って行った。

 次に応賀は教えてもらったマンションに行く。

 ゲート開通時に急造された市営住宅。

 建物の前には酒を飲む男女がいる。

 非オートロックで出入り自由。

 と思った応賀が横を見ると、かつてオートロックだった扉の残骸が置いてあった。

 すでに誰かが壊したようだ。

 市も管理をあきらめたのだろう。

 玄関には「デトロイト警察からのお知らせ」が散乱していた。

 ほどよく治安の悪いマンションである。

 賢人は落書きを見つける。

 亜人種ではわからないエルフ古語だ。


「女神が支配する世界が訪れるだろう」


 やはりここはスローガンが書いてあるような思想強めの場所だったようだ。

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