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第10話

 賢人は大学のデータベースを漁る。

 警察にはミッドガルド絡みの事件のデータはない。

 特に賢人の起こした事件の数々は。


「うーん……あの国の事件は関係ないか」


 かつてエルフが周辺国に人身売買された事件を読む。

 どこの国もやることは同じで拉致して解剖して研究する。

 そういう連中にはエルフは大人気だ。

 犯罪者が不老不死の薬と勝手にほざいてる肝は数億円の値打ちがある。

 エルフの女も人気だ。

 見た目が良く高く売れる。

 だがもっと危ないの狙われてるのはオークや獣人だ。

 再生能力の高い彼らの体の秘密を解き明かし、無敵の兵士を作りたいと本気で考えている国は多い。

 日本やアメリカだって、本音ではオークやエルフに興味津々だ。

 だがまともな国家では本人の意思に反して人体実験をすることはできない。

 検体や治験の募集も金を出せば可能だが、大々的にやれば敵国に口撃の機会を与えることになる。

 なので、本土よりも厳しい基準で少数行われている程度だ。

 これはアメリカも大学に人を派遣するだけで誘拐しようなんて思ってない。

 日本にやらせてデータをもらえばいいし、賢人のしっぽを踏みたくない。

 だが手段を選ばない、判断力の狂った連中はどこにでもいるもの。

 賢人に叩きつぶされた組織は数知れず。

 背後にいる国家に直接ナシ(・・)つけに行く前にアメリカと日本が火消しに奔走するはめになっている。

 だからこれはアテにならない。

 賢人は検索範囲を変える。

 神聖国ではなく周辺にある植民地はどうだろう?

 火山で眠ってた紬の巣を壊した報復で領地を焼き尽くされた国。

 重蔵の軍によって滅ぼされた国がいくつか。

 女神の名の下に亜人の絶滅を実行したことに激怒した賢人に破壊された国がいくつか。

 これらはひどいと思われがちだが、重蔵いわく。


「紬がいるのを知ってて巣を壊したバカに、中世程度の文明力のくせに3000万人の虐殺をやろうとした数も数えられねえクソバカどもに、5歳のガキさらってきて制御もできねえ歴史に残るレベルのバカの中のバカ!!! 民のためにも滅んでよかったんじゃねえか」


 確かにその通りであると賢人は思う。

 誘拐して勇者になれなんていうやつはその場で殺されてもしかたない。

 異世界の全人類皆殺しでも正当防衛の範囲内だろう。

 紬もうんうんと同意する。


「紬の今の巣はここだし、パパはパパだ。うん、うん。高校の友だちもいるし。カツオちゃんもいるし、ママのお墓もあるし、賢人ちゃんもいる。ここを壊そうとするやつは焼き尽くすよね。うん、うん」


 ドラゴンは巣への防衛本能が強い。

 重蔵夫婦が「今日からお前は俺たちの家族だ」と言わなければ今でも火山で眠っていたであろう。

 賢人はカツオを見る。


「やれやれ……うちでまともなのは俺だけだな……」


 賢人は思う。

 現時点でカツオが一声かければ100人は集められるだろう。

 アホの子のままで、なんだかんだで亜人に慕われてるカツオが一番異常なのではないかと。

 そんなことを考えているとフローラが声をあげる。


「おい、応賀。これはどうだ?」


 フローラが指をさしているのは神聖国の植民地の一つ。

 エルフ王国崩壊事件である。


「これ俺のせいじゃねえぞ。自滅だぞ」


 ハーフエルフ抹殺政策が元でダークエルフが事実上の反乱軍である魔王軍に合流。

 他の氏族からも子どもを殺された親たちが離脱。

 その際に奴隷であった亜人を解放。

 労働力を失ったエルフ王国は経済崩壊。

 魔王軍に尻尾を振りつつ、宗主国の神聖国にもいい顔をする風見鶏外交を繰り返したあげく、神聖国に見捨てられ魔王軍に吸収された。

 今では最初から魔王軍にいたような顔をして日本人になったものが相当数存在する状態だ。


「例え自滅だろうが相手は恨んでるだろうな」


「やめろ怖い」


 するとカツオが笑いながら言った。


「ヤクザ映画みたいにハーフエルフに嘘を教えこんで鉄砲玉にしたりとか……」


「……あははは。やめろカツオ。怖いこというのは」


「そうだぞ。賢人の言うとおりだぞ。まったく日本人の想像力というやつは……」


 フローラの膝がブルブル震えていた。

 ゲート開通後の日本のテレビ番組で育った世代。

 しかも上流階級のお嬢さま。

 悪意に晒された経験は少ない。

 神聖国の暗い歴史は習っているが、実感はないのだ。

 同世代には熱心な女神教の信者も少ない。

 むしろ一休さんと昭和ライダーで道徳を養った世代だ。

 亜人への差別発言は普通にあるが、根底では亜人は人間だと思っている。

 そもそも亜人に実際会ったことがある人の方が少ない。

 ここまで悪意を持って人を扱えるのはいくらなんでも異常者である。


「でもさー、ほら学校で習うじゃん。神聖国と魔王軍の戦いの最後の方、神聖国が魔法爆弾亜人の子どもにくっつけて助けに来たところを爆発させたって」


 カツオがゆうをあやしながら言った。


「……そんなの私は聞いてないぞ」


 フローラは神聖国の日本での評判がショックだったらしい。

 悪いとは聞いていたがここまでとは思っていなかった。


「そりゃ神聖国を追い込みすぎると何するかわからないから教えてないし。そういう連中だと日本じゃ思われてるんだわ。紬はどうよ?」


「え? 空から炎で焼いたら胸がすうっとしたよ。あんまり楽しくて賢人ちゃんとマンションの間を飛び回ったらいろんな人に怒られちゃった」


 一人だけ実戦の話である。


「エルフ王国の残党を洗うか……」


 そう言うと賢人は席を立つ。


「フローラはゆうを頼んだ」


「お、おう……でもなぜ私を連れて行かない?」


「えっちなお店が多いからじゃね?」


 カツオの一言で場が凍り付いた。


「……行ってきます」


 賢人は逃げだし、カツオは紬から尋問を受けるはめになったのだ。

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