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POPinDAYs

作者: 初月・龍尖

 

 

「まただ……」

 それを見た瞬間、わたしの口からそう言葉が零れてしまった。

 丸に引かれた赤い線が笑う様に事態の深刻さをわたしに伝えていた。

 何がいけなかったのだろうか。

 思いつく限り行動は潰したはずだ。

 棒をポケットにねじ込み溜息を吐きながら扉を押すと軋むような音を立てた。

 

「ユンツ。死にそうな顔してんよ?」

 目の前にはミノタウロスの様な女が立ち塞がっている。

 わたしは声を出さず手を振って横をすり抜けようとした。

 牛女が背中側から抱き着いてくるのはわかっているからすり抜けた瞬間に駆けだす。

 誰かが盛大に倒れたような音がしたがもう気にしている余裕はない。

 そうだ、余裕はないんだ。

 コイツはわたしの命を吸って生きながらえようとしている。

 ご丁寧に時間を巻き戻してまでわたしの命をきっちりしっかり吸い取るつもりらしい。

 最初は振り解けていた牛女の抱き着きを今のわたしは解く事ができない。

 それほどわたしは弱くなってしまっている。

 そっと腹に手をやると服越しでもわかるほど熱い、まるで太陽を宿したように。

 少し走るだけで息が上がる。

 見慣れてしまった光景を通り過ぎ正面玄関を抜け校庭へと出る。

 と、そこでポケットの端末が震える。

 カレンダーの通知だ。

 内容は見なくてもたぶん判る。

 でも見ないといけない。

 たまに内容が違うから。

 歩きながら端末を取り出してロック画面を確認する。

 確認してわたしは間抜けな声を出してしまった。

 カレンダーの内容は『@1』。

 あっといち……?

 あといち?

 わたしの命はあと一回でコイツに搾り取られるのか?

 

 もう、どうでもよくなった。

 どうやったらコイツから命を取り返せる?

 どうやったら時間の巻き戻りから抜けられる?

 もう、どうでもよくなった。

 

 端末を近くのごみ箱に放り投げわたしは歩き出す。

 腹の中では笑い声が反響している気がした。

 飲み物を買おうかと思ったが端末を捨ててしまったので支払いができなかった。

 

 わたしは歩いた。

 ただひたすらに歩き続けた。

 そして、壁にぶち当たった。

 その壁は、町境。

 自動車や通行人は隣町へと抜けてゆくのにわたしだけが壁に阻まれる。

 わたしは叫びながら壁を叩いた。

 叩く度に拳が崩れる。

 脚が崩れる。

 腹が欠け輝く球が転がり出てきた。

 球には星がひとつついていた。

 わたしは、消えた。

 

 

 

「うぐっ……」

 激しい腹痛と共にわたしは赤い線の引かれた丸を目にしていた。

 服をめくりあげるとへその横に赤い星のあざができていた。

「終わったはずだ」

 そう呟いて扉を押すと聞きなれた軋みが耳に届いた。

 

「ユンツ。死にそうな……」

 牛女の顔を見てわたしは走り出した。

 頭にこびり付いた風景を駆け抜けて玄関を通り端末を取り出す。

 ブブッと震えてカレンダーが通知される。

 

 『ふたり目もヨロ』

 

 端末を地面に叩きつけ何度も踏み砕いた。

 誰か、誰かわたしをここから出してください。

 願うのはひとつ。

 わたしの、いや、俺の精神を元の場所に戻してくれ。

 

 

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