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夢の世界

望と悠は望が呼び出した扉と一、二分ほど睨めっこをしていた。

望の力で呼び出したであろう扉ではあるが、警戒しないわけにはいかない。

悠自身、鑑定を行ってみるも、出てくるのは『夢の扉』という一文だけ。

そのせいで、一体どういったものなのか、どんな性質を持っているのか、理解できずにいた。

とはいえ、このままにしているわけにもいかないのも確か。

それにしびれを切らしたのか、望が扉の前へと移動する。


「なぁ、もう開けてみねぇ? ここでうじうじ考えていても仕方ないし」

「う~ん……。まぁ、そうやな。お前の力で呼び出したもんやし、害はないやろう。まぁ、なんか起こったとしても、お前がおれば大丈夫やろうしな」

「おう、悪霊だろうと、化け物だろうと、殴り飛ばしてやるよ」

「それは頼りになるな~」


実際、悪霊が出ても殴り飛ばしそうやな。など思いながら、望の後ろへと移動し、いつでも守ってもらえる様にする。

悠が自身の守れる範囲内に入ったのを確認し、ドアノブに手をかけた時に、何を思ったのか、振り返る。


「なぁ、悠。俺の力って、何?」

「いや、今更かい! まぁ、言わんかった俺も悪いんやろうけど!」

「いや、だってさ。さっきの会話を思い返してみたらさ、お前が俺の力って言ってただろ? 鑑定でわかってるなら、どんなもんなのか気になって」

「それ今言う必要あるか? この扉が何なのか調べてみてからでも……いや、ちょい待ち。スキルを教えた方がこの扉もどんなものかわかるかもしれへんな。お前、変なとこで頭回るし」

「何だろうな。バカにされてる様な気がする」

「気のせいや。で、お前のスキルやったな。俺の鑑定で出てきたのは『夢の管理者』や」

「『夢の管理者』?」


悠から告げられたスキルを聞いて、首を傾げてしまう望。

だが、すぐに何か閃いたのか、右手で拳を作り、左手にポン! と叩く。


「つまり、夢に関することなら、力を行使できるって感じだろ?」

「まぁ、そうやな。ついでに付け足すと概念的な意味も含まれとるらしいから、どこまで可能かはわからへんけど、大抵のことはできるハズや」


なるほど、と悠の内容の補足に一度頷いて納得する。

変なところで望は頭の回る者である。

きっと、その扉についての答えも導き出してくれるだろう。

期待しながら、望へと視線を向ける。


「ということは、コレ単純に夢の世界へと行くための扉じゃね?」

「はぁ? どういうことや?」


一体、どういう理屈で扉の行き先が夢の世界へとなるのだろうか。

突然の望の発言に疑問を抱いた悠は思わず、呆れた様な物言いで問いかける。


「どういうことって、それはお前。俺の力なんだ。感覚でわかる」

「感覚かい! 不確かなもんやんか!」


とはいえ、悠自身の能力の使い方を言い当ててみせたのは望だ。

感覚でわかると言うことは扉と自身の意思が繋がっている証拠である。

もし、仮に夢の世界へと続く扉だったとしよう。


「中は一体どうなってるんや?」

「それはお前……入ってみないとわかんねぇよ」

「あ、そこらへんはわからへんのやな。でも、世界っていうくらいやし、広いんやろうか? それとも色々な夢があるんやろうか? 誰かが見てる夢とか」


悠はとりあえずはどういったものなのか、憶測を並べてみる。

夢の世界というのだから、色々な人の夢とリンクしている可能性だってあるだろうし、世界の名の通り、そこだけの世界が広がっている可能性もある。

どちらにせよ、強力なスキルなのは間違いない。


「まぁ、どちらにせよや。俺たちには行く宛てもないわけやし、その世界とやらが唯一の頼りになるかもしれへんからな。中に入ってみようや」

「まずは安全確認だな。扉を開けると同時にフラッシュバン投げ入れるか?」

「いや、お前のスキルで生み出した扉やろ!? 何でそんな軍とかの突入方法みたいなことせなアカンねん! それにフラッシュバンなんて持ってへんやろ!?」

「いや、ここにあるぞ」

「なんでやァー!?」


すっと、さも当然かの様に望が取り出したものはテレビとかでよく見る様なフラッシュバン。

どこからともなく取り出してきた物体に思わず驚きの顔をしながら叫びをあげる悠。

一体どこから? と不思議に思いながらも、フラッシュバンを手に持った瞬間だ。


「アレ? 消えてもうた?」


望の手から離れた瞬間、フラッシュバンは元からなかったかの様に姿を消した。


「なんで消えてもうたんや? 幻やったんか?」

「恐らくだけど、『夢』で出来た物だったからじゃないか? 俺も何気なく取り出したけど、あればいいな、と思ったら、手の中にあったわけだしな」

「つまり夢幻っつうわけかいな? いや、それにしては触った時の感触は確かに……なぁ、もう一度さっきの出してくれへんか?」

「別にいいけど」


望は悠のお願いを聞き、先ほど初めてやったことをさも当然の様に、使い慣れたかの様に再びフラッシュバンを生み出す。

その様子に悠はえぇ……と、望の適応力の高さに少し唖然としながらも、自身の鑑定の力を発動。


【名前:『夢幻むげん・閃光弾』 詳細:『夢の管理者』を応用、派生する形で、『夢幻むげん』という想像から創造を行う夢の力による力で出来た物。とはいえ、完全なる創造には程遠く、発現者以外が使おうとすると、その名の通り、夢幻ゆめまぼろしの様に消えてしまう】


「やから、俺が手にした時に消えたんか」


というより夢の力便利すぎへん? なんて思いながらも、原因がわかったことを望に報告すべきだろう。


「悠、原因わかったか?」

「まぁな。まぁ、簡単に言うとお前以外が手にすると消えてしまう夢幻の創造っちゅうわけや。『夢幻むげん』っていうみたいやで」

「へぇ、なるほどね」


望にもわかりやすい様に要点だけ掻い摘んで説明する。

望自身は『夢幻』のことを聞いて、少し考え込んでから、扉の方へと目を向ける。


「まぁ、力の応用ってわけか。夢なら何でもできるみたいだしな。今はこの扉だろ」

「そうやな。もうアレや。ここであれこれ考えていても埒明かへんし、入ってみいひんか?」

「ということはフラッシュバンの出番か?」

「それはもうええねん! 確かに扉の先は未知やけど、お前の能力で生み出したもんやろうが! そこまでの危険はないハズやろ!」

「万が一ということもあるかもしれないだろ。もしかしたら、夢見たどこにでも行ける扉かもしれないだろう」

「ん……。確かに、そういう可能性もあるかもしれへんな。『夢』ってついてんねんから、それすら再現されたと考えてもおかしくはないやろうけど……その先が街とかやった場合、お前どうすんねん?」


その一言に望はフラッシュバンの安全ピンを抜こうとした動作が止まる。

悠の言う通り、もしこの先が街に繋がっていたとして、フラッシュバンを投げ込めばどうなるのか。

大騒ぎになること間違いなしだろう。

それもその後に自分たちが突撃する様な形になれば、犯人は自分たちですと言っている様なもの。

そのまま、異世界での冒険も始まらず、牢獄行きという目を見ることになる。

望はゆっくりと悠の方を見る。


「それはまずいかもな」

「まずいどころやないと思うけど。まぁ、思いとどまってくれたならええわ。とりあえず、入ってみようや。気になるしな」

「そうだな」


特殊部隊の様な突入は諦めた望は悠に言われるがまま、扉のドアノブを掴み、ゆっくりと開ける。

悠は何が待っているのか、という緊張からか、固唾を飲み、望は少しドキドキを覚えながら、中へと入る。


扉を開け、中に入った二人の目の前に広がっていたのは何もない真っ白な空間。

あるとするならば、望と悠の二人と望が呼び出した扉が一つだけ。

その目がおかしくなりそうな空間を見て、二人は目が点になる。


「扉を開けた先には……」

「真っ白な空間が広がってました……ってか? 何やこれ。とりあえず、鑑定やな」


悠は望の言葉に続く様に言いながらも、ここがどこなのか情報が出るかもと思い、鑑定を使用する。


【名前:『夢の世界ドリームワールド』 詳細:『夢の扉』を通ることで入ることができる夢の世界。広さ、高さなどは決まっておらず、どこまでも拡張が可能。管理者が望めば、建物などを生み出すことも可能。ただし、この世界で夢の力によって生み出されたものは『夢の世界ドリームワールド』から現実へと持っていくことは不可能である。持って行った場合、『夢幻』同様消滅する。だが、逆に現実からこちらの世界に物などを持ってくることは可能であり、現実由来のものであれば、この世界から持ち出す際、消滅することはない】


「もう……もう驚かへんで、俺は。もう何度も見たら慣れたもんや。要はアレやろ? 俺の親友……何でもありすぎへん?」

「おぉ、スゲェ。ベッド出てきた」

「そして、俺が説明する前に直感で理解してなんかやっとる!?」


鑑定結果に頭を抱えながらも、それを望に説明しようとした時には既に、直感で理解したであろう望がベッドを生成していた。

ベッドの上に寝転び、ゆっくりと目を閉じ、こみ上げてくる眠気に身を任せて眠ろうとして。


「寝させるかぁ!」

「いてっ」


ちゃぶ台返しでもしているのではないかという勢いで悠は望をひっくり返して、ベッドから落とす。

転移して十分近くは経っているとはいえ、寝る余裕ができるほどまでに、この状況を受け入れられている望に驚くしかない悠。

器が大きいと言うべきなのか、それともマイペースというべきか。


「いや、そもそもコイツ、元から頭のネジが一、二本飛んどるんやったな」

「それほどでもねぇよ」

「褒めてへんから」


照れてるかの様に頬を指で搔いている望に思わず悠はツッコミを入れる。

とはいえ、この夢の世界、自分たちの拠点として使えるのは間違いない。


「なぁ、望。提案があるんやけど、聞いてくれるか?」

「言わなくてもわかるわ。この不思議世界を拠点にしないかっていうんだろう?」

「流石親友や。俺が言おうとしとったことがわかってたみたいやな。その通り、この世界———『夢の世界ドリームワールド』っていうみたいなんやけどな。ここを拠点として使えれば、色々と都合がよさそうやからな。住む場所にしても、なんにしてもな」

「俺は別にいいぞ。それにしても、『夢の世界ドリームワールド』……ね。『夢の管理者』といい、特に夢がない俺に対しての嫌がらせかね? この力は」


自虐気味にそういいながら、自身を嘲笑うかの様な笑みを浮かべる望。

悠はそんな望を見て、少し悲しそうな表情を浮かべてから、すぐ笑顔を浮かべる。


「まぁ、力に関しては深い意味なんてないやろ。来たら、持っていた。それだけのことや」

「いやいや、それでもだよ。俺に『夢』を与えるなんて、皮肉か嫌味としか」

「被害妄想もそこまでにしとけ。まぁ、でも、自分は夢とは関係ない、程遠いからっていう理由で与えられたわけでもないと思うんや。お前に合ってるからこそ、与えられたもんなんちゃうか?」

「そういうもんかね~」


顎に手を当てながら、悠の言葉に疑問を覚える。

自分は『夢』を―――やりたいことやなりたいものなどない自分が、こんなスキルを持っていて、何になるのだろうか。

人の持つ夢を聞くことやそれに向かっていく姿を見ることは好きではあるけれど。

今、考えても仕方ないことだろう。

そう思うと、自身に『夢』という力を与えられたことを考えるのをやめ、再びベッドに寝転び―――。


「だから、寝させるかぁ!」

「いたっ」


二度目のちゃぶ台返し擬きをくらい、再びベッドから落とされる。

落とされたことによって、地面に打ち付けた背中を擦りながら、ゆっくりと起き上がる。


「何するんだよ。二回も」

「いや、まだ話し合いは終わってへんねん!」

「なんで? もう拠点は決定したじゃん。後はのんびりやっていこうぜ?」

「のんびりやっていこうぜ、やないねん! やるにしても、まだ解決してない問題があるからな!? お前、食料とかどうすんねん!」

「あ~」


悠に言われて、確かにと言う様な反応を示す望。

一瞬は夢の力を使えば、とは思ったが、作れたとしても意味はないだろうと考えた。

『夢の管理者』で作れたとしても、それは結局夢の産物。

食べれたとしても、それらは消滅し、腹を満たすことはないだろうし、栄養もない。

例えるなら『夢幻』で作り出したものが良い例だろう。

アレは自分自身が使う場合は問題ないのだが。


「最悪、魔物が食えるなら狩って、引きずり込んで、食っていくと言うのはどうだろうか?」

「あぁ、それも一つの手やな。『一角熊ホーンベア』やったっけ? アレ、可食部とか出とったからな。いや、でも、肉ばかりの生活は体に悪いで」

「じゃあ、後は適当な果物とかでも見つけてきて、こっちで栽培できるようにしよう。

「それもありやな。こっちでそれができるんやったら、確かに困ったことにはならんやろうし。でもな、俺が言いたいのはそういうことやないねん」

「どういうことだよ?」


ベッドがダメなら、と言わんばかりに腰を落ち着かせるために椅子二つを生み出す。

生み出された椅子に二人は腰を落ち着かせるために、座って―――。


「いや、座ってる場合でもないねん! 異世界に来たからにはこう! アレやろ!? この世界を自分たちの好きなように発展させながらも、冒険をするっていう醍醐味があるやろ!?」

「夢の世界って、醍醐味に入る様なよくあるもんじゃないと思うんだ」

「そこはそこ! 俺は冒険をしようって言うてるんや!」

「えぇ、メンドくさそうだから、パスで」

「ここでメンドくさがんなやァー! ノれやー!」


いやいやと首を横に振る望に対し、大声を上げる悠。

コントの様なやり取りをしながらも、大声を出して疲れたのか、悠は肩で息をしながら、望を睨みつける。


「とりあえず、冒険者ギルド的なもんがあるハズやから、街を目指そうや」

「いってらっしゃーい。俺は応援してるから、頑張ってくれ」

「お前も来るんや! どっちかって言うと、俺戦闘なんて出来へんから、そっち方面お前頼りにしたいから、一緒に来るんや!」

「オイ、後半」


流石に聞き逃せないと反応した望の腕を悠は掴む。


「というわけでや! 知らん間に消えた扉出せ! 街近くに出る様出せや!」

「知るか! つうか、できるか! これ、どこでも出せるのかわかんねぇし!」

「お前がそうでる様考えればええんや! どこかの街近くに扉出してくださいってな! お前が俺のスキルに対してそういったんやしな!」

「地理がわからねぇから、絶対無理だ!」

「物は試しや! やってみ! つうか、やれや!」

「テメェ、そこはお願いするところだろうが!」

「お? なんや? やるんか? かかってこいやぁ! 俺は負ける気満々やで!」

「そこは少しくらいは勝つ気満々で行けよ!」

「お前みたいな人間辞めましたな奴に一般人が勝てるわけないやろうが!」

「誰が人間辞めましただ!」


取っ組み合いになるのではないだろうか、という様な勢いで言い合う二人。

そんな二人の叫びがこの何もない空間では木霊しているかの様に響き渡る。


「とりあえず、出してくれや! 出すだけでええねん! もう街近くに出してくれとか、贅沢は言わんから、少しくらい一緒に外を見に行こうや! なぁ?」

「……わかったよ。まぁ、一応、どっかの街の近くに出ろと思いながら、出してみるよ」


そう言って、望が手を横に向けると、その先に先ほどの扉が一つ出現する。


「お、ありがとうな。そんじゃ、とりあえず。行こうやないか」

「あぁ」


悠が扉を開いて、出ていき、望はその後を追う様に外に出る。

そうして、扉から出た先で、二人の目に映ったのは先ほどの平原———ではなく、外からの侵入をさせないために高くそびえ立つ壁。

何かを囲う様な形で伸びている壁を見て、二人は一度目を合わせ、そして再び壁へと向ける。


「「ホントに別の場所に移動出来たァー!?」」


出来るとは思っていなかったのだろう、二人そろって、驚きの声を上げた。

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