第1章:七宝 建慈郎・オリジン
「な、なにぃ~~!!モヒカン巨人様がやられちまったぜぇ~!!」
「嘘だろぉ~~!あのモヒカン巨人様がぁ~~!!!」
モヒカン巨人は身体をバラバラに吹き飛ばしながら絶命した。周囲の雑魚モヒカン共がそれを信じられないように声を上げている。
というかこいつ、本当にモヒカン巨人って呼ばれていたのかよ。
「ちくしょぉ~~!俺らじゃかないっこねぇ~~!!逃げるしかねぇぜぇ~~~!!!」
一人が尻尾を巻いて逃げ出すのを皮切りに、残りのモヒカン達も散り散りに逃げ出していった。
それを見やると同時、周囲から歓声が沸きあがった。
「うおおおおおおお!!この村は救われた!!ありがとう救世主様!!」
「モヒカン共め!ざまあみやがれ!!」
「救世主様ぁ……素敵過ぎますじゃ……」
一瞬にしてお祭り騒ぎのようになる。ちなみに最後の台詞は腰砕けになっている長老だ。なんだこいつ。
「ケンジロウ様、と言いましたか。何も説明せずにあなたを牢屋に幽閉してしまったことを謝罪させてください」
一人の青年が歩み寄り、深々と頭を下げながら謝罪の言葉を口にした。先ほど、血気盛んな発言をしていた青年だった。
「俺は気にしていない。というより、俺自身何があったかも理解できていないからな」
ただ――スッとリンコへ向けて指を指し、続ける。
「お前のこの地を守りたいと言う気持ちは分かるが、あの子の事を蔑ろにした発言については、あの子へしっかりと謝罪してくれ」
それから、あっという間に日は落ちた。
モヒカン共に荒らされた箇所の撤去を行い、俺のために簡単な宴席が用意された。
よく考えたら喉も渇いたままで飯もろくに食っていなかった。そういえばOADもやたらとキレが悪かったのを思い返す。
「それで……救世主様、いえ、ケンジロウ様。何か聞きたいことなどございましたら、私どもの答えられる範囲でお答えいたします」
あの血気盛んな青年、『タキ』と名乗る青年が低い位置から言葉をかけてくる。
村の若い女性から粗末なビールのような物を注がれながら、ふむと顎に手をやった。
聞きたいことはたくさんあるが……まずはそうだな。
「堅苦しい言葉遣いは必要ない、それに脚も崩してくれないと俺も話しづらい」
俺の言葉にほんの逡巡の後、タキが脚を崩す。それを見やって言葉を紡ぐ。
「あんたたちは『ヲタ芸』を知っているか?」
タキは僅かに眉をひそめると周囲の者の顔を見やる。タキと眼のあった者は全員首を横に振っていた。
「いえ、私含めそれを知っている者はおらぬようです」
……マジか。いや別に現代でも市民権を得ているような物ではないが、言葉やイメージぐらいはかなりの人が知っていると思う。本格的にここが別世界なのだと実感する。
「えー……じゃあここはどこだ?国名や地名、西暦なんかもあれば併せて答えてほしい」
「ここは『ヒノモト』の『フーギ』。そしてここは『グジョー』の村です。西暦……剣王に支配されて以来、『剣王暦』として数えられており、今が剣王24年です」
ヒノモト――なんとも日本っぽい名前だ。ここはよくある別世界・異世界と考えてよいのだろうか。
「そこからはワシが話しましょう。剣王暦を迎える199X年、世界は唐突に剣王の威に飲み込まれました。海は枯れ、地は裂け、あらゆる生命体が絶滅したかと思えるような、過酷な時代を迎えました」
スッとタキの横から長老が顔を出し言葉を引き継いでいく。
「ヒノモトはあっという間に剣王軍により支配されました。やつらの操る『力』により、ヒノモト軍はなす術もなく壊滅し、残った僅かな人類は方々でか細く生活しておりました」
長老の言葉に周囲の人間もうんうんと頷く。
「反抗した者は見せしめに殺されるなど、惨いものでした。剣王軍に立ち向かう者は徐々に減り、今ではただやつらの言いなりになるばかりでした。しかしそこに現れたあなた様」
グルリと長老の顔がこちらを向く。怖い。長老の言葉に熱が篭っていく。
「グジョーの村を自分たちの食い物にし続けたあのモヒカン巨人を!突然現れたケンジロウ様がいともたやすく!美しい舞とともに退治してくれた!!まさに救世主様!!!救世主様しゅごいのぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!!」
長老が若い連中の羽交い絞めにされて連れて行かれる。
何事もなくタキが言葉を続けた。
「我々の村は救われました。あのリーダー格であったモヒカン巨人さえいなければ、我々の力でも何とか立ち向かえるでしょう。村民を代表してお礼をさせてください。本当にありがとうございました」
深々と頭を下げるタキに倣い、周囲で宴席を楽しんでいた者たちも自然と手を止めこちらに頭を下げてくる。照れ隠しにグラスを呷った。温くて喉越しも悪かったが、不思議と悪くなかった。
「それで、今後ケンジロウ様はどうされますか?」
「今後、か」
元の世界に戻るのが一番ではあった。向こうでの生活もあるし、向こうでの『目標』も半端なままだ。
ただ、その手がかりも無い。
「たぶん、俺はどこか遠いところから来たんだと思う。ひとまずはそこに戻る方法を探すよ」
そうですか、とタキはほんの少しだけ落胆したように声を落とす。無理も無い、俺がここにいるほうが村にとってはありがたいだろうからな。
「ただ――」
軽い手首のスナップとともに、ジャケットの袖から掌中にサイリウムが装てんされる。明かりをともしていないソレを手中でもてあそびながら、続ける。
「どうやらその『剣王軍』とやらが邪魔になりそうだ。まずはそいつらを叩きのめしていくのも悪くなさそうだ」
――ヲタ芸、それは神から賜りし至高の芸術
――ヲタ芸、それは人間が辿り着く局地
「ヲタ芸が世界を救えば、この世界で嫌でも広まることになるだろうしな」
これは俺のヲタ芸が、世界を救う最高の剣術になるまでの物語だ。




