第1章:地獄に咲くか愛の炎・おまえはもう死んでいる!!
「そのもの、黒き革ジャンを纏いて七色の光を従えるべし。
荒廃した大地を潤おし、ついに人々を救世の地に導かん……」
「長老……!それはこの国に伝わる伝説……まさか、あの青年がそうだとでもいうのですか!?」
なにやら背後で喧騒が広がっているが、俺には関係ない。
「その子を離せ」
サイリウムの切っ先を突きつけながら、モヒカン巨人に告げる。
「何をぉ~~!この俺が、剣王軍の一員と知ってのことかぁ~~!?」
知らんし興味もない。
モヒカン巨人が怒りに任せ声を震わせる。同時に、巨人の体がさらに膨れ上がった。
その掌中で捕らえていたリンコの体を宙空へ放り上げると共に、モヒカン巨人は背後へ手を回す。
「死ねぇ~~~!!!」
後ろ手に回した腕を上段から袈裟に振り下ろす。その手には無骨で巨大な刃が握られていた。
俺を潰し斬らんとするそれを見て、思わず嘆息した。肩幅にスタンスを取ると、ほとんど無意識に一連のルーティーンがこなされる。
キュイッ!!
「おおッ!!」
「な、なんだぁ!?」
――『OAD』(オーバーアクションドルフィン)。体を大きく側屈させ、弧を描き顔の横に引き付けたサイリウムで、俺の身の丈はゆうにある刃を受け太刀した。
OADは1×2(2テンポ)の出が速い技だ。奇襲であろうと対応するに訳はない。
「ぬゥッ!あの技は!?」
「知っているのか長老!」
「うむ。あの舞は『鴎鋭泥』(おうえいでい)。鴎とよばれる鳥のような鋭い舞を捕らえようと躍起になった者は、翻弄され泥にまみれてしまったという逸話の伝説の舞だ。まさかこの世紀末であの舞を舞えるものがいるとは……」
荒廃した大地に突如として現れた真紅のイルカの舞い。その美しさに魅せられて感嘆の声を上げる者、理解できずに驚愕の声を上げる者、謎の解説をする者。
それらの視線を一身に浴びながら、俺の技は続く。
サイリウムと刃の鍔迫合いを力で押し弾いた。その勢いのまま近づいていたモヒカン巨人の顔面へ向け、大きく半円を描くサイリウムを下から振り上げて叩き込むッ!
くぐもったうめき声をあげ、モヒカン巨人が大きく後方へぐらついた。
空高く突き上げたサイリウムは舞い降りる過程、胸前で左右のサイリウムを回転させて地面に突き刺した。
――『ロザリオ』。主にBメロでリズムを作る技だ。
「ぐああぁ~~~!!」
地に突き刺さったサイリウムは眼前へ向けて地割れを走らせる!情けない悲鳴を上げるモヒカン巨人が、腰ほどまで地割れに飲み込まれた。
「よっと。怪我ないか?」
落下してきたリンコをキャッチし声をかける。ざっと見たところ、目立った怪我はなさそうだ。
「ケン!ケン!ありがとう……!!」
「てんめぇ~~!!よくもやりやがったなぁ~~!!!」
身を捩じらせながら地割れから這い出たモヒカン巨人。鼻から鮮血を噴出しながら、その表情は怒りに満ち満ちている。
「叩き潰してやるっ!死にやがれぇ~~!!!」
馬鹿の一つ覚えのように、刃を振りかぶって迫ってきた。リンコを後方へ下がらせ、袈裟斬りを再びOADで防ぐ。
「まだまだぁ~!」
刃を戻し、今度は逆袈裟に振り降ろす。対側へのOADで防ぐ。ならばと再度の袈裟斬り。OAD、逆袈裟、OAD。
バラードの曲で演じているようなスローすぎるテンポだ。体が鈍ってしまう。
「す、すげぇ!すげぇよケンジロウ!」
「鴎鋭泥の前では全て防がれるだろう。やはり間違いない……あの青年こそが救世主様じゃ!」
「すげぇのはわかるけど、脚とか胴とかがら空きじゃねぇか?」
「ぬ、ぬぅぅん……はっ、はぁっ」
かれこれ曲の1番が終わるほどたっぷり斬り掛かってきたモヒカン巨人だったが、ついにその腕が止まる。荒い息を吐き、振り上げた刃の重さに踏鞴を踏んでいる。
弱い者いじめのようで可愛そうになってきた。そろそろ終わらせようと、OADの動作から一転する。
顔の横に引き付けたサイリウムを、モヒカン巨人の対側下肢へ向けて一つずつ、対側上方へ向けて一つずつ、計4つ突き刺すように振るった。
――『ソイヤ四突き』。OADから繋げる基礎技だ。4つ突きおえた俺は、グルリとモヒカン巨人から背を向ける。
「はっ、はぁっ……なんだぁ?痛くもかゆくもないぞぉ?」
背を向けた俺をいぶかしみつつ、背後の気配からモヒカン巨人が刃を振り上げているのを感じる。
「ぐふふ~~ぶっ殺してやる~~!!」
自分に何をされたのかも理解していない、哀れなやつだ。
「お前はもう、死んでる」
「~~!?」
俺の言葉の直後。
い!?という奇妙な叫び声と共に、モヒカン巨人の体は内部から弾ける様に吹き飛んだ。




