第0章:悪党だけが笑っている!こんな時代が気に入らねぇ!!
この物語は偉大な作品の数々を一部パロディさせていただくシーンがございます。
あくまですべてリスペクトの元で行わさせていただきます。
また、登場するヲタ芸の数々はYouTubeやネットなども参考にさせていただいております。
興味の湧いたものがございましたら、ぜひ一度そちらもご覧になっていただければ幸いです。
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そのもの、黒き革ジャン纏いて七色の光を従えるべし。
荒廃した大地を潤おし、ついに人々を救世の地に導かん。
ミンメイ書房
第一章 第一節
救世主伝説より一部抜粋
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「フン、やはりそいつら程度では肩慣らしにもならんか」
ククッとのどを鳴らす音が、静寂の中でいやに響いた。
それから数拍遅れて俺の眼前で立ち尽くす人影が掻き消える。そして【そいつ】との間を阻むものがなくなった。
距離は10数メートル。数段の階段を上った先――仰々しい椅子に腰掛け、【彼女】(そいつ)はこちらを見下し、嗤う。
顔の前で組んだ指を解き、感触を確かめるように指を数度鳴らしながら言葉を紡ぐ。
「相変わらず奇妙な剣術だ。チュウジョウ流、シンカゲ流、ニテンイチ流、コガン流、サントウ流、ヒテンミツルギ流。数多の術義とも似つかぬ。比にならない程の苛烈さ、鮮烈さ、熾烈さ、それでいて絢爛さすら感じさせる」
「それはどうも」
俺の両の手に携えた『ソレ』は、すでに光を失っている。
別にこのままでも構わなかったが、最期だ、出し惜しみはしない。マナーは悪いが投棄しながら軽く言葉を返す。
「不気味だ」
凛、と。芯の太い言葉が俺を貫いた。
「不気味だ。余の常識をいつも打ち砕くその美しさも、輝きも、全て理解するに度し難い。魔術でも技術でも、余の力をもってしても再現できない」
コキリ。首を鳴らし、「悪い夢のようだ。」そう吐き捨てながら奴が立ち上がる。
すらっとした体躯に、腰ほどまでの銀の長髪が纏わりつく。天窓から切り取られた丸い月光をスポットライトのように浴び、妖艶に輝いている。
スッと、真紅の両眼が俺を射抜く。一歩ずつそいつは俺との距離を潰しながら、続ける。
「汝、心得よ。余がこれを抜けば、結末には【死】以外存在しない。どちらかの――あるいは、双方の」
両の手を前に突き出す。音もなく、一振りの鞘に収められた剣がその掌中に携えられた。
そいつの身の丈ほどもある、髑髏や左右対称の羽の意匠をしたためた幅広の両刃剣。
「汝、心得よ。残ったものはこの世界を従えることになるだろうと」
コツコツと靴底のたたく音を塗りつぶすように、獣の嬌声が空間を軋ませた。鞘走らせた音だと、抜き放たれた刀身を目にして気づいた。
それは生き物のように不気味に胎動していた。撓めく紫煙を上げ、血を滴らせろと剣がぎらついている。
「汝、心得よ。これより先の領域に、その他の有象無象は踏み入ることを許さぬ」
轟ッ――粘り気のある熱風が、突如として吹き荒れた。
眼前の【剣王】(けんおう)から滾るオーラが、剣の紫煙と混じり合い世界を蹂躙する。
しかし正直、その程度じゃ俺にとってどうとでもない。この状況で横になってくつろぐのも吝かではない。
だが俺の後方にいる仲間たちは、そのオーラにあてられ苦しげに嗚咽を漏らしていた。
反射的に俺は両の腕を鞭のように振るう。大盤振る舞いだ。
鉤爪状に曲げた両指間に3本ずつ『それら』が収まるのと同時、両手を交叉させると共にそれらを打ち鳴らす。
小気味の良い音を響かせ、世界が一変する。暖かい橙色の光が、俺を中心として放射状に空間を塗り替える。
「皆、安心しろ」
瞬間ッ――剣王が肉薄する!緩やかな歩みから一変、石床を踏み砕く蹴り脚から、数メートルの距離を刹那に潰す。
その勢いのまま、肩に担ぐように構えた剣で、俺を両断せんと袈裟一閃に振りk
キュイッ
「俺が負けるはずがない」
光り輝くイルカの姿を、俺以外のやつらは目にしていただろう。
「チッ、これではやはり獲れぬか」
指間に挟み構えた『サイリウム』で、剣王の一閃を俺は受け太刀した。
肩幅に両足を広げ、大きく体幹を側屈し、顔の横で交叉するように束ねたサイリウム。
何千万回と繰り返した基本の技、OAD。美しさもさることながら、俺の最強の防御の型でもあった。
軽い舌打ちと共に剣王は後方へ距離をとる。今しがた目にした光景を否定するように頭を振り、言葉を続けた。
「無粋な真似の非は認める。そして、改めて問おう」
サイリウムを胸の前で構えなおし、心中でリズムを刻む。
端からサビの始まるような、マックスギアのかかる曲をイメージしながら。
「余に立ち塞がる……その剣術の名を捧げよ」
「俺の剣術、お前を打ち崩すその技術は」
気高く、猛々しく、雄弁に、
「――ヲタ芸だッッ!!!!」
ヲタ芸が、世界を救うことを証明するために。
俺はそう告げた。