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26.名物の海老天は期待を裏切らない

26.名物の海老天は期待を裏切らない


 台東区にある取引先との打合せが予定より早く終わり、どこかでお茶でも飲もうかと歩き出す。気温は真夏日にも迫ろうかという29℃。冷房の効いた喫茶店で冷たいアイスコーヒーが飲みたい。なんなら冷えた生ビールをくらって今日の仕事は終わりにしようか…。 雰囲気の良さそうな店があればすぐにでも飛び込みたいところだが、こういう時に限ってなかなか見つからない。そうこうしているうちに浅草まで来てしまった。そして、歩いた分だけ腹も減った。

 雷門通りの歩道にかけられた屋根の下ではミストのシャワーが降り注ぐ。東武浅草駅前の交差点を渡ると電気ブランで有名な『神谷バー』だ。

「ここでもいいか…」

 いやいや、せっかく浅草まで来たのなら美味い蕎麦でも食っていきたい。


 明治のはじめに創業して以来、浅草の顔として知られる日本そばの老舗『尾張屋(本店)』さんは小説家の永井荷風が毎日通ったほどの名店だ。その永井荷風が毎日食べ続けたという“柏なんばん”はあっさり柔らかい鶏ささみを使用しており、毎日食べても食べ飽きないと評判で、今でも看板メニューの一つである。


 案内された席に座るなり、額に滲んだ汗を拭きつつ開口一番…。

「ビール!」

 それからメニューを眺める。ついさっきまでは蕎麦の口だったのが眺めたメニューで気が変わった。そこにビールが運ばれてきた。

「上天丼を」

 頼み終えると、早速グラスにビールを注ぐ。先ずは一杯、一気に飲み干す。

「くーーーーっ」

 生き返る。


 上天丼が運ばれてきた。さすが尾張屋。期待を裏切らない。蓋をした重箱から海老の尻尾が二尾。

「おー! はみ出てるよ」

 蓋を取ると存在感のある大きな海老天が仲良く並んでいる。この上天丼丼は車海老。それが二尾。先ずは手前の海老天を一口。甘すぎないたれもいい。これはビールが進む。小鉢のお新香はたくあん、かぶ、柴漬け、きゅうりの4種類ある。いいつまみだ。吸い物も…みそ汁じゃなくて吸い物っていうのもいい。ビール瓶が空になったところで、天丼を堪能する。重箱を抱えて海老をパクリ。そして、メシをかき込む。最後に残った海老の尻尾をつまんで口の中に放り込む。

「ごちそうさま!」

 店を出るとすぐに汗が滲んできた。





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