25.“エコ”なバウムクーヘン
25.“エコ”なバウムクーヘン
「私が会社で話をしていたのを聞いていた?」
土産に買って帰ったバウムクーヘンを手渡した時に娘が言った。紙袋に入っていたのは娘の好物でもあるクラブハリエのバウムクーヘン。
更に娘がこう付け加えた。
「クラブハリエのバウムクーヘンが食べたいねって会社の人と話していたんだよ」
そんな話を聞いていたはずもなく、たまたま偶然のことではあったのだけれど…。
東京駅に立ち寄る機会があったので、何か土産でも買って帰ろうと思った。そこで思い付いたのがクラブハリエのバウムクーヘンだった。
クラブハリエは、“エコ”をテーマにした新業態の『クラブハリエ e-challenge』を、東京駅八重洲北口の東京ギフトパレットに出店している。ここではバウムクーヘンを作るときに出る両端の“耳”の部分を販売している。本来、市場には出回らないこの“耳”の部分が意外と美味い。通常に販売されているものより、こちらの方を好むファンも多いと聞く。娘のそのうちの一人なのである。そんなクラブハリエのバウムクーヘンの“耳”を買って帰ったのだ。それが昼間、会社で娘が話をしていたばかりだというところに登場したものだから、冒頭の会話につながったのだ。
このバウムクーヘンを買って帰ったのは伏線があった。本当はこの数日前に土産に思って買っていたのだけれど、不意に知り合いに会ったことで持って帰るはずだった土産をその知り合いにあげてしまった。
「いいんですか? おうちに持って帰るはずのものではなかったんですか?」
「いいんですよ。うちにはいつでも買って帰れますから。いつも会えるわけではない人には会った時にしか渡せませんからね」
こんな具合でその日は手ぶらで家に帰ったのだけれど、別に買って帰ると約束をしていたわけではなかったので事なきを得た。土産などと言うものは僕の気まぐれの産物なのだから。とは言え、娘の喜ぶ顔が見たいのには違いなく、この日、改めて買って帰ったのだ。それがまさにちょうどいいタイミングだったというわけだ。
さて、このクラブハリエのバウムクーヘン、他のメーカーのものと比較して、その味の違いを説明するのは難しいのだけれど、美味いのには間違いない。そもそもバウムクーヘンと言えば美味しいお菓子なのだ。
こういう風に家に買って帰ったものは僕の口に入ることはめったにない。それでも娘や家族が喜ぶ顔が見られるのならそれでいいじゃないか。




