23.天神様のランチで思わぬご馳走が!
23.天神様のランチで思わぬご馳走が!
師走になるとお世話になったお客さんのところへ年末の挨拶に行く。いわゆるカレンダー配りだ。一度には回りきれないので、スケジュールを組む。
湯島のお客さんは湯島天満宮の近くだ。お昼の時間をやり過ごして午後いちばんに訪ねた。挨拶をかわし、カレンダーを手渡す。それからしばらく立ち話。客先を出たところで腹の虫が鳴く。
「さて、この辺りで昼飯にするか」
神社の周りなら美味い蕎麦屋でもあるに違いない。そう思って湯島天満宮の方へ歩き出す。ところが日が悪かったのか時間が悪かったのか目ぼしい店はほとんど休みだった。そうこうしているうちに神社までたどり着く。
「取り敢えず、お参りしていこう…。あ、いや、取り敢えずは神様に失礼だな」
気持ちを改めて鳥居をくぐる。
参拝を終えて神社を出ると案内看板が目に入った。
『茶房松緒』
「茶房か…。でも、ちょっと覗いてみるか」
神社を出てすぐの場所にその店はあった。
「おっ! ランチもやっているじゃないか」
迷わず入店。店内は混み合っていたのだけれど、かろうじて開いているテーブル席に通してもらった。女性の店員さんがお茶とおしぼり、そして、ランチのメニューを持ってきてくれた。
「どれにしようか…。ん?」
ランチメニューはどれも数量限定になっている。思わず時間を見る。まだ大丈夫だろうか…。
「すみません、これはまだ大丈夫ですか?」
僕が指したメニューを確認すると店員さんはにっこり笑って答えてくれた。
「はい。大丈夫ですよ」
僕が選んだのは数量限定の“おばんさい手毬膳”。
間もなく運ばれて来たのは6種類の小鉢が乗せられた前菜の御膳。酢の物、お浸し、卵焼き、小ぶりの焼き魚、大根の田楽、そして茶わん蒸し。一品ずつ味わって食べる。
「どれも美味いなあ」
やはり日本人にはこういうのがいい。一通り食べ終えると、メインの手毬寿しの御膳とお椀が運ばれて来た。まぐろ、鯛、甘えびなど10種類の手毬寿し。最初にまぐろの寿司を口に入れる。
「あー! 間違いない」
一口サイズの手毬寿しはあっという間に僕の胃袋に吸い込まれていった。
「とても美味しかったです」
支払いの際に僕が言うと、女性の店員さんも応えてくれた。
「そう言って頂けると本当に嬉しいです。是非、またいらして下さい」
そう言って彼女は満面の笑みを浮かべた。彼女が最後に素晴らしいものをご馳走してくれた。




