22.焼き芋売りの思い出
22.焼き芋売りの思い出
秋から冬にかけて、こたつを出すような時期になると、外から聞こえてくる。
『いしや~きいも~やきいも~』
こたつに入ってテレビを見ていた妻の目が輝く。
「ねー、買って来て」
「えー、嫌だよ」
「一生のお願いだから」
そう言ってバッグから財布を取り出す妻は一生のお願いを何度したことか。とは言え、可愛い妻の頼みなら聞かないわけにはいかない。僕はこたつから出て立ち上がる。
「やった! 早くしないと行っちゃうよ」
「はい、はい」
僕はどてらを羽織って外に出る。ちょうど通りの角を曲がって行く軽トラックが目に入った。小走りにその軽トラックを追いかけて呼び止めた。そして、熱々の焼き芋を二本買う。競馬新聞で作った味のある紙袋に入れてもらった焼き芋を持ち帰る。
「やった! お芋だ、お芋」
妻の嬉しそうな顔を見ると焼き芋よりも温かいものが僕の心に染み渡る…。
そんな光景が思い出される。焼き芋売りの声を今はもう聞くことがない。そして、焼き芋はスーパーやコンビニの店頭で気軽に買える。それに焼き芋の専門店まで登場した。改良に改良を重ねた色んな品種のさつま芋が売られている。今の世の中、美味いものを手に入れるためにはそういうところへ足を運ぶのが当たり前なのかもしれない。家で待っていれば売りに来る時代は遠い昔のこと。どうしても外に出たくなければ、ネット通販やお取り寄せという手もあるにはあるが、それはちょいと違う気がする。
さて、さつま芋と言えば焼き芋のほかにも甘露煮や大学芋などがある。今回は大学芋を紹介する。
浅草の5店舗を含め各地に11店舗を要する『おいもやさん興伸』。季節によって品種の違う大学芋を提供してくれる専門店である。そんな『おいもやさん』で最近、店頭にお目見えしているのが“愛小町”という品種の大学芋だ。この“愛小町”は最近品種登録されたばかりの新顔だ。さつま芋本来の風味が強いのが特徴なのだとか。新顔ということで早速買って食べてみた。
「まあまあ美味いなあ」
そして、いちばんの定番は“あづま”。名前の通り使用しているさつま芋は紅あづまである。さつま芋の栽培に適したインドネシアやベトナムの契約農家で無農薬で栽培されている。他にも“さつま”や“紅小町”といったものもあり、一様にさつま芋の美味しさをいかんなく発揮している。そんな数ある商品の中で僕の一番のお気に入りは“みやび”である。こちらもインドネシア産で無農薬栽培されたものだ。その中から色・味に優れたものを厳選してつくられた大学芋はしっとり柔らかくて上品な味わいがある。この“みやび”は浅草のオレンジロード店でしか見かけない。もっとも、浅草以外の店舗に入ったことがないので断定するものではないのだけれど。
「美味し~い!」
僕と味の好みが似ている娘も大絶賛だ。おいもやさんの紙袋をぶら下げて帰ると「みやびだ!」とはしゃぎ出す。




