8:畑を作ります
『シュピルアーツ』では、目を細めると対象の詳細がわかる。得られる情報は簡単なものだが、〈鑑定〉スキルを取るとより詳細に表示されるようになる。
詳細を確認したのは、ダントのクエスト報酬の種。今のリーフは〈鑑定〉スキルがないので、最低限の情報しか表示されない。
〈ポポコロの種〉
地面に埋めると、ポポコロの木になる。
「……ポポコロってなんだろう」
現実世界でも、『シュピルアーツ』でも、聞いたことのない名称だ。とりあえず種ということは確定したので、〈マイホーム〉に植えて様子を見るのがいいだろう。
やりたいことが多すぎて、どれから手をつけていいかわからないくらいだ。
ひとまず食器類は家の中に置いておいて、ほかのものは〈鞄〉の中にしまっておく。
作業の流れとしては、まず〈マイホーム〉の庭部分を耕して畑を作る。そのあとは周囲のモンスターを倒してレベル上げ。ポポコロの成長が早ければ、ある程度は育つかもしれない。
(早く〈鑑定〉スキルも取りたいというか……取りたい生産スキルがたくさんある)
いくらレベルアップしても足りなさそうだと、リーフは苦笑する。
庭に出て、〈鞄〉からシャベルを取り出す。おそらく道具屋にいけば〈クワ〉が売っているのだが、まだ植えるものは少しだけなのでシャベルで充分だ。
家の前に広がる庭を見て、さてどこに植えようかなと考える。別に指定はないが、きちんと区画整理をすることによって美しい庭ができるのだ。
(家までの道は、石畳的なので作ったらお洒落でいいよね。レンガがあるから、植物ごとに区切ったら丁度いいかもしれない)
ざっくりとした配置を脳内で思い浮かべ、リーフはさっそく取りかかる。
家を中心として中央で左右に分割し、右手側に植えてみることにした。〈ポポコロの種〉は大きいので、シャベルで土を柔らかくし、レンガを円形に並べてスペースを作った。大きく成長すれば、〈マイホーム〉のシンボルになるかもしれない。
そして一番右の、柵部分と平行になるようにレンガを置いていく。ここは〈薬草の種〉を植える予定だ。ポーション系の生産にはかかせない、大事なアイテムだ。
「――あ。うっかりしてた」
調子よくレンガを並べていたのだが、数が足りなかった。〈初心者バッグ:生産〉に入っていたレンガは五〇個だったのだが、右手側に敷き詰めるのにはもう五〇個弱必要そうだ。
(これも道具屋に行ったときに補充しないとだ)
仕方ないので、シャベルで土を掘り返していく。まあ、レンガがなくても見た目がちょっとずさんなだけで、植物が育てられないというわけではない。大丈夫だ。
さくさく地面を掘り返し土を柔らかくして、種を植えていく。奥から〈薬草の種〉〈ジャガイモの種〉〈レタスの種〉だ。家の前には、〈コスモスの種〉を植えておく。
「よしよし、いい感じだ」
あとは水を上げれば、作業は終了。肥料を使うと成長促進できるので、これも見つけ次第購入したいところだ。もしくは、スキルを覚えたら自分で作れるようになるかもしれない。
しかしここで問題が起きた。
リーフの手には〈鞄〉から取り出した〈ジョウロ〉があるのだが……井戸がない。畑を作れるのに水関連の設備が何もないとは何事か。
クローズドβテストのときは生産を一切していなかったので、失念していた。おそらく、増築のメニューに『井戸の設置』があるのだろう。
(わかってたけど、なかなかに先は長そうだ……)
仕方なく家の水道から水を汲んで、種を植えたところに水をやる。
あとは毎日水やりをすれば、芽が出て収穫することができるだろう。ちょっとしたことではあるのだが、やり切った達成感がある。気持ちがいい。
そして気づくと、辺りはオレンジ色になっていた。見ると、太陽が水平線に沈もうとしているところだった。
「一日が終わっちゃうんだ」
なんとも早いものだと、リーフは思う。
『シュピルアーツ』の一日は、現実世界での一時間にあたる。これから夜が来るので実際には三〇分ほどしか経っていないけれど、リーフとしては一日分の充実感があった。これも、最新のフルダイブ機器のおかげらしい。説明書によると、脳に信号を送り実時間と体感時間を調整しているのだという。
「もう少し狩りをしてから、休もうかな」
リーフたちプレイヤーは、ゲームをするにあたり休息を必要とする。
多少の無茶は可能だが、眠ったりご飯を食べたりしなければ思うように動くことができなくなるのだ。これは、クローズドβテストの時と同じ。
ひとまず狩りだ! と〈マイホーム〉の外へ駆けだそうとして――ぐううぅ~。
「えっ!?」
聞こえた音に思わず尻尾が逆立ち、リーフは驚いた。いや、どう聞いても自分のお腹が鳴った音なのだけれど……こんな演出は初めてだったので動揺してしまったのだ。
(こんな仕様はいらないでしょ!? ほかの人の前で鳴ったら恥ずかしいじゃん!!)
リアルでいいかもしれないが、さすがにゲーム世界にまでお腹の音は求めていない。後で改善要求のメッセージを送らなければと思いながら、リーフは〈鞄〉から〈パン〉と〈干し肉〉を取り出した。
もっと豪華な夕食を用意できたらよかったのだが、ゲーム初日っぽくてなんだか風情があるように思えてしまうから不思議だ。
リーフは〈ポポコロの種〉を植えたところのレンガに腰かけて、夕日を眺めながらパンをかじる。
柔らかそうに見えたけれど、想像よりも硬くて味気ない。これは牛乳がほしいなと思いつつ、〈干し肉〉と一緒に食べたらちょうどよかった。
畑のざっくり図です。
汚いという苦情は受けつけません\(^o^)/