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4:〈マイホーム〉と現在地

『シュピルアーツ』には、ハウジングシステムがある。それにより、プレイヤーは〈マイホーム〉を持つことができる。

 自分のホームを持つことができるゲームは多々あるが、『シュピルアーツ』はその中でもちょっと特殊な立ち位置にある。

 定期的なログインと、月ごとの家賃を支払わなければ〈マイホーム〉がなくなってしまうのだ。〈マイホーム〉内の倉庫に入れていたアイテムとお金も、きれいさっぱり消えてしまう。クローズドβテストでは、これにより絶望したプレイヤーが何人もいた。

 新しい〈マイホーム〉も購入できるけれど、それにはかなりのお金が必要になる。そのため、〈マイホーム〉を買い直したプレイヤーはほとんどいなかった。


「さて、と」


 リーフは〈マイホーム〉を見上げて、にんまりと笑う。


 お世辞にも広いとは言えない〈マイホーム〉は、庭の面積が15メートル×15メートルの正方形。ざっくりバスケコートの半分くらいだ。

 庭の部分は雑草がわっさーと生えているので、手入れをすると使えるようになる。

 その先には、赤い屋根と、猫型の窓がついた可愛らしい小さな家が建っている。ドアベルには鈴が使われていて、表札部分には〈リーフの家〉と書かれているのが見えた。


「やった、私の家! といっても、初期型だからこれからどんどん増築していかなきゃだけど……」


 これがまた、お金がかかるのだ。


(それはおいおい考えるとして……)


 まずは、自分の家がどこにあるのか確認する必要がある。

 現時点でわかっていることは、『シュピルアーツ』の世界にある、〈ケットシー〉の始まりの村の近くである、ということだけだ。

 というのも、実は〈マイホーム〉の場所はランダムになっている。ただ、完全なランダムではない。それぞれの種族の村の周辺にランダム、ということ。村の近くであればゲームを進めやすいけれど、距離があったらなかなか面倒なのだ。


「いい場所でありますように――〈システムメニュー〉」


 リーフが言葉を発すると、目の前にウィンドウが現れる。これはクローズドβテストのときと同じで、ちょっと懐かしさを覚える。

 表示されているものは、リーフの〈ステータス〉をはじめ、〈マップ〉〈装備〉〈スキル〉〈鞄〉〈マイホーム〉〈パーティ〉〈フレンド〉〈手紙〉〈ギルド〉のメニュー。〈ケットシー〉だからなのか、肉球と魚のデザインになっているのが可愛らしい。


 インベントリから〈マップ〉を選ぶと、地図が表示された。


「――えっ!?」


 現れたのは、クローズドβテストのときとは違う〈マップ〉だった。いや、厳密には同じなのだが――世界が拡張され、街や施設、ダンジョンなどが増えている。

 思わず、体が歓喜に震えた。


「アップデートがあるまではクローズドと変更点はほとんどないと思ってたのに」


 これは嬉しい誤算だ。


 〈マップ〉でわかることは、自分の現在地と、各種族の『始まりの村』と、大きな街とダンジョンの情報。そのほかの情報は、自身で登録していくことで〈マップ〉に反映される。表示される範囲は半径二〇キロメートルだ。


 リーフは自分にしか見えないウィンドウの〈マップ〉を指でなぞるようにして、自分の現在地を確認して――変な声がでた。


「うっはぁ、何ここ! 一番はずれの場所じゃない!?」


 今は自分の半径二〇キロメートルしか見えないけれど、クローズドβテスト時の〈マップ〉ならばリーフの頭の中に入っている。

 自分の位置は、〈マップ〉の一番下――つまり南に位置している。海に面していて、クローズドβテスト時にはなかった小島が追加されているのは気になるところだ。

 ただ〈ケットシー〉の村へ行くには、おそらく北西へ二〇キロメートルほど歩かなければいけない。

 さらに先へ進むと、リーフが一番乗りした〈世界樹〉がある。その〈世界樹〉を中心に、〈ケットシー〉の村から左周りで〈エルフ〉〈ヒューマン〉〈ダークエルフ〉〈ドワーフ〉の『始まりの村』がある。



挿絵(By みてみん)



(いやはや、これは出だし不利すぎるね!?)


 もしも『シュピルアーツ』を攻略する気満々であったのなら、絶望に膝をついていたかもしれない。けれど、リーフの今の目的は違う。

 クローズドβテストでは攻略組の最前線にいたけれど、正式リリースした今は『生産』を思いっきり楽しもうと決めている。

 装備品を作ったり、ポーションを作ったり、この世界では人種に関わらず自由なことをすることができる。


『シュピルアーツ』のNPC――ノンプレイヤーキャラクターには最新のAIが組み込まれていて、彼らもこの世界で生きている。

 この世界独自の文化があり、それに触れることもリーフの楽しみの一つ。逆に、こちらから何かを発信すれば、それらを取り入れてもらうこともあるかもしれない。

「家の周りは自然がいっぱいだから、素材採取がはかどりそう!」

 なんといっても、生産をするためにゲームを始めたのだ。街へ行くのはしばしお預けになりそうだが、これはこれで楽しそうだ。


「現地確認終了! 次は――〈鞄〉!」


 所持アイテムを把握しておくことは大切だ。

 見ると、鞄の中にはいくつかのアイテムが入っている。インベントリになっていて、なんでも入れることができる。種類や個数制限はない。

 鞄に入っているものは、〈初心者バッグ:生産〉〈初心者バッグ:戦闘〉、干し肉×10、パン×10、ポーション×5だった。


 ちなみに初心者バッグとは実は課金アイテムだったりする。今まで課金に関する説明がなかったので驚いたけれど、一年もクローズドβテストを楽しませてくれて、最新のフルダイブ機材も送ってくれて……さらにはこれからゲームができる。

 本当ならもっと課金してもいいくらいだ。


(と思いつつ……これ以上だと金銭的にちょっとピンチだったけど)


 店の手伝いをしていてよかったと、このときばかりは心の底から思ったものだ。

やっと進んできた感。

やっつけですが〈マップ〉を載せてみましたがどうでしょうかね…。

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― 新着の感想 ―
[良い点] ほのぼのして楽しそうです 地図があるとイメージがわいて良いです [気になる点] 地図は左ではなく、右回りになると思います [一言] のんびり頑張ってください
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