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3:ようこそ、オープンワールド?

『キャラクターメイキング』


 一花――リーフの前に浮かぶウィンドウには、そう書かれている。これからキャラクターを作って、『シュピルアーツ』の世界へ行くのだ。


 今いる場所は、球体の空間の中だ。

 たとえるならば、全身もしくは意識下で操縦するロボットのコックピットにでもいるような感覚だろうか。


 ドキドキするのを押さえながら操作を進めようとして――目を見開いた。


「これ、βテストキャラ()……?」


 球体の外に浮かび上がっているキャラクターの3Dデータは、クローズドβテストで使っていたリーフそのままだった。

 データは一切残らないとばかり思っていたのに、そうではなかったようだ。


 しかしこれは、とてもありがたい。

 なぜなら、キャラクターメイキングにはそこそこ時間を費やしたからだ。髪や瞳の色に、輪郭や体系の調整……。細かく設定することが可能だったので、また同じキャラクターを作るのには苦労すると思っていた。

 もちろん、まったく別のグラフィックにしても問題はない。ただ、一年間慣れ親しんだリーフというキャラは愛着があった。


「外見データ以外も、『リーフ』とまったく同じだ」


 種族も〈ケットシー〉になっている。

 可愛い耳と尻尾が生えているのは、いつ見ても癒されるというものだ。歩くたびに尻尾が揺れて、感情の起伏に合わせて耳も動く。



『シュピルアーツ』の世界では、いくつかの種族からキャラクターを選択することができる。


 〈ヒューマン〉

 防御力が高く、パーティの前衛に向いている。ほとんどの武器を使いこなすことができるため、戦闘の幅が広い。

『種族スキル』は〈全耐性10%〉のパッシブスキルなのでいろいろな面で重宝する。

 マナがないため、HPを使用して技系のスキルを使う。魔法系スキルを使うことはできないのが難点。初心者向け。


 〈エルフ〉

 マナが高く、火力の後衛として活躍できる。魔法スキルに長けたエルフが多く、新たな魔法スキルを教えてもらいやすい。

 森と相性がよく、『種族スキル』の〈森の声〉によって『森』エリアのみマップがすべて表示される。

 HPと防御力が低いため、ソロプレイは不向きなのが難点。上級者向け。


 〈ダークエルフ〉

 マナとHPが高く、前衛も後衛もこなすことができる。勘が鋭く、罠のあるダンジョンでは重宝される人材。

『種族スキル』の〈宝発見〉スキルで稀に宝箱を発見することができる。

 持続性はあるが、瞬間的な攻撃力はそこまで高くないのが難点。初心者向け。


 〈ドワーフ〉

 防御力が高く、前衛向き。手先の器用さは鍛冶をするのに向いていて、戦闘以外の面でも活躍できる。

 鍛冶と相性がよく、『種族スキル』では装備の効果が10%UPするパッシブスキル〈武神の祈り〉がついている。

 攻撃力が低いのは難点だが、生産に向いている種族。中級者向け。


 〈ケットシー〉

 夜目が効く。敏捷性にすぐれており、高いジャンプ力を誇る。細やかな戦闘の立ち回りでいえば、右に出る種族はいないだろう。

 動物と相性がよく、『種族スキル』を使い〈猫化〉すると猫と会話ができる。

 マナはあまり高くないが、HPも低くないためバランスのいい戦闘が可能。種族サイズ的にも装備が手に入りづらいのが難点。上級者向け。



 リーフが選んでいるのは、言わずもがなの〈ケットシー〉だ。


 最初にこのキャラで『シュピルアーツ』の世界へ降り立ったときは、視線の低さにびっくりしたものだ。ケットシーの身長は、平均で一〇〇センチメートルほど。リーフは七〇センチメートルなので、それよりもちょっと小柄設定になっている。

 この身長を選んだ理由は、『小さい方が可愛い!』というなんとも単純な理由だ。


 ちなみに猫耳があると人間の耳はどうなっているのか? という疑問があるが、『シュピルアーツ』では猫耳だけで、人間の耳はない。

 リーフも耳が二つあるのはちょっと変じゃない? と思っていたので、ほっと胸を撫でおろした思い出がある。


「キャラメイクが終わってるんだから、さっそくスタートしよう!」


 こんなところで懐かしい思い出に浸っているわけにはいかないのだ。リーフを『シュピルアーツ』が、冒険が待っているのだから。


「よーし、〈ログイン〉!」


 〈ログイン〉という言葉が、ゲームスタートの合図だ。

 リーフの体は粒子になるように光って、その場から姿を消した。



 ***



 澄んだ青空に吹く風が頬をかすめたことに気づき、リーフは思わず上を見た。気ままに流れる雲と、大地を照らす太陽と、その周囲に薄っすら見えるいくつかの星。

『シュピルアーツ』の舞台は、地球とは違う星で繰り広げられている。ゆえに、空の様子などが地球と同じではない。もしかしたら、リーフが太陽だと思ったものも、違う惑星なのかもしれない。


 壮大な世界は圧巻! ――けれど、リーフが何より驚いたことは、風を感じることができること。風によってキャラクターの髪が揺れるという演出ではなく、確かに肌で感じることができているのだ。


(冊子の説明で読んだけど、本当にすごい……!)


 運営会社の〈コスモスブルー〉から送られてきたフルダイブの新型装置は、体の各所を繋ぎ、脳へ信号を送る仕組みになっている。

 それは新技術を使っているようで、国家機密うんたらで詳細はうまい具合に省かれていたけれど……要は『シュピルアーツ』で体験していることを、実際に肌で感じることができるようになっている。

 風を感じることができ、何かを食べれば味覚があり、お腹が空けば夜になれば眠くなるようだ。


(まるで、本当にこの世界で生きてるみたい)


 そして首を空から大地に戻す。若干疲れた気がするのも、あのすごいフルダイブ装置のおかげなのだろう。


(疲労はなくてもよかったと思うよ……)


 しかしそんなリーフの考えは、一瞬で空の彼方へ飛んで行ってしまう。なぜかって? だって、目の前に自分の〈マイホーム〉があったからだ。

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