13:フィールドボスとの遭遇
リーフは漁村〈トットン〉を出て、北へ向かって歩き出した。
北に薬草が生えているスポットがあるらしいので、たくさん採取しておきたい。そうすれば、ポーションを作って〈調合〉のスキルレベルを上げることができる。スキルレベルが上がると作れるアイテムが増えるので、今から楽しみで仕方がない。
誰もいないのをいいことにスキップしながら進んでいくと、『グルゥゥォ』という雄たけびに近いような声が聞こえてきた。
「ひえっ」
驚いたリーフは、咄嗟にしゃがんで前方の様子を見る。視界に確認できるのは――白く、角の生えたモンスターだった。
ダントの言っていたモンスターと特徴が一致する。やはりあの会話はフラグだったのかと遠い目をしつつ、リーフは目を細めてモンスターの確認をする。
外見は、白い馬に角と小さな羽が生えているというものだ。パット見た感じ、ユニコーンのようなイメージだろうか。
「名前は〈ユニコル〉か。レベルは23、ここら辺のフィールドボスなら妥当なレベルだし、私のレベルでも倒すことはできる……か」
ただし、戦闘〈スキル〉を取っている場合に限る。
リーフはすべて生産〈スキル〉を取っているため、攻撃手段がハンマーで叩くか剣で斬りつけるくらいしかないのだ。さすがに、これでフィールドボスに挑むのは無謀だ。
低レベルのフィールドボスは非アクティブモンスターなので、攻撃しない限り襲われることはない。
せっかく遭遇したので倒したい欲はあるけれど、ここは戦略的撤退をするしかない。いつか、もっとレベルが上がるか装備が整ったら、生産まっしぐらのリーフでも倒すことができるようになるだろう。
「そのときまで、命は預けておいてやるか……」
そんな決め台詞のようなものを言った直後、リーフの猫耳がぴくっと動く。捉えたのは、掠れるような声。
おそらく、リーフの種族が〈ヒューマン〉だったら聞こえなかっただろう。〈ケットシー〉ゆえに、気づくことのできた声。
(誰かが戦って……いや、襲われている?)
プレイヤーか、もしくはNPCか。リーフの視界に入らないのは、きっと倒れて草木に埋もれてしまっているからだろう。
別に死んでも〈マイホーム〉かどこかに死に戻りをするだけなのだが、NPCだったら……と考える。『シュピルアーツ』のNPCは、死んだらもう生き返らないのだ。
そんなことあるか? と思うだろうが、そんなことがあるのだ。それならば自分が死に戻った方がましだ、そう考えるプレイヤーは多い。
「とりあえず近くまで行って――え?」
『みゃぅ~っ!』
「子猫!?」
〈ユニコル〉が襲っていたのは、黒色の子猫だった。
しかも〈ユニコル〉は子猫をいたぶるように前脚で蹴り、まるでボール遊びでもしているかのようだ。
(これは許せない……!)
リーフの種族が〈ケットシー〉なのは、猫が好きということもある。そのため、子猫をいじめている〈ユニコル〉は殺意しかわかない。
(でも、どうすればいい?)
この危機的状況をどうにかできる案を考えなければ、子猫は死んでしまう。
リーフのレベルは16、〈ユニコル〉のレベルは23。やれるか? いや、やらなければいけないのだ。
(レベル23のフィールドボスなら、HPはだいだい1,000弱ってところかな?)
叩いていればいつかは倒すことができるだろうが、問題はリーフの紙防御という点だ。初心者セットとはいえ、一応課金アイテムを装備しているので……悪いわけではないのだが、下手をすれば一撃で死んでしまう可能性もある。
「…………〈システムメニュー〉」
リーフは装備を〈お魚印の短剣〉と〈お魚印の盾〉に変更する。これなら、一撃で死ぬということはないだろう。
まずは子猫の安全が最優先なので、リーフはぐっと足に力を入れて跳んだ。
『ヒヒンッ!?』
(ユニコーンっていうより、馬感つっよ!)
相手がこちらに向かってくる前に、リーフは剣を構えてジャンプする。〈ケットシー〉の跳躍力を持ってすれば、二〇メートルくらいひとっとびだ。そのまま〈ユニコル〉に一撃を加え、後ろに跳ぶ。
〈ユニコル〉の意識は、子猫からリーフに向けられた。
(よしっ!)
これで憂いはなくなった。とはいえ、リーフが死んだら〈ユニコル〉はまた子猫を狙うだろうから、油断は禁物だ。
子猫は気を失ってしまったようで、地面に倒れている。
(すぐに助けてあげるからね!)
『ヒヒーン!』
「――っ!!」
〈ユニコル〉が前脚で連続攻撃してきたのを、盾で防ぐ。それでも、一撃で110、二撃だったので220もくらってしまった。リーフは慌てて大きく後ろへ跳んだ。
リーフのHPは232なので、もう一撃食らったらエンドだ。急いで右手を動かし、ショートカットで〈初級ポーション〉を使う。
嫌な汗が、背中を伝う。おそらく今の攻撃は、かなりラッキーだったのだろう。というのも、攻撃ダメージは、ぴったりいくつという数字が出るわけではないのだ。一桁であれば±5ほどのむらがでるし、攻撃力が高くなればそれは数百になることもある。
つまり、次の攻撃は120の二連続攻撃になるかもしれないのだ。そうすると、リーフのHPは0になってゲームオーバー、子猫も殺されてしまうだろう。
(これはやばい!)
リーフは〈ケットシー〉自慢の素早さを使い、走り回って考える時間を稼ぐ。
〈システムメニュー〉を開き、何かできないだろうかと〈調合〉スキルを使ってみる。もしかしたら、何か状況を打破できるアイテムがあるかもしれない。
現在作成可能なアイテム一覧が表示され、リーフは何かないか指で辿り――一点で指が止まる。
「〈スライムとりもち〉? 必要材料は、〈スライム玉〉を三〇個」
〈鞄〉の中を確認すると、〈スライム玉〉は三六個あった。ちょうど足りるので、リーフはさっそく〈調合〉した。
できあがったアイテムは、いわゆるスライムのような物体だった。〈スライムとりもち〉の説明を読むに、モンスターに投げると相手の素早さが落ちるようだ。つまり、攻撃速度が遅くなる。
(これなら、二撃連続で攻撃されなくなる……はず!)
リーフはさっそく〈スライムとりもち〉を〈調合〉し、〈ユニコル〉へ向かって投げつけた。見事、命中。
『ヒヒン!?』
〈ユニコル〉は戸惑いの声をあげて、こちらを睨みつけてきた。しかし、アイテムの効果が出たようで……走る速度も遅くなっている。
これならば、今のリーフでも対応することができるだろう。
剣で攻撃し、盾で防ぎ、HPを回復する。
それを数十回繰り返し――無事、〈ユニコル〉に勝利した。落ちたドロップアイテムは確認せずに〈鞄〉にしまい、子猫の下へ走る。
「猫ちゃん、大丈夫!?」
『にゃ……』
リーフが声をかけると、弱々しいながらも反応があった。ほっと胸を撫でおろし、急いで〈初級ポーション〉を使ってあげる。すると、みるみるうちに子猫は回復した。
『みゃっ!』
リーフは安堵して、そのまま草原に倒れるように寝転ぶ。元気ではあるが、〈ユニコル〉との戦闘でくたくただ。
「あああ、よかったあぁぁ~!」
こんなに大きな声を出したのは、ログインしてから初めてだったかもしれない。
子猫は正義。
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