1:シュピルアーツ
新連載だ~~!
どうぞよろしくお願いいたします。楽しんでもらえたら嬉しいです。
「いよっし、一番乗りじゃない?」
にんまり笑って〈世界樹〉に触れると、目の前にウィンドウが現れた。そこに書かれている文章に、さらに笑みが深くなる。
書かれている文章は、『あなたは最初に〈世界樹〉へ到達したプレイヤーです。その冒険を称え、頭装備〈世界樹の蝶々〉が贈られます』というもの。
つまり〈世界樹の蝶々〉は、〈世界樹〉に到達した自分しか持っていない装備ということだ。一番乗りしたプレイヤー宛てなので、今後も手に入れることは難しいだろう。ぐっとガッツポーズをして、嬉しさを噛みしめる。
「よーっし!」
さっそく装備してみると、グラフィックに変化が起きる。
〈世界樹の蝶々〉は、葉の形をピンクゴールドで縁取り、黄、橙、白、青、紫と、神秘的な色合いの頭装備だ。例えるのであれば、ステンドグラスに似ているだろうか。
頭から生えた猫耳の付け根に装備された〈世界樹の蝶々〉は、リボンもついていてとても可愛らしい。
〈世界樹〉に一番乗りで到達したのは、プレイヤーネーム『リーフ』。
種族はケットシーを選んでいるため、猫耳と尻尾がついている。身長は一〇〇センチメートルと小柄だが、それがまた可愛らしい。
薄蜂蜜色の髪に、同じ色の猫耳と尻尾。キラキラしている新緑のような瞳に、短めな眉毛。
ゆったりした服装は白を基調としており、珊瑚色の縁取りと、差し色には薄青が使われている。後ろには、猫耳をすっぽり隠せてしまえるほど大きなフード。足は鈴のついたブーツをはいている。
どれも装備品であり、リーフがこの世界――『シュピルアーツ』で手に入れたものだ。
『シュピルアーツ』は開発当初から注目度が高かったオープンワールドのゲームで、いろいろな意味で世界中から注目されていた。
開発費が数千億、さらに桁がもう一つ二つ上なのでは? という噂や、世界初のフルダイブVRだとか、βテスト期間が長いうえに抽選の倍率が高いとか……まあ、いろいろとあった。
しかし一番波紋を呼んだのは、それほどのゲームが世界規模ではなかったということだ。用意されたサーバは日本だけで、規模もほかのネットゲームと同じか、もしくは少し小さいくらいだろう。
開発費の割には小規模展開で、世界のゲーマーたちは首を傾げた。もちろん問い合わせや取材などの申し入れが運営会社にあったが、そのどれに対しても沈黙を貫いた。
しかしそれでも、ゲームの運営会社である〈コスモスブルー〉から定期的に発表される開発画面の映像や楽曲、モンスターやNPCのキャラクターに、人々は圧倒されたのだ。
ああ――この世界を体験してみたい、そう誰もが思った。
突如発表されたクローズドβテスターの募集は、人々を震えさせた。
募集人数は一万人。応募資格は、日本国籍を持っていることと、犯罪歴がないこと。機器は運営会社からの貸し出しがあるので、必要なのは安全にゲームをする部屋と電源のみ。
プレイ時に本人確認があるので、代理抽選を頼むことは不可能。その応募数は、五千万にも上ったのだという。
「でも、今日でβテストも終わりか。……一年は長かったけど、これから始まると思えばそれもまた楽しいかな?」
リーフはくすりと笑い、空を見る。
自分の瞳と同じ色の葉が光を反射していて、その眩しさに目を細める。けれど、ここではそよ風や大地の香りを感じることはできない。
フルダイブとはいえ、さすがにそこまでの機能はついていない。あるのは、ダメージを受けたときにわずかに振動があるくらいだろうか。
〈世界樹〉が揺れるのを見て、一年間の思い出がよみがえる。
ケットシーという種族を選んだ結果、とても面白い経験をすることができた。見た目は獣人のような姿だけれど、種族スキルの〈猫化〉というものがすごかった。なんと、猫と会話ができるようになるのだ! ただ残念なことに、その際の戦闘能力などは……お察しだったけれど。
思い出に浸っていると、目の前にウィンドウが現れた。そこに書かれているのは、クローズドβテスト終了カウントダウンのお知らせだ。
町へ戻れば一緒にプレイをした仲間たちがいるだろうけれど……今は、〈世界樹〉を眺めていたかった。
(私だけがこの目で見ることができたんだもんね)
彼らも、きっとそれくらいは許してくれるだろう。
「あ、せっかくだからスキルも使っちゃおうかな」
リーフが手に入れた頭装備〈世界樹の蝶々〉は、〈世界樹の恩恵〉というスキルを使用することが可能になる。効果は、自身とパーティメンバーのマナの回復速度をアップするというものだ。
マナを消費することで、スキルを使うことができる。『シュピルアーツ』は多くのスキルがあるため、マナのやりくりにプレイヤースキルが求められる。なぜなら、マナを回復するアイテムがないからだ。
だから本来、この頭装備のスキルはとてつもないものなのだ。革命と言ってもいいかもしれないと、リーフは思う。
しかし残念なことに、今――まさに今、クローズドβテストは終わろうとしているのだ。つまり、この頭装備も消えてしまうのだ。クローズドβテストは、データの引継ぎがされないから……。
(まあ、ぐちぐち考えてても仕方ない)
ウィンドウを見ると、残りのカウントダウンは六〇秒。
「よーし、〈世界樹の恩恵〉!」
リーフが高らかにスキルを使うと、虹色の蝶々が現れた。
三匹の蝶々が羽ばたくと、キラキラ輝く鱗粉が落ち、マナの回復速度を上げてくれる。明るいエフェクトは、まさに太陽に光を受ける世界樹のようだ。
「わあぁ~、綺麗!」
そして気づけば、カウントダウンは〇に。
この神秘的な景色を見ながら、『シュピルアーツ』の世界を終えられることが嬉しいと思った。
ゲーム内で生産するの大好きなんですよね……!
とりあえずルンファク5を楽しみにしているぷにです。
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