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街へ



 詰めすぎて些か膨らんだ荷物を無理やりカゴに押し込んだ後、荷台に座布団を折り、ゴム紐でぐるぐる巻いて固定する。予定通りあれから3日経った今日、天気も良く絶好の出発日になりそうだ。


少女を座布団の上に座らせ、僕にしっかり捕まっているように伝えて力強くペダルを踏んだ。


「本当は二人乗りダメなんだけど……2人だけの内緒にしようね」


話しかけると答えるように背中の服を掴んでいる力が強くなった。


「……懐かしいなあ。僕がお嬢さんくらいの頃にさ、お婆ちゃんがいつもこうして自転車に乗せてくれたんだよ。座布団敷いとけば、ここは荷台じゃなくてちゃんとした座席になるからお巡りさんに捕まらないって。昔は規則緩かったし、もうだいぶ昔の話なんだけどね」


パトカーとすれ違った時もあったけど一度も注意されたことなかったなあ。

なんて話しかけながらペダルを漕ぎ続ける。今は自分が祖母の立場でなんだか感慨深い。


「この坂を下ると住宅地を抜けて川沿いに出る。そこから道なりにずっとずっと走れば、ちょうど街までの中間あたりにショッピングセンターがあるから、そこで一旦休憩しよう。車輪に足を挟まれないよう気をつけて、しっかり捕まっててね」


 伝えてすぐ坂に差し掛かり、僕らが乗った自転車は一気に下っていった。ぐんぐんとのびていくスピードにより、視界に入る住宅が目まぐるしく変わっていく。そうして坂も終盤に差し掛かった所で一気に風景が開け、目に飛び込んできたのは道路と蒼い山々、朝日に照らされ緩やかに流れていく川だった。朝は通勤ラッシュで交通量も多い場所なのだが、もちろん車は一台も走っていない。


「……川が綺麗だね。こっちに戻ってきたら川辺散策でもしてみようか」


交通量がゼロだと川の流れる音がとても大きく聞こえるのが新鮮でもあり、また人がいない現実に少し泣きそうになったが、それらを横目に前へ前へとペダルを強く踏んだ。








 一気に水を呷り喉が勢いよく上下する。隣に座った少女が半分に折った地図で風を送ってくれる。


「ゲホッ……コホッ……あ、ありがとう……流石に自転車で二人だと体力が……」


クシャリと空になったペットボトルを潰しながら呼吸を整える。途中、上り坂で自転車を降りて押しながら進んだり、悪路でバランスを崩しかけたり、道路沿いの店々に人が居るか遠巻きに確認したりしつつ、予定していた時間より少し遅れてショッピングセンターに到着した。


 音楽の合間に定期的な館内放送が流れてくる。自分の家から一番近い大きな複合商業施設はここなので、普段から映画を鑑賞したり贅沢したい時にちょくちょく足を運んでいた。周辺の住民もやはり考えることは同じなのか普段から客も多く、特に休日は人で溢れていた覚えがあるのだが、広い中央広場の椅子には僕と少女しか居ない。


「あー!!もうなんでだよ……すみません誰かいませんかー!店員さーん!!!」


閑散とした館内に声だけがこだまのように響いていく。まだ郊外ではあるのだが、周辺の町から人々が集まってくる場所なので些か期待していたのだ。それどころか自分の町だけでなく、周りの町からも人が消えている可能性が高いことに薄々感づいてしまった。


「……僕たちみたいに無事だった人が同じような考えでここに来たりしないかな……」


「…………」


少女は地図で扇ぎつつ無表情で首を傾げるばかりだ。


「……少し休憩して一応店内の確認をしたら出発しようか!僕たちの目的地は街だ。ここじゃあないもんね」


頬をペシペシと叩いて気合を入れ直す。疲労で重たくなった腰をよいしょと持ち上げた。今の今まで自分の町を確認しながら少女と2人で暮らしてきたのだ、この状況は見覚えがありすぎる。きっと店内を見ても誰もいないだろうと思いながら。










 風を切って自転車は走り続ける。ビルが増え、道路も三車線になり広くなった。このまま行けばもう街は目と鼻の先だ。


徐々に目的地へ近づいているのに気持ちはどんどん沈んでいく。ここは街と繋がる主要道路である。普段はラッシュでなくても交通量が多い場所。


誰もいない広い道路はとても壮観であった。こんな状態を見たら誰だって悪い方へ想像してしまうだろう。


「……そうだ!折角だから道路のど真ん中走ろうか!」


なんだか律儀に歩道を走り続けてたのが馬鹿馬鹿しくなった。後ろの少女に話しかけ、ハンドルを右に切る。ガタンと段差を乗り越えて真ん中の車線へ向かって勢いよく飛び出した。


「段差も障害物もない!これですいすい行けるよ!!」


ぴゅうと口笛を吹く。車道へ出れば側に立っていた建物の圧迫感がなくなり、視野が広くなる。

そうして走り続けていたら城の堀が見えてきた。城の先はもう街だ。堀を囲む木々で中心地に続く大通りはまだ見えないが、もうそういう事だろうと高を括った。

城に近づいてくると少女が背中を叩き、城を指さしてくる。


「お城気になる?ついでに見て行こうか」


そう話しかけると少女が力強く頷くのが視界の端に見えた。入口はちょうど大通り真正面なので、速度をゆっくり落とし大通りの前へ出る。


「……やっぱりね」


一直線に伸びる道路は障害物も無く先まで綺麗に見え、ビルは隙間なく立ち並んでいる。ここまで見てきた町と同じように、店や信号の音楽が小さく聞こえてくるだけだった。



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