ブラック企業サラリーマンはクリスマス転生を諦めない
町はクリスマス。
ざわざわしてる。
俺の心もざわざわしてる。
さっき課長に言われたんだ。
「契約も取れない、資料もろくに作れない。お前、死ぬしかないんじゃない?」
もう死のうかな。
次は流行りの異世界転生でケモ耳のもふもふ幼女とキャッキャウフフと幸せに暮らすんだ。
でも待てよ、今の俺はどうだろう。
そんなボーナスステージ、神様が用意してくれるだろうか。
功徳が足りないかもしれない。
財布を開いて残額を確認した。
何故か55555円。
パチンコだったらフィーバーなんだけどな。
まあいい。
この残金を全額アイテムに課金して配りまくって成果物とする。
贈り先は上から25番目の児童養護施設。
クリスマスは25日、これマメな。
名乗り出る勇気はないから、プレゼントは適当に置いてこよう。
そーっと、そーっと忍び込んで、玄関に置いた。
軒下のここなら雨にも濡れないだろう。
そーっと出て行こうとしたら、涙目幼女と目が合った。
「しゃんたサン」
かわええ、何これ。
ご褒美か?
手にしていたうさぎのぬいぐるみを渡してみた。
幼女は涙を引っ込めて、ぱあぁっと100万ルーメン級の笑顔をくれた。
眩しい、目が潰れるわ。
「せんせー、サンタしゃんきたーー」
幼女はうさぎを抱きしめ、とてとてと何処かに先生を呼びに行った。
ぎゃー、もう死ぬので許してください。
バレたくないと焦って施設を飛び出したら、俺はトラックにはねられた。
その瞬間、思い出した。
そうだ。
俺は、とっくに死んでたんだ。
あの幼女は俺の娘だ。
こんな大事な事、どうして忘れてたんだろう。
借金まみれのクズ親父より、マシな親を充てがいたくて電車に飛び込んだのに、まだ施設にいるなんて。
ごめんなぁ、ひとりぼっちは寂しいよなぁ、こんな事なら死ななきゃ良かったよなぁ。
後からあとから後悔が湧いて止まらない。
ああ、神様お願いです。
俺は消えてもいいから、どうかあの子を一人にしないで下さい。
誰かがついていないと、寂しくてすぐ泣くんです。
あの子が泣くのも悲しむのも苦しむのも見たくはない。
お願いします、お願いしますと壊れた機械のように呟き続けて、いつしか意識も消えてしまった。
「もう、お父さん。話、聞いてる?」
これは俺の娘。
血の繋がりはない、特別養子縁組で迎えた子だ。
迎えた時にも大事そうにうさぎのぬいぐるみを抱えていた。
笑うと笑顔が100万ルーメン級で目が死ぬ。
「なろう」のケモ耳っ娘よりドチャクソ可愛い自慢の娘だ。