表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
9/78

ブルドンは無能ではないはず

アリアの様子にダンテは少し戸惑った。


「あの、本当に私が忘れたのが悪いのです。その・・・」

ダンテは迷い少し言葉を探した様子で視線を彷徨わせて、良い言葉を思いついたらしく、またアリアを見た。

「また町でお会いできましたら、今日のように一時ご一緒できれば幸いです。とても楽しく過ごせました。町の事もよく分かりましたから、お会いできて有意義な休日となりました」


「・・・ありがとう」

気遣っての発言だと分かったが、アリアは少しホッとできた。

含まれた思いやりと、探してくれていた事含めての礼を告げたが、短すぎたので言葉を続けた。

「また、お忍びの時に偶然お会いできたら、お菓子を一緒に食べましょうね」


「光栄です。是非」

ダンテが表情を緩めた。嬉しそうだ。

許してもらったようでアリアの表情も緩んだ。


「ダンテさん、本当に有難うございました」

ケーテルも改めて礼を取り、しかし申し訳なさそうに告げた。

「お会いできて助かりました。ただ、もう屋敷に戻らなくてはならず・・・」

「もう夕暮れですからね。えぇ。それでは私もこれで失礼いたします」


ダンテが、アリアもケーテルも、別れのための礼をする。


アリアとケーテルとが再び歩き出す。

少し振り返れば、ダンテはその場で立ち止ったままで、自分たちを見送っていた。

気づいて会釈をしてきたので、アリアも、それに気づいたケーテルも改めて軽い会釈を返した。


***


夕食の時間には間に合った。


父と母と兄に、今日はどうだった、と聞かれた。

皆、朝にアリアが愚図ったことを知っている。滅多になかった事に皆、心配してくれたのだろう。


母親には、町で見つけた可愛い小鳥のハンカチをお土産に買ったことを教えれば、父と兄が寂しそうになった。

次のお忍びの時には、お父様とジェイクお兄様の分も買いますわ、と約束した。


それから、必要な事だと思ったので、町でブルドンの付き人ダンテに会い、大変世話になった事も報告した。

ただ、勝手な振る舞いだと非難がケーテルにいくと嫌なので、アリアが買い出しを頼んだような言い方に変える。


父と母と兄は、ダンテの主であるブルドンとその家を褒めた。

ただ、兄ジェイクは少し心配そうにした。


「アリアは、エドヴァルド様の婚約者なのだから、あまり他の男と約束などしてはいけない」

「ブルドンお兄様の付き人の方でもいけませんの?」


ちなみに、ブルドン本人とは、結構な頻度で会っても一切咎められない。不思議に思うほどに。


「ブルドンを例に出してはいけないよ、アリア。彼はアリアのもう一人の兄のようなものだ。従兄弟なのだからね。ジェイクとアリアに顔を合わせるなと言うはずがない、それと同じだ」

と父が笑う。

「そうですよ。それに、アリアはエドヴァルド様の婚約者ですもの。未来の王族であるアリアと、アドミリード家を継ぐブルドン様は、仲良くしなくてはいけませんわ。この家だけでなく、アドミリード家の発展も必要ですよ。アドミリート家には後継者がブルドン様しかおられないのですもの、お力になって差し上げなくては」

と母も優しく教える。

「僕もブルドンとの交流はたくさんすればいいと思うよ。エドヴァルド様も、アリアにとって、もう一人の兄と同じとご存知だし、ブルドンには手助けが必要だとも理解なさっているからね」

ははは、と兄が楽しそうに笑う。


あれ? もしかして、ブルドンお兄様って、馬鹿だと思われているのかしら?

とアリアは少し瞬いた。

扱いが軽いというか。

少なくとも『助けないといけない』と思われているのは間違いない。


「その、付き人は、駄目ですの?」

「付き人はブルドン本人ではないからだよ」


「まぁ・・・」

それはその通りだが。


ブルドン個人への信頼も絶大なのだろう。

しかし、だからって婚約者のいるアリア相手に、婚約者エドヴァルドよりも頻繁に、しかも2人で会うってかなり変だとは思うのだが。

ひょっとして、アリアの手足となって悪事を働かなくてはならない立場だから、ブルドンとの会合については何か緩い? うーん。


まぁ、ブルドンとは相談し放題なのは今のアリアに嬉しい事だ。


「ブルドン様の付き人には、一緒するよりも、何か御礼の品をお渡しするのが良いかもしれないわね」

と母も言った。

「アリアはとても律儀な子だから、きちんとお礼をしないと心苦しいのだろう」

「はい、そうなのです・・・」


「優しいなぁ、アリアは」

「そうですわね。さすが自慢の娘ですわ。母は嬉しいです」

「もうしてしまった約束なのだ、堅苦しく考えず、本当に偶然会ったなら少し共に過ごすぐらい構わないさ」

「良かったです。ありがとうございます、お父様」


ほっと表情を緩めると、皆がニコニコとアリアを見る。


愛されているなと実感する。

幸せな家族で、幸せに暮らしている。


軽く感激を覚えるほどだ。


***


今日は町を歩きまわったのでいつもより疲れた。入浴もすませてあとは就寝。ぐっすり良く眠れそう。


おやすみなさいませ、と皆が下がってから、アリアはベッドに俯きにころがり、

「うーん」

と零した。今日一日を振り返る。


暗殺される可能性が高い、と今も思う。

ケーテルは暗殺から逃げれば良いと言った。

今日はダンテに迷惑をかけた。お詫び、またお茶の約束を。

ブルドンは味方だ。でも皆からの扱いが軽いような。脇役だから?


未来の事を、ブルドンお兄様と相談したいな、とアリアは思った。


そうだ。ダンテとお茶の約束もしたから、ブルドンお兄様とダンテをあの庶民用の家に招いて・・・駄目、ブルドンお兄様は良いけれど、ダンテはまだあの家に招きたくない。自分の隠れ家だから。


となると、やっぱりダンテとは偶然会った時にお茶かな。今日はとても申し訳ない事をした。


偶然というのは難しそう。アリアのお忍びは突発的だし、ダンテと偶然、同じ日に町にいるなんて。

約束を果たすつもりで、予定を決めた方が実行できる。


となると、ブルドンお兄様は?

アリアとケーテルとダンテが町でお茶をして、ブルドンお兄様だけ仲間外れ?


『私も入れてくれればいいのに・・・』と悲しそうになるブルドンの姿が想像できる。

どうせなら、町でブルドンお兄様と待ち合わせして、ダンテも一緒に。ケーテルも勿論。これで約束は果たせる。


うーん、屋敷で会うのは問題ない。

町で会っても問題ない?

密会とかあらぬ噂にならないのかな・・・?


しかし、ブルドンとアリアが恋に落ちたらどうするのだ。その可能性をなぜ皆思いつかない。

今現在、全くそのつもりはないが、例えば頻繁に会ってそれで愛を育んで駆け落ちとか言い出したらどうするの?


・・・あれ?


アリアは、うつ伏せから仰向けにゴロンと裏返った。天井を見上げる。


例えば、アリアがブルドンに恋をしたら、エドヴァルド様との婚約はどうなるのだろう。


とはいえ、政略結婚の要素もあるから、アリアの恋など意味はない。

だけど、アリアとブルドンが駆け落ちまでしちゃったら?


まぁ、捕まって連れ戻される。

とはいえ、エドヴァルド様との婚約話は消えてなくなるだろう。

家にも不名誉が降り注ぎ、アリアも駆け落ち相手ブルドンも罰も受ける。


「うーん?」


この場合、いくら政略、かつエドヴァルド様がアリアを大好きでも、婚約関係はなくなる。

馬鹿をやらかした相手は王家の相手に相応しくない。


待って。

どうしてこれを今まで考えつかなかったのだろう。婚約を解消する事を。


無理だと思っていた。あれほどアリアが好きだし、家格も釣り合う。年齢も合う。

なにより、乙女ゲームでは、アリアは16 歳のあの日まで婚約者だったから、そこは動かせないと思っていた。


一方で、この世界がアリアを邪魔者として暗殺するのは、エドヴァルド様がアリアの事を好きで婚約関係を取り消すことがヒロインにできないから、だろう。

でも、婚約が無くなっていたら? ヒロインの大きな障害でなくなるはずだ。


とはいえ、普通の手段では婚約は白紙にできない。

政略結婚の要素も含んでいる。


白紙。

例えばエドヴァルド様がもう信じられない素行不良なら、あまりにも無理、と訴えた末に白紙できる可能性がある。

しかし現状エドヴァルド様に原因はない。

ならばアリアが素行不良になるしかない。・・・そういえば、乙女ゲームでは、嫌がらせが目に余る、というアリアの素行不良による、婚約は白紙、身分剥奪、庶民追放なのだった。


うん。

積極的に素行不良をすればいいのでは。

16歳のあの日を迎えるまで保たないほどの。


「うーん」

なら、例えば、積極的に庶民になることをしでかして、あの家に住み、可能なら、この家との関係ものこしていれたら。とても良いのにな。

両親や兄も、この屋敷の皆も大好きだから。


それだ。

アリアは自分で目を丸くし、ベッドから上半身を起こした。


「え、待って」

両頬に手を当てて自分を冷静にさせようとする。


アリアが婚約破棄された場合、この家の被害は?

絶対影響は出る。

ごめんなさい、お父様お母様。ジェイクお兄様、本当に申し訳ありませんが、私の分まで頑張ってくださいませ。

暗殺が本当に無理なのです。死ぬよりは生きている方が親孝行だと思うので、どうか許してください。


そうだ、アリアが婚約を止めた場合、ブルドンにも影響は出る。彼の家は、ブルドンを通して、アリアの王族化に期待している。


でも、アリアもブルドンも殺されるより絶対良いと思う。


それに、ブルドンも前世持ちだ。色々考えて生きていくはず。

つまりアリアに頼らなくても大丈夫だろう。

そもそも、従兄弟にはアリアだけでなく、兄ジェイクもいるのだし。


もし兄ジェイクもブルドンも没落しそうになったら申し訳ないが、そこは二人協力して乗り越えてくれる・・・と信じている。


とはいえ、できるだけ影響が少ない悪事をアリアは働き、婚約白紙に持ち込むべき。


では。どんな不祥事が一番良いだろう。


「うーん」


よし、とりあえず今日は寝よう。睡眠だって必要だ。


明日、ケーテルとブルドンに相談しながら考えよう。


今日のお陰でなんだか元気と希望が見えてきた。




・・・エドヴァルド様、ごめんなさい。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ