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順調のはず

湖の傍の建物で契約した。

その日から住んで良いという事で、宿からすぐに引っ越しをする。なお、護衛の人たちが訪ねてきてくれるよう、宿屋に場所を教えておいた。


さて。その新居。広い。部屋がたくさん。

アリアの実家の屋敷の方が大きいが、向こうは全ての部屋に役割があり、アリアが立ち入る事のない部分も多くあった。だけど、この建物は全て自分たちで管理する。どの部屋も。


掃除が物凄く大変。

結局、使いたい部屋から使って掃除することに。


自動掃除機ロボットみたいなの、欲しいなぁ。とアリアは思った。


ダンテはブルドンの助手だから、アイデアを話せば作ってくれる可能性はある。

とはいえ、優先するべき他のお仕事が多くあるはずだ。


アリアが作れたらいいのにな。でもアリアには魔力がほとんどない。


圧倒的に人の手が足りないことで、色んな希望が溢れ出てくる。


カーテンの枚数も馬鹿みたいに多い。一つの部屋にもたくさんの窓。カーテンを開けるだけで手間がかかる。

自動開閉カーテン、欲しい。センサーで反応するか、ボタンでピッと一度に操作できるの、欲しい。

この世にはまだない気がする。

いや、この国はアリアの母国には無かったものが一杯だ。探せばもうあるかも!?

または事業のアイデアの一つにできる!?

うーん。


夢の道具が欲しくなるアリアがダンテに話してみたところ、どういうものが欲しいか、ダンテや他人が見てもイメージが掴めるように、文や絵で説明したものを書いて欲しい、と頼まれた。


そもそも、ブルドンもアリアに期待をかけていた。アリアに前世の知識があるからだ。

つまり、魔力や魔法の知識が足りなくても、アイデアさえきちんと出せれば、他の人が作ってくれる、はず。


やる気になってきた。

人間、ちょっと不便な方が創意工夫に燃えるのかも。

物作りとか文明って、「あー、これ面倒だなぁ、こうなったら楽ができて便利だなぁ」という怠けたい欲の貢献が大きいと思う。


ところで一方、この建物は郊外にポツンと存在している。つまり移動手段の確保も必要だ。

このため、勧められるまま、小さな空飛ぶ船も購入。

操縦士を雇うのが普通らしいが、ダンテとアリアは、自分で運転してみたかった。あまりに難しいなら諦めるけど。

というわけで、お世話になっている貴族の養女、ルシー様から教えて貰うことに。


ただ、ルシー様とは言葉が通じない事がすぐにわかった。

この国に来るまでにあまり不便でなかったのは、護衛、つまり冒険者たちと一緒だったから。でも、すでに使われている言葉が色々違ったのだ。

ちなみに貴族のおじいさまは、外国語ペラペラ。神様。


予想もしなかった発音も多い。アリアもダンテも、逃げ出す前から語学の勉強を心がけてきたけれど、全然通じない。

でも、生活に必要だ。操縦も会話も頑張ろう。


***


「あっ! ノア! ブルドンお兄様から連絡が来てる!」

アリアは新しい部屋を使うべく掃除中、休憩で立ち寄った居間にて声を上げた。


・・・あれ。近くにいない?


「ノアー!! あなたー!!」


うーん、笛を吹こうかな。大きな建物に二人きりってこういう時も不便。

実家の屋敷なら、使用人たちがたくさんいるので、呼べば人づてで伝わるのに、自分たちしかいないのだ。


アリアは金の腕輪から笛を取り出した。何度もこんな風に困っているので、互いを呼ぶために買ったものだ。

思い切り息を吸い込み、ピ、と音を出しかけたところで、ダンテがひょっこり天井の穴から顔を出した。

「どうした」

「いたの」

「制作で籠ってた。随分探してたらごめん」

「大丈夫、今呼ぼうと思ったところだったから」

「良かった」


ホッと安堵しながら、ダンテが降りてくる。なぜ天井からかというと、階段が遠くて不便なので、ダンテが二階への道を作ったのだ。

それはどうなの、とアリアは思ったし呟いたが、すでに作ってしまわれた後だったのでどうしようもない。


「ブルドンお兄様から、連絡が来ているの」

アリアは緑の板を取り上げてみせた。

「こちらに来るの、数年後にしたって」

「そうか・・・。続きを促そう」

「えぇ」


相変わらず、緑の板を使っての連絡だ。

手紙をすぐに送る魔法があるなら、その方が良いのでは、とアリアはある日気付いたが、この緑の板の方が早いそうだ。

手紙だと人が移動するよりは早いけど、8日ぐらいはかかるらしい。

その8日間、手紙はどこを旅しているのか。アリアには分からない事が多い。だから魔法をよく使えないの? そもそも魔力がほぼないが。


こちらの応答に気づいたらしく、緑の板に次々と文章が現れる。


ケーテルの出産が心配で、やはり自国にいると決めたようだ。

マーガレットがケーテルの出産に立ち会ってくれると言ってくれたと。

うん。確かにそれは安心だ。マーガレットなら、絶対母子とも大丈夫だと信頼できる。


なお、マーガレットやエドヴァルド様、そしてアリアの事はどうなっているのか。

物凄く気にかかるのだけど、聞くのが怖くて未だに聞いていない。

緑の板では短文でのやりとりになって手間だというのもある。もっと、今必要なやりとりをしてしまう。


ただ、むこうは、アリアたちが無事に逃げているのか心配しているので、逃亡時に起こった事をブルドンたちには報告している。


ブルドンたちは、アリアとダンテが何度も死にかけたことを深刻に受け止めている。

どこまでが運命でどこからが不運か分からないけれど、ちょっとした違いで、アリアは多分、ダンテも巻き込み、もう命を落としていたと思う。予想できない事が多かった。


つまり。

ブルドンも予想外の色んなパターンで殺されるのではと、思える事態だったのだ。つまり、一刻も早くブルドンも国外に逃げた方が良い。


とはいえ、やっぱり出産とマーガレットの協力と色々を天秤にかけて、生まれてくるはずの子がある程度育ってから、こちらの国にと決めた様子。マーガレットが特に気にかけてくれているとのことで、それが大きいようだ。


数年後、そちらに行く時は改めて連絡するけど、その時までに環境整理と事業をよろしくね、と書いてある。


ダンテがペンを持ち、返答を書いた。


了解。無事に家族そろってこちらに来てください。


ありがとう。そちらは元気?

と返ってくる。


はい。アリアも元気です。船の運転が上手に。


再会が楽しみだ。

と返事が。


アリアにペンを持たせてもらう。

是非。楽しみにしています。


私も。楽しみです。

と、筆跡が変わった。多分これはケーテルだ。


そんなやりとりを続けて、最後にまたね、と書き合って終わる。


やりとりを終えて、アリアとダンテで顔を見合わせる。

「しばらく、数年? このままね」

「そうだな。それまでにしておきたいことは多いが」


「そうね。あぁでも、本当に話すことができれば良いのに!」

「それなんだが、アリアが作ってみたらどうなんだ? 悪いが、俺にはどうもイメージが掴めない」


一生懸命文章と絵で説明しても、離れた場所に音が来るのが分からないらしい。

なぜ、手紙自体や文字なら遠方に送る技術がもうあるのに、音になると理解できないのだろう。見えないものだから?


「私、魔力が無いし、魔法の知識もないもの・・・」

しょんぼり。

作るとか無理。落ち込んでしまう。


ダンテが、しまった、という気まずい顔になった。

ダンテはなんだかんだ自分でやってしまう人なので、アリアにもできると思いがちだ。

残念。アリアはそういう能力は低いと思う。貴族令嬢だから。普通の事をする能力が育っていない。


ごめん、というとさらに落ち込むと学習済みのダンテが困っている。


アリアは呟いた。

「私にできるのって、ぬいぐるみとか、刺繍とかだもの・・・」

「そうだな、そういえば、それを売って暮らしたいと、言っていたもんな!」

ダンテが無理して励ましている。


ちなみに、それは、自国で遊んでいた町にて暮らすイメージがあったからだ。

ぬいぐるみを作って、ショーウィンドゥに飾っておく。それを見つけた人が、これを下さい、と嬉しそうに店に入ってくる。そんな暮らしをしたかった。

しかし、現実は違った。

いや、全く不満はない。恵まれている。そもそも生きていて、ダンテが傍にいてくれる。しかも結婚おめでとう。幸せだ。


ただ。他国が、アリアの想定した暮らしと全然違っていた。

湖の傍の大きなお家。窓にぬいぐるみを飾っても、見てくれる通行人はいない。

ちなみにそう気づいたのは、この家に引っ越して15日ほど経ってからだった。我ながら計画が甘すぎる。


「・・・アリア。気分転換にぬいぐるみを作ったらどうだ」

ダンテが困って提案してきた。アリアが落ち込んでいるのを察しているせいだ。


「環境が整えば、金持ちがやってくる。その時には女性や子どもに贈り物をと考える人間もいるはずだ。その時にぬいぐるみを見せれば良い。今から作っておくので良いと思うぞ?」

「優しい・・・」

「あなたが落ち込んでいる方が辛い」

「本当に、お掃除とか手を抜いて、ぬいぐるみ作っても良い?」

「・・・ぬいぐるみを陳列するための部屋を決めて、それを掃除しつつぬいぐるみを作るのはどうだ」


あっ! それ、やる気が出る提案ね!


アリアの顔がパァと明るくなったのを見て取ったダンテがホッとしたように嬉しそうに笑った。


「今掃除している部屋でも良いし、別の部屋でも良いから」

「えぇ! ありがとう!」

「どういたしまして、愛しの奥様」

「感謝します、愛しのあなた」


アリアの返事にダンテが照れた。

「作業に戻る」

と、踏み台を登ってジャンプして、天井の穴から二階に戻っていった。

あれ、本当にどうなの。と見るたびに思うが、まぁ良い。


るんるん、と鼻歌を歌いつつ、アリアは掃除に戻る事にした。


ぬいぐるみ、何作ろうかなー。

あっ、ダンテ人形作っても良いかも。記念に。そういえば中に大事なものをいれるっていう案もあったんだった。


「・・・」

アリアはここに来る前の自分の発想を思い返した。


それから、ふと自分の荷物の中も思い返した。


そういえば。

アリアは、金の腕輪から、陶器の人形を取り出した。


じっと見つめる。

自国の町で、ダンテに買って、でも父に家ごと没収されて手放したもの。再び買い取ったもの。

ダンテが、幼少期に大事にしていたもの。恐らく、間違いなく。


ダンテは、アリアの持ち物を一覧で全て見たから、内容を把握している。

なのにこの陶器の人形について、一度も口に出してきたことが無い。


「・・・お部屋を整えて、これを置きたいな。きれいに掃除して、置いて、ノアに見せるの。ノアの部屋よって」

アリアは陶器の人形に話しかけた。


うん。掃除、頑張ろう。

それで、この人形を置いてダンテに喜んでもらえたら。


落ち着いた時に、ダンテに見せようと思っていたのだ。


うん、それをしてから、ぬいぐるみにも取り掛かろう。

旅は思いがけない事ばかりで、そういえば、自国で夢を見ていた事を忘れていた気がする。


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