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決める時のはず

それからは、護衛もいるお陰もあって、無事に順調に旅を続けた。

走竜のハイルともすっかり仲良しだ。


途中途中で、ブルドンから託されている魔法の紙も置いていくのも忘れない。

なお、用紙の枚数が心配になってダンテに相談したところ、目的地までの町を数えてくれ、足りるように計算して紙を置いていくことになった。


大きな町、何らかで有名な町に立ち寄った時は、旅慣れている護衛たちが町の案内までしてくれた。

アリアたちが喜ぶのを見てニコニコデレデレしている。ちょっと苦笑してしまうほど。でもとても親切で良い人たちだ。


ついに目的地、ドルド国のカトランテという町にたどり着いた。

嬉しい一方、3ヶ月も一緒に旅をした護衛や走竜たちとお別れだという事実にものすごく寂しく悲しくなる。

彼らはさらに移動をする。アリアたちの目的地は彼らにとって中継地点の一つなのだ。


最後の日に彼らオススメの宿に泊まる。

アリアは一緒にお酒を飲んで泣きだした。ダンテが困っている。途中でお酒の入ったコップを取り上げられた。代わりにお茶の入ったコップを渡される。

ぐずぐず涙を落としながらそれを飲んだ。

護衛たちはそんなアリアを見て嬉しそうに笑う。


宿の部屋で、今までの費用をまとめて払う。

良い客だった、とリーダーに礼を言われた。


この町に立ち寄ったら尋ねてきて、とアリアが頼むと、嬉しそうだ。

約束する、と言ってもらう。


翌朝、宿から旅立つ彼らを見送った。走竜たち、特にずっとアリアたちを乗せてくれたハイルにも別れを告げる。


ダンテだって寂しそうだ。

それでも苦笑しつつアリアの手を引く。リーダーに教えて貰ったという料理屋に昼食をとりに向かった。


ものすごく美味しかった。一気に機嫌が上昇した。

何これ美味しい。ものすごく美味しい。


気分を切り替え、午後。

いよいよ、ブルドンが手配していた仕事相手を訪問する。

アリアも泣いているばかりではいけない。化粧水を使って化粧も施して頑張って着飾る。


ダンテがアリアの髪を三つ編みの上で後ろでクルリと一つにまとめてくれる。旅の間にダンテがアリアのために習得した。


ダンテも緊張している。

「おかしくないか?」

「大丈夫よ。似合ってる」


「冗談だろ」

ダンテが途方に暮れた顔をしてアリアを見る。

「大丈夫よ。本当に」

クスクスと笑うと、どこか安心したようだ。


会うのは、この国の貴族の一人。ブルドンがこまめに連絡を取って仲良くなったという、ブルドンの事業の協力者だ。


***


驚くほどに優しい、線の細いおじいさまだった。

「あぁ、聞いているよ、長旅お疲れ様」

ゆっくりした動きでダンテとアリアをもてなしてくれる。

それから胸元から取り出した鈴を鳴らすと、ポワン、と大きな丸いものが宙に柔らかく現れた。


「頼まれて3つ候補を絞ってあるよ。好きなところはどこだろうね」

老人が大きな丸いものに触れるように促してくる。老人にならって大きな丸いものに触れると視界が変わった。

え? 室内? じゃないよね?


「移動の小型船だよ。金持ちは普通に持っておるので、きみたちも1つは買うと良い。まぁ、先に物件だ」

おじいさまが鈴を振ると、眼鏡をかけた女性が突然この空間に現れた。

アリアたちに笑み、胡坐をかいて座り、何か道具を取り出した。

「運転手だよ。わしの養女だ。ルシーだよ」


あれ、なんだか色々、今までの国々とも違う、とアリアは思った。


さすが、ブルドンお兄様が行ってみたいと選んだ国。


***


移動手段などが度肝を抜く程進んでいる一方で、建物はどこか古めかしい。

新しいものと古いものが両立する国のようだ。


「ここはどうだろうかと。郊外にあるが、きみたちの商売相手は金持ちだから船を持っていて当然だからね」

アリアは驚いた。

家というより城の作りだ。いや、城というには小さいのだが。


「中の家具もそのまま使える。あまりに古いものは倉庫にしまってくれるといい。邪魔なら売る事も考えるので言ってくれると良い」


「どう思う」

とダンテが聞いてきた。

「思っていたより大きいので驚いているわ」

「あなたの屋敷よりは小さいが」

「だけど、もっと、町の家ぐらいだと思っていたから」

「確かに」


こんな会話を、おじいさまは気にせず、とりあえず次も見せよう、と移動を指示した。


結局、次の2つとも、全て家というより城のレベルだった。

違いがあるとすれば、建てられているところが、平野か、山か、湖の傍か。


「さて。ではどこにするか決めたら連絡してくれ」

おじいさまから鈴を渡された。

これを鳴らせば、運転手で養女のルシーさんが、船でお迎えに来てくれるそうだ。


「・・・アリア。俺、船を運転できるようになっておくべきだと、思った」

「まぁ。そうね・・・?」


***


宿屋に戻って、真面目に相談する。

なお、物件選びについては、元からダンテに任されているそうだ。

どうしても現物を見ないと分からないから。というブルドンの判断だ。さすが。

なお、費用もブルドンが出す。


「とはいえ、俺とあなたの家になるんだが」


ブルドンたちは、ケーテルの出産の事もあって、旅立ち時期を迷っている。

いつかは合流と決めているが、数年後になる可能性もまだある。

そして、先に住んで準備を、という指示ではあるが、いざブルドンとケーテルが来た時には、彼らは彼らで新居を買うつもりらしい。


「大きな建物だから、立地条件か、直感しかない気がするわ。あなたはどこが気に入ったの?」

「予想外過ぎて、本当にどこでも構わない。ただ、湖の傍は嫌だ」


「まぁ。じゃあ2択ね。でも湖は景色が良さそうなのに。平地か山かぁ。山はちょっと、操縦の下手な空飛ぶ船とか、木にぶつからないのかしらって、変な心配をしちゃうわ」

「湖が良いのか? アリアは」

「景色が良いなって。魚釣りとか、湖に本当の船も出せるから。それだけよ」

「・・・」

「平地は平地で、あれだけしか見て無かったら十分素敵だわ」

「分かった。湖にしよう」


「・・・眉間にシワが入っているわ、ノア」

アリアはダンテの眉間を指でつついた。

「あなたのお仕事のお話だもの。あなたが選ぶ場所で良いのよ」

「でもあなたと住む家だ。家について、迷う場合は女性の意見を優先しろと、昔に親が俺たちに言い聞かせたことがある」

「まぁ・・・」

ダンテが家族について話そうとしている。アリアは内心酷く驚いた。


「母親とケンカしたんだ。父が。母が部屋を怒って出て行き、残されたのは男ばかりで、父が、男3人の子に、言い聞かせた」

ダンテが苦笑した。

なんだかお父様の情けないお話みたいだけど、でも仲が良かった雰囲気、とアリアは思った。


「そうなの。でも私は本当に、湖の傍で無くて良いのよ。正直に言ってしまっただけで」


ダンテが真顔で頷いた。

「そういうのを、女は忘れないから気をつけろと」

「まぁ」

ダンテがあまりに真剣な様子で、アリアは可笑しくなった。思わずクスクス笑ってしまう。


「じゃあ、湖の傍にしてくれるの? 湖はどうして嫌なの?」

「寒いのと虫が多いのと暑いのと」

「山も寒そうだし虫は多そうだけど・・・」


「・・・大丈夫だ。そういった日常のあれこれを良くするものを作るのが俺たちの仕事だ。うん、湖だ」

「自分に言い聞かせている雰囲気。本当に良いの?」

心配になって尋ねるが、ダンテは意見を変えない様子だ。

「あぁ」

ダンテが深く眉間にシワを刻んだまま頷くので、アリアも頷いた。


「あなたが納得するなら、湖なら嬉しい。湖に船を浮かべて遊んでみたかったの」

「決まりだ」


ダンテが早速ブルドンに決断を報告するようだ。緑の板を取り出して文字を書いている。


「2人で住むには大きすぎるわね」

「そうだな」

「護衛とか使用人が必要になるかも」

アリアの言葉に、ダンテが苦笑した。


「今朝の別れを思い出したのか?」

「えぇ」

「良い護衛だったな、全員。冒険者が本来だから、町に留まってくれないタイプだったが」


思い出して寂しさに黙ったアリアをダンテが苦笑して引き寄せた。


「元気を出せ」

「今日は仕方ないと思うの」

「確かにそういう日もあるけどな。でもやっと目的地についた。これからだ。祝いの日だと思う」

「そうね。確かに」


「・・・前に、俺の誕生日について、言ってくれたことがあったの、覚えてるか?」

笑みながら探りを入れてくるダンテに、アリアは、これは今思い出さなければ不味い話題だと真顔になった。


誕生日。

ダンテの誕生日。


思い出した!


「自分の誕生日が思い出すのが嫌だから忘れたって、あなたは言ったわ」

「あぁ。それで」

「・・・良い日を、ダンテの誕生日にしましょって言ったと思う。決めたら教えてって言ったはず」

「あぁ。今日、俺の誕生日にしようかな」

「・・・ノア。やっぱり自分の誕生日は思い出したくないの? 名前は、本当のものに戻したのに」

「多分無理だ。永遠に忘れて、消し去りたい」


「そう・・・ごめんなさい」

「違う。今日は祝いの日だから良い日だと、言いたいんだ」

「・・・そう」

アリアは笑って見せた。

「あぁ」

ダンテも目を伏せて笑った。


なんだか少し暗くしてしまった。

せっかく誕生日、祝いの日だってダンテが言ったのに。


「・・・ねぇ、ノア。旦那様」

「なんだ」

アリアは恥ずかしくなって俯きつつも上目遣いでダンテを見た。


「じゃあ、その、今日、夫婦になりましょ?」

「・・・」

ダンテの動きが止まった。

「駄目?」


ダンテが真顔でジッと見ている。なんだか居たたまれなくなってきた。

「・・・良い」

とダンテがやっと反応した。頷きも見せてきた。

白い結婚じゃなくて、という意味が通じたようだ。


「ただ、な。あの、だな」

「えぇ」

妙にダンテが緊張している。ゴクリ、と喉が動くのを見つめてしまう。


「その、真面目な話、親から、父親だが、それを言えば、祖父もだが」

「・・・?」

「17歳までは手を出すなと」

「・・・」

「大事な相手ほど、成長を待てと。身体に負担があって、出産も、死ぬ事も多いと」

「・・・」

ダンテがすごく真剣。赤いけど。


「待つの?」

アリアは聞いてみた。あと、1年ちょっと?


ダンテが、眉間に深い皺を刻んだ。

本気で悩んでいるらしい。


「大事なんだ」

知ってる。アリアは頷きを返した。


ダンテが顔に手を伸ばしてきた。

「だけど・・・。少し」


「はい」

とアリアは答えた。


なんだか、あまり甘い雰囲気でないような。むしろ緊迫している。

これが自分たちなのか。ドキドキするけど。


アリアを抱きしめて、ダンテが、

「よし」

と呟いた。アリアも

「はい」

と呟いた。


急にダンテがおかしそうに笑うので、アリアもつられて笑ってしまった。

このあと、結構甘い雰囲気になった。

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