護衛がいるはず
その日は神殿に泊まる。
ところで、結婚の届けも2回出したわけだが、一方でキス以上はない。いわゆる白い結婚状態?
でも愛はある。とアリアは思う。
そもそも、逃げ出してから常に必死だ。甘い雰囲気になること自体が少ない気がする。
なお、ダンテ、改めノアの方は、やっぱり呪い騒動で疲れ果てているようだ。あっという間に眠っている。
しっかり休んで欲しい。旅は続くから。
翌朝。
呪いは大丈夫、と神官に太鼓判を押してもらった。
寄付金も、との事なので、治療代、法具代、寄付をまとめて払う。
相場がイマイチ分からないので、神官の言う通りに。とはいえ皆もの凄くニコニコしているので、気前のいい支払いになっている気がアリアにはする。
でも全然平気。大丈夫。アリアの懐にはまだまだ余裕がある。
むしろダンテを治してくださって本当に有難う、あ、ダンテじゃなくてノアだった。
なんだか名前を本名に戻してから、ダンテ、じゃなくてノアがやたら素直な笑顔を見せる。
それだけ嬉しいのかもしれない。
アリアも嬉しくなれるので幸せだ。
一緒に手を繋いで長い神殿からの階段を降り、世話になった宿屋に戻る。
神殿での様子を話し、結婚の届けもきちんと出したと告げたので、宿の人たちと偶然そこにいた宿泊客から祝いの言葉を貰った。
きれいな可愛いお嫁さんだ、攫われないように注意しなよ、と誰かが言った。
旅の間はフードをしっかり被った方が良いね、とおかみさんも同調する。
見るからに別格だからなぁ、と言われて困惑したが、確かにそうかもしれない、とアリアも思った。
国を出たとはいえ、ゲームにおける主要登場人物と、その他大勢の差は大きい。
ダンテは暗い過去があるのにその他大勢。ブルドンでさえ、その他大勢の扱いだ。
自分で言うのもあれだが、事実として、存在感が違うと思う。
エドヴァルド様、兄ジェイク、マーガレット、他の攻略対象者の方々は、別格で、いるだけで大勢が注目する。そういう世界。
つまり、アリアも目立っている。
その証拠に、町を歩いただけで、皆がアリアに注目した。
自己意識過剰では無いと思う。
無料でリンゴをもらっちゃったり、リボンなんかも貰っちゃったりした。アリアもつい受け取った。だって、その方が喜んでくれると分かるから・・・。
「2人で旅って危険だよ」
すっかりお世話になっている宿屋の青年も、酷くアリアたちを心配している。
そして、何か思いついたらしい。
パァと顔を輝かせた。
「冒険者に護衛を頼むと良いよ! 俺、人を見る目あるから、面接とか協力してあげるよ!」
「おぉ、それが良いな、そうしろ、新婚夫婦!」
周りもドッと賛成した。
「護衛? 逆に心配だが」
とダンテ改めノアが眉をしかめる。
「兄ちゃん、この宿屋の兄ちゃんの審美眼に任せておけよ、たくさんの人間見て来てるんだから。あんたらだってこの兄ちゃんの目に叶ってここにいるんだぜ」
ダンテがアリアに視線で、どうしよう困ったぞ、と訴えかけてくるようだ。
アリアは少し首を傾げて考えた。
ちなみにその仕草だけで周囲が、可愛いなぁ、とうっとりアリアに見惚れている。良いんだけど。
「あの、やはりあなたの負担が大きいと思うの」
ちなみに、この宿屋では『あなた』呼びにした。すでに、ダンテダンテと呼びまくっていたので、ノアと呼び替えるとややこしい。
むしろずっと『あなた』で良いかも?
「夜だってちゃんと眠れないでしょう? 信用できる護衛の人が雇えるならその方が良いわ。強盗だって大勢いたもの。無事に逃げて来られたのは純粋に幸運だったと思うの」
呪われたけど、でもあれだけ多くに助けてもらったからだ。
「・・・だけど」
「護衛の人、雇いましょう? 私とあなたと、宿の人に見てもらって安心だったら、大丈夫だと信じられるもの」
「そうする方が良いよ。絶対」
宿の青年が力強く同調してきた。
ダンテは迷惑そうに青年を見たが、アリアの視線に天を仰ぐようになった。
ダンテも、自分だけでは限界があると分かるはず。
「・・・分かった。相場などを教えてほしい。あと、人選も」
「良いよ!」
ニッコリと宿屋の青年が笑う。協力の決定だった。
***
護衛は、その日のうちに決まった。
丁度、目的地方向に行く冒険者たちがこの町にいたのだ。
そもそも、アリアが可愛くて町で話題になっていたところに、護衛募集の張り紙が出されて、それも町の話題になった。
あっという間に自薦であふれ、募集窓口である冒険者ギルドが激込みになった。
あまりの集中ぶりに困ったギルドが、安心して頼める腕の立つ冒険者に話を持って行った。ギルド長とも仲が良いそうだ。
5人組だ。
皆それぞれしっかりした人たちに見える。アリアから見て信頼できそう。
ダンテも、まぁ、大丈夫だろう、と頷いた。
宿屋の青年も、このパーティなら文句が無いね、と笑っていた。
じゃあ、決まりだ。
とはいえこの5人、存在感がある。只者ではないというか。
うーん。乙女ゲームではない別の主役たち、みたいな。
そんなことあるの? 別の世界に入った?
もう良く分からない。
考えないで良いだろう。
だってアリアには乙女ゲームで死亡率が高い以外の事は問題ないはずだ。
「この仕事がなければ今日発つつもりでいたんだが、出発の予定は?」
と護衛のリーダーが確認してきた。
「今日はもう遅いので、明日?」
アリアが答えながらダンテを伺うと、ダンテが、
「あぁ。明日でも構わないか?」
と確認する。
「問題ない」
「分かった。報酬は後払いで本当に良いんだな」
「あぁ。先払いなんて聞いたこと無いぞ」
とリーダーに笑われる。親切そう。
こうして、明日出発になった。
***
また長旅だ。睡眠もしっかりして備えた翌朝。
宿には、今日までの礼を告げ、大目に支払いをした。
また立ち寄ってねと言ってもらう。本当にいい宿だった。
店の外まで出て手を振ってくれる。手を振り返して笑顔で別れ、護衛たちとの集合の場所へ向かう。
行ってみて驚いた。
大きなトカゲ、いや、恐竜? そんなものに、護衛たちが乗っている。
そして無人のも2頭いる。
え。まさか。
「おはよう。体調に問題はないか? 呪いの影響は?」
「体調は問題ない。それより、これは何だ。まさか、これに乗る?」
「あぁ。走竜だ。初めてか?」
「あぁ」
「南の方では馬よりこっちだ。寒さに弱いのは欠点だが、防寒具をつけてやれば結構いける。何より早い」
まさか乗るの。やっぱり乗るの。
アリアが言葉なく巨大トカゲ的なイキモノを見つめていると、護衛たちが楽しそうに笑った。
「お姫様、どの護衛と乗りますか?」
「アリアは俺と一緒に乗る」
ダンテのムッとした返答に、ヒュウ、と誰かが口笛を吹いた。
「そりゃそうだ。少し乗る練習が必要だが」
「1頭に2人乗っても大丈夫か?」
ダンテが疑わしそうだ。
「全く問題ないですよ。一人でもっと重い冒険者も軽々運びますんでね。ハイル、来い。お前がこの2人の担当だぞ」
グルルル、と爬虫類的な瞳が光り、喉が鳴った。
「アリア、大丈夫か?」
「1人でないなら大丈夫・・・。あなたは?」
「慣れれば問題ないと思うが・・・」
ノッシノッシ、とアリアたちの前に1匹が歩いてきて、乗れよホラ、と、屈んで背中を見せてきた。かなり躾けられている。
「お言葉に甘えて・・・どう乗れば良いの?」
「まず旦那から乗って。馬に乗ったことは?」
「2人ともある。妻は横乗りだが」
指導を受けつつ、大きな生き物の背の鞍に乗る。2人が横に並べる形だった。
乗ってしまえば安定している。できるだけ2人で中央に寄るように、鞍をしっかりつかむようにと指導が入った。
「ハイル、立て。よしよし、では少し散歩だ」
リーダーが、ダンテではなく、ハイルという名前らしい走竜に直接命令している。
ノシノシ、と歩竜が歩く。
「少し走って、戻ってこい」
ギャ、と鳴き声を上げて、走り出した。
すごい、速さ。でも不思議な事に、あまり揺れない。
途中で折り返してリーダーのところに戻った時に、
「大丈夫そうですね」
とリーダーに言われた。
「この、ハイルがとても賢いのね」
「そうです。命令をきちんと聞く」
「それに、乗り心地がとても良いわ」
「鞍も改良されていますからね」
「魔法の鞍なのか?」
「そうですよ」
すごい、とダンテが静かに興奮している。
ダンテもブルドンのところで道具を作るので、新しいものを知って嬉しいみたい。
「もし万が一があっても、俺たちがフォローします。転げたら回収もする」
「分かったわ。よろしくお願いね」
「やる気が出るなぁー! おい!」
リーダーが途端にフニャリとした笑顔になり、周りに声をかけた。
「よろしくー!」
と皆が大声で言ったのでアリアもダンテも驚いた。
強盗とか、本当に大丈夫そう、とアリアは思った。
***
走竜での移動は、驚くほど速く、魔法の鞍のお陰で驚くほど快適だった。
なんだか自動車みたい。見た目は全然違うけど、動きの滑らかさというか。とアリアは思う。
ダンテは初めは人見知りのように警戒を見せていたが、すっかり護衛たちと打ち解け、そればかりか走竜を気に入り、鞍や他の道具について興味を持って、護衛たちと色んな情報や話題を交換している。
名前と事情も打ち明けた。
この先、完全にノアに切り替えておくべき。その判断があったとはいえ、性格が変わった気さえ、アリアにはする。
基本、他人を疑うのがダンテだ。でもノアに戻ってから、心を開き出している感じ。
それだけ、色んな人に助けてもらっていると実感する旅だからかな。
護衛たちはあの町にも口裏合わせを頼むべきではと心配してくれた。
ダンテが病に倒れ、ノアは別の人間であるかのように。
またあの町に行った時、うまく話してきてやると言ってくれた。
一方、アリアの方は、話すと皆明らかに嬉しそうだ。でも向こうから積極的な交流はしてこない。
ダンテに気を遣っている感じ。新婚だから?
基本的に野宿。が、このメンバーなので不安を感じない。
ダンテも、アリア特注のテントに入って、アリアにボソリと打ち明けた。
「護衛、雇って本当に良かった」
「そうね。あなたもきちんと眠れるもの」
「あぁ。俺だけでは無理だったと、実感する。2人旅だと覚悟していたが」
ダンテが苦笑する。
「でも物凄くノアを頼っているのよ」
「あぁ」
嬉しそうだ。
やっぱり、素直。
それとも気を許してくれている。
「目的地は遠いが、着いたら解散というのがすでに寂しい」
「そうね。立ち寄ってもらえるようにしたいわね。あの宿屋さんみたいに」
「そうだな」
キスをして眠りにつく。仲の良い兄妹みたい。
アリアはふと兄の事を思い出した。
こんな風には過ごさなかったけれど。
まだ1ヶ月も経っていないけれど、どうしているのかしら。




