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皆のお陰のはず

「私、刺されて・・・殺されかけましたのね」

「骨折も複数あったわ」

「マーガレットさん。助けてくださったのですね。有難うございます」

「皆が力を合わせてね。あと、恋人のダンテさんも褒めてあげなきゃ。アリア様?」

マーガレットがいつもより優しい柔らかな雰囲気で笑う。


言葉を受けてアリアは、兄に遠慮したのか、最も離れた場所でアリアを見ているダンテを見つめた。

アリアの視線に気づいて、ダンテは無言のまま笑みを見せた。


マーガレットがアリアの頭を撫でた。

「じゃあ、アリア様も回復したから、これで私たちも帰らなくちゃ。ジェイク様」

「そうだな。アリア。そこの彼と一緒に、無事に生きろよ。兄として妹の幸せを願っている」

「マーガレットさん、ジェイクお兄様・・・」


「これから大変になる。エドヴァルド様も襲撃を受けた。マーガレット嬢が治療して一命は取り留めた。アリア、お前は死んだ。・・・そのつもりだったのだろう。すぐ工作をしてここを離れろ。まさか狙われるとは思っていなかったが」

兄が説明のように話してくれるが、アリアには状況がよく分からない。


「もう夜なんだ。マーガレット嬢も僕も抜け出してアリアを助けに来た。アリアも助けられた。すぐ戻らなければならない。本当にお別れだ、アリア」


助けてもらったのだという事は良く分かった。


「ジェイクお兄様。マーガレットさん。助けてくださって本当にありがとうございました」

「あぁ」

兄が優し気にアリアの腕をとり、じっとアリアを眺めて頭を柔らかく撫でた。

なんだかお別れだと急に実感がこみあげてきて、アリアの目が涙で潤んでしまう。


「可愛い自慢の妹だった。エドヴァルド様に対する切り札だったよ」

「まぁ。ジェイクお兄様も、優秀で、私にとても甘くて優しいお兄様でしたわ」

「家の事は任せろ」

「はい」


兄との挨拶を終え、兄がマーガレットを見やる。マーガレットがアリアに笑った。

「じゃあお元気で、アリア様。たくさん遊んでもらって、楽しかったですわ?」

「私も、とてもマーガレットさんに助けていただきました。町でもたくさん付き合っていただいてありがとうございます」

「エドヴァルド様の事も任せてくださいね。それで、エドヴァルド様の事なんてきれいさっぱり忘れてください」


あ、エドヴァルド様には、忘れないでと頼まれたのだけど、どうしよう。

アリアは無言で瞬いてしまった。


「じゃあダンテ、頑張って生きてね」

「妹をよろしく頼む」

マーガレットと兄が控えるようにして立っているダンテに声をかけて離れていく。

「ありがとう、ございます」

ダンテが固い声で、礼を取る。兄がダンテの腕を少し叩いた。励まし?


アリアは兄とマーガレットの後を思わずついていく。

ダンテもアリアに並ぶように一緒に来た。


外。たしかに洞窟だ。寒い。星が近くに見える。山の中?

すぐ傍に馬が2頭いる。


兄が馬を撫でる。道がほのかに光る。きっと魔法? 兄も優秀だから。


兄とマーガレットの2人共がそれぞれ馬に乗って、アリアと無言で見つめ合う。

そして、無言のまま去っていった。


「洞窟に戻りましょう。一刻も早く死体を用意して、発ちましょう」

「えぇ」

ダンテが声を出した。

アリアはじっと見上げた。

ダンテもじっと見つめ返してくる。


少しの後、ダンテが少し表情を和らげた。

「互いに、無事生きていますね」

「そうね」


無事とは言い難いけど、結果としてきちんと。

心配をものすごくかけたのだろうな、と思って苦笑してしまったアリアを、ダンテが抱きしめてきた。


少し、しばらくそのままじっとしていた。互いに無言だ。

ぎゅっと抱きしめあう。思う事が多すぎる。


***


「空腹ではありませんか」

「大丈夫そう」

「そうですか。でも簡単に食べましょう。もう深夜だ」

「えぇ。でも質問の意味が」

アリアが思わず苦笑すると、ダンテも笑った。

「聞いてみただけです」

「口調、使用人みたい」

「・・・あぁ」


少し互いにぎこちない? なんだか会話も手探りだ。


ダンテが洞窟に置いていたらしい袋から鍋を取り出し、手早く湯を沸かす。


「あっという間」

「俺も色々作っていましたしね。俺以外にも店で働いているのがたくさんいたので、良くできている欲しいものは買い取りました」

「まぁ。すごい」

「これも買い取った道具です。大勢がいるから、色んな便利さが」

「まぁー」

「アリア様、俺の差し上げたジャーキーください」

「え、あるわ。はい」

アリアが金の腕輪から取り出して、差し出す。

「一つここに入れて」

「はい」


グツグツ、と煮える音がする。

そうしてからアリアは不思議に思った。ダンテが、アリアがジャーキーを持っていて当然と思ったことを。


一方、

「それから、俺は料理を見ているので、奥で着替えてきて下さい。俺もここで着替えます。集めたあなたの抜け毛も出して」

「えぇ」

相変わらず、抜け毛って言うのね。


指示のままに、奥で着替えをする。

脱いでみれば酷さが分かった。血と土でドロドロ、穴も開いているし裂けていたり千切れていたり。

全てを着替える事にする。


ゴソゴソしていたら、足元に動く気配を感じてアリアは短い悲鳴を上げた。


「どうした!」

ダンテが慌てて駆けつけてくるのを急いで制する。まだ着替えの途中!


「まって! あ、お肉が、動いてるの!」

「・・・あぁ」


ダンテが明らかにホッとして、それから慌てたように視線を逸らす。

まだ衣服を揃えていない状態だ。


奥は暗いから大丈夫・・・アリアは自分に念じるようにして、今の瞬間を無かった事にした。


いや、それにしても。

アリアは急いで金の腕輪からの新しい衣服に着替えてから、ダンテに声をかけた。

「この、動いているお肉は何?」

「着替え終わりましたか」

ダンテが鍋を向いたまま。固い声だ。


「終わりました・・・」


ダンテが気まずそうに視線を逸らせる。

アリアも気まずい。絶対話題にしないでおこう。

ちなみにダンテもボロボロで血で汚れていた服から着替え終わっている。


「肉ですが」

「えぇ」

「あなたの死体です」

「動いているわ」


「それなのですが。本当に肉の塊なのですが、中に・・・前に、小さい時にアリア様が連れ込まれた場所の、黒い人間の影みたいなヤツら」

「え?」

「あいつらが、協力してくれて、肉の中に入っているんです」

「どういうこと?」


「色々あって、医者の協力とアドバイスもあって、肉の塊を持ってあの場所にいって、黒い人間たちに事情を話して、協力を呼びかけたら、5体ぐらいかな、寄ってきて肉の中に入って。それで動くようになりました」

「・・・良く分からないわ。でも物凄いことね」


「そうですね。戦闘中も活躍してくれました」

「まぁ」

「とにかく色々助けられました。あなたが心配だったらしくて、順番に外にいって肉を冷やしては、額に張り付いていましたし・・・。・・・で、今は肉の塊がバラバラですが、人間の形にまとまってもらって、谷に落ちてもらいます。あなたの服を着せて」

「まぁ。中の人たちは大丈夫なの?」


「分かりません。でもその話で協力してくれたのが入っているんです。医者がいうには、新しい体として中に入れるのだろうと」

「・・・」

「俺は事実を言っているのですが、普通じゃないなとは思います」

「そうね。でも有難う。助けてもらっているのね」

「はい」


ダンテが呼びかけると、肉の塊がダンテの元に集まった。

ダンテが手順を説明している。

肉たちは大人しく聞いている。そして人の形に集まった。


アリアは、肉に自分の着ていたものを装着した。

なお、あまりにアリアの負傷が激しく、衣服全ての状態が違うので、先に用意していたものは片付けた。


そしてアリアが髪の毛の束を取り出すと、肉自らが受けて取り、頭部につける。

こうやってつけられてしまうと、全く足りない。


「ダンテ、髪の毛切ってくれる?」

「嫌だ」


まさかの返答。

アリアが驚くと、ダンテは固い顔をしている。


「嫌だ」

「二度も。でも必要だと思うの。全然足りないもの」

「少しだけにしよう」

「少しじゃ足りないわ」

「無理なんだ。頼む」

「え、でも邪魔にもなるし。どうしたら良いの? 絶対に切っちゃダメ?」


アリアは自分の長い髪を掴んでまとめて、眺めてみた。

絶対、これから暮らすには長すぎる。

ちなみに血でべったりしているが今は気にする時ではない。


肉が動いて、アリアの髪、中ほどを肉でペチペチと叩いた。


「このあたりで切るのでいかが、ってお肉も言っているみたい」

奇妙な光景だが、アリアに協力的な雰囲気がある。


「・・・ねぇ、ダンテ、このあたりではどう?」

ダンテはあまりに短髪だと嫌だと言っていた。背中の中ほどで切るのなら大丈夫?


「分かりました・・・」

ダンテが苦しそうながら了承する。

「なにか、嫌な思い出があるの?」

「はい。母が」

「・・・」

何かあるらしい。なら、慎重にするしかないとアリアは思った。


「この長さならまだ大丈夫? 私が切るので良い?」

「切るなら俺がします。アリア様では」

「でも大丈夫?」

「この長さなら」

「じゃあ、ごめんなさい、ダンテにお願いするわ」

「・・・俺の問題で俺が悪いんです」

「動きにくいから、切ってくれると助かるのよ」

「はい」


ダンテにそっとハサミを渡す。

ダンテが無言で、アリアの示す中ほどにハサミを入れて、髪を切る。

血で濡れている髪がベソベソと落ちていく。

それを肉が自分の肉にペタペタ張り付けるようにして拾い、頭部につけていく。シュール。


あれ。ダンテが鼻をすすりだした。やっぱり辛そう。

詳しくを知らないけど、きっとダンテにはトラウマがある。

「大丈夫よ」

と言い聞かせる事しかできない。


それほど時間はかからず、ダンテは髪の長さを変えてくれた。

「落ち着いたら、もう少しきれいに」

「えぇ」

心配になったので、ダンテを振り向き、擦り寄ってみる。


「待ってください。大丈夫。先ほども色々で、今は節度を保ちたい」

「えっ」

泣いているくせに、そんな事を言うの!?


「照れるので」

「まぁ」

頷いて見せて、笑ってみる。落ち着いてくれると良い。


そんな話をしているうちに、肉の頭部に髪の毛がついた。全体的に短い髪だ。ごく一部だけ長い。


「谷から落ちて貰って良いか?」

ダンテが少し心配そうに尋ねると、肉が頷くような仕草をする。

ちなみに、アリアの服を着せたので、相当血なまぐさい。


「尋ねるが、中のお前らはどうなる? お前たちまで落ちなくても、肉さえ落ちれば良いんだ」


また肉が頷いた。うんうん、と。


「もう準備はできたか?」


うん。と肉がくるりと周る。なぜか嬉しそうな様子だ。


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